地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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私の人生地味じゃない!

悲しい選択

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「君に、特別に機会チャンスをあげよう」

 レイモンド様からそう言われたのが、今年の始め。
【黒い陰】の手がかりを知る唯一の人物、トーマス=リンデル調査の為の人手が足りないという。トーマスは隣国リンデルの王家に縁のある人物で、アリィの本当の父親だ。今の俺――レオンは、アリィのためになることなら、すぐにでも名乗りを上げたい。
 けれど、15で未成年の俺は本来なら同行は無理だ。ところが正騎士であれば、出国を許されるという。ただし、正騎士の受験資格も一番早い例で16歳から。最年少で叙任された義兄のヴォルフがこれにあたる。

「私はこれでも、君の努力と才能を買っているんだよ?」

 レイモンド様の悪魔の囁き。
 調査にはアリィ――アレキサンドラも連れて行くのだと言う。それなら是が非でも、一緒について行きたい。彼が言うには、俺は今年でどうせ16になるから最終試験を早めて正騎士に任命する。その代わり、必ず調査へ同行するように、とのこと。
 悪魔との契約の割には、条件が良いようにも思える。
 けれど――

「最終試験の相手は、私に任せて貰おう。君は、その相手を完膚なきまでに叩きのめさなければならない。相手がどんな人物でも、近衛騎士となる君が忠誠を誓うのは、王家に対してだけだからね?」

 イヤな予感がする。

「この事はもちろん、誰にも言ってはいけないよ? 破格の待遇だし、前例の無い特例中の特例だからね」

 最終試験の相手が誰か、薄々わかっていたような気がする。アリィの手紙は届かないが、父とは報告がてら時々連絡を取っていたから。レイモンドがうちに通って、誰を見て何をしていたのかも知っている。
 この話を受けてしまえば、二度と元の関係には戻れない。けれど受けなければ、彼女とは一緒にいられず、側で守る事すらできない。それならば、俺の選択はただ一つ。

「わかりました。決して手加減はしません。相手にもそのように伝えて下さい」
「じゃあ、了承したって事で準備を進めるよ? 時間が無いから、整い次第すぐに試験をするからね」
「はい。よろしくお願いします」

 こうして俺は自分の手で、彼女への想いと未来への可能性を閉ざしたのだった。



 それから十日後の夜。

「レオン、最終試験は明日の昼間。相手は君の良く知る人物だそうだ」

 エリオット様から団長室に呼ばれ、用件を聞かされた。彼はガイウス様の後任で、背が高くガッチリした体つきをしている。口数が少なく真面目だが、部下から広く慕われている。
 とうとう来たか、と思った。
 だが試験は、早ければ早いほどいい。
 その方が彼女への未練を早く断ち切れるから。
 団長室を出て自分の部屋に戻ろうとしたところ、ザックに呼び止められた。今回の事は特例で堅く口止めされているから、もちろん彼にも言っていない。

「よお、レオン。お前この頃暗いけど、更に暗くなるような悪い知らせがあるんだわ」

 何か? という顔で振り向いた。
 明日の対戦相手以上の悪い知らせは、想像もつかない。

「お前が熱心に書いて送っていた手紙とお前宛に届いていた手紙なんだけどさー。宛名や差出人が女性のものは、全部勝手に処分されていたんだと」

「は?」

「いやぁ、今日も変な連中がポスト前でこそこそしているから問い詰めたらさあ。下働きのお前のファンの女性とお前の事が好きな貴族の令嬢がグルになって、レオン宛の郵便物だけ全部抜き取っていたんだと。俺のは全く被害なし」

「ふーん」

 そうだったのか。
 俺は、アリィには嫌われていなかったのかもしれない。一通も届かない、書いても書いても返事の来ない手紙。
 確かに、ここ最近は父アドルフからの手紙だけしか見なかった。アリィの誕生日以降、彼女に嫌われたと思って落ち込んでいた俺。誤解が解けて良かった。悪い知らせというよりは、俺にとっては良い知らせだ。

 今更、どうにもならないけれど――

 明日が過ぎれば、今度こそ本当に手紙どころか心から嫌われることだろう。顔も見たくなくなるほど、怯えられてしまうかもしれない。けれど俺には、どうすることもできない。あともう一年、生まれてくるのが早ければ……。考えても仕方のないことだ。それよりも、早く部屋に戻って休もう。

「でさ、ハイ、これ。これだけが取り返せた最新の分なんだけど……。そんで、彼女らの処分どーする? 団長に言えば何とかしてくれると思うけど」

 手紙を受け取り、差出人にサッと目を走らせる。

「過ぎた事だし、もういいよ」
「え?」
「もう二度と悪さしないよう注意しておくから」
「お前、それでいいのかよ! 嫌われたって悩んでた、好きな子からの手紙だって捨てられてたかもしれないんだぞ?」
「ありがとう、ザック。お前っていいやつだな。でも、本当にもういいんだ。シンシアちゃんに教えてくれてありがとうって、よろしく言っておいてくれ」

 ザックから受け取った、アリィからの最後になるであろう手紙をヒラヒラ振って、廊下を歩き出す。

「な、何でわかった?」

 背後でザックがうなっている。
 ザックが未だに彼女に想いを残していることぐらいバレバレだ。彼女の方も、最近少しずつまともに彼と話すようになってきたみたいだし。上手くいくといいな。人のいいお前には幸せになってもらいたいよ。



 部屋に戻った俺は、待ち望んでいた手紙を開いた。
 今まで届かなかった手紙。
 俺が送った分もきっと彼女は見ていない。
 それで良かったんだと思う。
 今となっては、もうどうにもならない事だから。

『レオンへ

 元気で頑張っていますか? 何度も送っているけれど、貴方からの返事がありません。忙しいのでしょう? 返事はいいから、無理はしないでね。
 私は今日も剣術の稽古をしました。手にマメができるけれど、身体を思い切り動かすのは楽しいから、ダンスや音楽のレッスンよりも実は好きかもしれません。
 女の子らしくないと、貴方は怒るかもしれないわね? でもね、ただ守られるだけの存在は、私には合っていないように思います。私も強くなっていつか誰かの支えになりたい。貴方が貴方の好きな子を守ってあげたいように――このことは、誰にも言っていないから安心して!

 だからレオンも無理はせず、自分のペースで騎士になる夢を叶えて下さい。
 私はいつでも、あなたの味方だから。お城に行く用事があるから、近い内に会えるかも! その時が今から楽しみです。

 大好きなレオンへ 姉のアリィより』


 誰よりも愛しくて、残酷なアリィ。
 俺に好きな人がいると知りながら、それが自分の事だとは欠片も思っていないようだ。騎士になったら一番に、君に「好きだ」と伝えたかった。笑顔の君を一番近くで、ずっと守っていたかった。
 けれどどうやら、その夢は叶いそうにないみたいだ。
 明日、俺はアリィと会うよ。
 正騎士になって守るため、君の側にいるために俺は君の心を傷付ける。今までの想いも好意も全てを閉ざして戦うから。
 だから――
 これからもどうか側にいさせてほしい。
 そして決して俺を拒絶しないで。


 待ちわびていた手紙を握り締めながら、俺は何年かぶりに声を殺して泣いていた。
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