地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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私の人生地味じゃない!

私の護衛

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 それから数日後、私はレイモンド様に呼び出された。「身分がわからないように軽装で」という指示があったから、私はレオンの服を借りて男の子の格好で行くことにした。途中怪訝な顔をされたけど、レイモンド様の名前を出すと慌てて通された。
 城内の彼専用の執務室に入ると、兄やガイウス様までいらっしゃる。大きな窓を背にした机の前に座るレイモンド様。その横で書類を手にしているのは兄のヴォルフ。腕組みしながら机の端に寄りかかっているのはガイウス様だ。いるだけで絵になる美形の三人は、私の髪形を見ると声を上げた。

「これは、また……偉くバッサリ切ったものだね」
「アリィ、私が城に泊まり込んでいる間に何があった?」
「短い髪も似合うけど、それにしてもよくもまあ……」

 穏やかなガイウス様まで絶句している。
 あ、やっぱりダメだった?
 この世界の貴族の女性は、長い髪がスタンダード。
 庶民でも短い髪はあまりいない。
 いたとしても、変わり者か旅芸人くらい……ってことは、私って変わり者!? 自分で切っておきながら、今になってちょっとだけ後悔したりして。
 いち早く気を取り直したレイモンド様が私に言った。

「まあ、旅に出るにはいいかもしれないね。女性だとわかれば危険も多いし。メンバーはもう一人いるけれど、用事があって後で来るから先に始めておこう」

 何を始めるんだろう?
 私が首を傾げていると、レイモンド様が続けた。


「【黒い陰】とトーマスの行方の調査に出かける前に、聞いておきたいことがある。アレキサンドラ、双月亭トゥムーンはどうだった?」

 ああ、やっぱり。
 この方があの場所を私に教えてくれたのは、わざとだったのね? 私が必ず動くとわかっていて、口にしたのだろう。親切心からだと思っていたのに、彼の計算通りに動く私はさぞかし面白い「駒」の一つに違いない。
 でも大丈夫。人に裏表があるというのは、前世でガッツリ学んでいる。落胆を表に出さず、私は冷静におかみさんとの話を告げることにした。

「先日レイモンド様に教えていただいた双月亭ですが、去年か一昨年父が立ち寄っていたそうです。宿のおかみさんが、覚えていたことを親切に教えて下さいました。私によく似た顔で、頬がこけていたとか」

 柱のキズの事は伏せておく。
 もし話したら、前世も全て明かさないといけなくなる。この人が私を利用しているように、私もまだ、レイモンド様を全面的に信用しているわけではないから。

「それで、君は何を見つけたの?」
「何のことでしょうか。他はどなたにも会っておりませんが」
「違うよ。何のことだかわかっているくせに」

 碧の目が細まって鋭くなったから、これ以上ごまかしてはいけないんだとわかる。私が訪れたことや中での様子を知っていることから、彼は彼で密偵を張り込ませていたのだと考えられる。

「ええっと、実の父に関する物や手がかりがないかと探していましたら、たまたま見た事があるような模様がありまして……」

 カタカナを発明した人ゴメンなさい。
 取りあえず、今は模様ってことにさせといて!

「見た事がある、とは?」

 矢継ぎ早に質問される。
 やはりそう来たか。
 呼び出されたのは、取り調べのためだ。
 兄とガイウス様は何も言わず、動く気配もない。

「16の誕生日を迎えた後、預けられた時に身にまとっていたおくるみを、公爵家の今の両親から見せられました。そこに、同じような模様がありました」

 嘘は言っていない。
 ただ、そこに書かれていたのはカタカナで書かれた『アイリ』という名前だけだったけれど。前世の父、トーマが名前を書いのだと思われる。双子だから海梨と共用していたのだろう。だって、こちらの世界に父と来たのは、妹のカイリの方だったんだもの。

「ふーん。それなら、後で公爵に確認してみないとね」

 どうぞ、どうぞ。
 本当のことも全部は言っていませんが、嘘も言ってません。レイモンド様は探るように私を見ると、横を向いた。

「ヴォルフ、君の意見は?」

 不安そうに兄を見たら、心配するなというようにニッコリ微笑まれた。

「おくるみの模様は、私も見たと思うのですが記憶には残っておりません。ですが、重要なことで妹が嘘を言うとは思えません。信用できるかと」

 お兄様、ありがとう。
 やっぱり優しいな。

「ヴォルフは相変わらず義妹には甘いねぇ。そうい……ああ、丁度良いところに彼が来たようだ」



 ノックの後、扉の開く音がした。
 後ろを振り向いた私の目に飛び込んで来た人は、何と義弟のレオンだった。

「遅くなって申し訳ありません」

 低い声で言うレオン。
 近衛騎士の制服を短期間で見事に着こなしている。姉バカな感想だけど。レオンは一礼すると、ツカツカと正面のレイモンド様の近くに歩み寄った。通り過ぎる時に私の顔をチラリと見て……あ、固まった。
 義弟は、レイモンド様そっちのけで私を凝視している。

「まさか……アリィ?」

 そっか。
 思いきって髪の毛切ったの言ってないもんね。レオンはずっと寮にいるから会えないし。
 クスクス笑うレイモンド様。
 レオンの反応を見て楽しんでいるのかな?

「やあ、レオン。今ちょうど、アリィちゃんの話を聞いていたところなんだよね」

 あ、レオンったらスゴく変な顔をしている。
 私の短い髪が似合ってないと思ってる? 
 褒めなくてもいいからもう少しマシな表情をして欲しい。それとも、私に会いたくなかった?
 
「ところでレオン。共に旅するにあたり、アリィちゃんの護衛役は誰に任せればいいと思う?」
「さあ。貴方が決定すれば良いことでしょう。俺には関係ありませんから」

 うわー、かなりくるなコレは。
 レイモンド様に惑わされない上手なかわし方だったけれど。「関係ない」とはっきり言われるのは、姉としてはちょっと辛い。ただのアリィとしては、もっと。
 だけど、もう泣かないって決めたから。
 そのために髪だってバッサリ切ったんだし。

「そう。じゃあ護衛役の選出は私に一任するということだね? だったらこれから、調査のための人事を発表しようかな」

 今までの話は前座でした。
 ここからが本題、ということらしい。



 トーマス=リンデル及び【黒い陰】調査団の主な役割は、以下の通り。

 リーダー 兼 座長       レイモンド
 諜報活動 兼 副座長   ヴォルフ
 破壊工作 兼 ベテラン役者  ガイウス
 護衛 兼 新人役者       レオン
 従僕              アレキサンドラ


「いや~、旅の一座っていいよね? 人数が揃ったら是非一度やってみたかったんだよね~」

 楽しそうなレイモンド様。ここにいるイケメンと私が、どうやら調査のメンバーらしい。情報集めて回るのに、そんなに目立っていいんですか?
 っていうか、ちょーっと待ったぁ。
 異議アリ!
 役に立たないのは十分わかっているんですが、って何?
 役者ですら無いんですけど……
 女優じゃないってことは、やはり色気か? 
 私に色気が無いことが原因なのか?

 みんなが盛大にため息をついている。
 レオンなんか、目に手を当てて上を向いている。
 後半、声に出てたかもしれない。

「あのね、アリィちゃん。一応男だけの旅一座ってことにしたいから、君は目立たないようにおとなしくしておいてね? そんなわけで女優はまたの機会に。慣れてきたらその内、色仕掛けでも何でも好きなことをしてもらうから」

 いや、別に。
 色仕掛けは望んでおりませんが。
 ここは頷くしかないのかな?
 兄の諜報活動は何となくわかる。
 だけど、ガイウス様が爽やかなのに破壊工作だとか、レオンが嫌いな私の護衛でいいのかとか、ツッコミ所は満載だ。まさかレイモンド様、レオンが嫌がっているからわざと私の護衛に任命したの?

「その他反論は受け付けない。出発は1週間後。リオンの立太子の式典直後に、帰る国賓の護衛を装い街を出る。調査期間は未定だが、1~2年は覚悟しておいて欲しい。各自、出発まで準備を整えておくように」

 全員がレイモンド様の言葉に首肯した。



 ――そっか。
 リオネル様は王太子になるんだ。
 もうそんな時期だったのね?
 私を好きだと言ってくれた王子様は、その日からますます手の届かない人になってしまう。彼は私の大切な幼なじみなので、もちろん祝福している。
 最後に一度会って、今までのお礼と挨拶をしておきたかったな。旅に出たら無事に帰って来られるとは限らないし、今度いつ会えるかわからないから。
 優しく素敵なリオネル様には、この国で是非幸せになって欲しい。
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