地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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私の人生地味じゃない!

私だけの秘密

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 最近何だかみんなが変だ。
 私の誕生日は明日だというのに、わざわざ先にプレゼントを渡してくれる。
 リオネル王子は金色のダイヤモンドのネックレス。
 義弟のレオンは薔薇の髪飾り。
 兄のヴォルフは一粒石のサファイアの首飾り。
 レオンは今日の昼、兄は夕方にそれぞれ贈ってくれた。

 16で成人となるのを翌日に控えて、いつもより緊張していたのは確かだ。「マナーのレッスンは今日で一旦終了ね」と母に宣言されたから、それだけは純粋にすごく嬉しかったけれど。マナー限定ってことは、他はまだまだ続くのね? と一瞬うんざりしてしまった。まあ、4年のブランクはそう簡単に埋まるものではないのかな。

 リオネル王子の突然の訪問から数日間は、手のひらにキスをされたこともあってドギマギしながら過ごしてきた。正直、レッスンよりもそちらの方に気を取られていたと思う。でも、具体的に何を言われたわけでもないから、そのままにしている。小さな頃からよく知る王子が、私のことをそんなふうに考えていただなんて――
 そんなふうってどんなふう?
 自問自答しては悶々とする日が続いた。
 もしかして……と思ったり、考え過ぎだと自分を戒めたり。リオネル様は平然としていて、その後は何事も無かったかのように振舞っていた。だから、気にし過ぎる自分がバカみたいだと思った時もある。

 王太子になる式典には私も参列する予定だ。その時、何を話せばいいのだろう?   それとも忙しくて話す時間も取れないから、この前わざわざいらして下さったの?
 夜、部屋で枕を抱きしめてうなっている私。侍女達が目撃したら、頭がおかしいと思われるかもしれない。そろそろ、違うことを考えた方が良いのかも。



 昼間はレオンに髪飾りをもらった。
 白くて大きな薔薇の花に水色のレースと羽飾りがついたものだ。上品で洗練されたデザインだから、彼が女の子と一緒に選んだものだとわかってしまった。もしかして、レオンの好きな子?   
   プレゼントをもらえて嬉しかったのに、素直に喜べない自分がいた。だって、白薔薇の花言葉は確か『私はあなたにふさわしい』。一緒に選んだ女の子がわざわざそれを選んだのだとしたら、『彼は私のものよ』って主張したかったのかもしれない。

 良かったね、レオン。あなたの気持ちは彼女にも届いているみたいよ? 
 それなのに、考えれば考えるほどモヤモヤした気持ちがわき上がってきてしまう。もしかして私、心が狭いのかな? まだ見ぬレオンの好きな子に、すでに小姑根性持っているとか?

 髪飾りに罪はないので大切にしようと決めた。
 だって、大きくなったレオンが初めて私に贈ってくれたものだから。義弟のことを考えると、私はいつでも心が温かくなる。今のレオンの背格好は、以前とは似ても似つかない。けれど、青い瞳と俺様口調は昔のままだ。それなのに、私は最近彼を見ると少しだけキュッとした気持ちを覚えるようになってきた。支える腕が頼もしくて、いい声が耳に響いて、時々知らない人のように感じる時もある。だからかなぁ。お姉さんなのにおかしいよね?



 兄には夕方、応接室に呼び出された。

「これだけは覚えておいて。私はいつでもお前の味方だから、困ったことがあれば私に頼るといい」

 そんな言葉と共に誕生日のプレゼントを贈られた。同じようなタイミングで、今日渡してくれるだなんて。ヴォルフとレオンは血が繋がっていなくても、本物の兄弟みたいだ。
 ベルベットの箱を開けると、中から出てきたのは青くて大きな石――サファイアのペンダントだった。一目で高価だとわかる品。この前、リオネル様からも希少なダイヤモンドの首飾りをいただいたばかりなのに。

 成人するって、この世界でも特別なものなのかもしれない。そういえば前世の母は「成人式で親から真珠のネックレスをもらった」と言ってたっけ。ヴォルフはきっと、保護者の一人として奮発してくれたのだろう。大好きな兄はいつでも優しく私に甘いから。最近の『妹溺愛』な点を除けば、自慢の兄だ。
 そんな彼が成人した時は、もっとしっかりしていたような。ヴォルフは元々優秀で何でも簡単にできていたから、成人を迎えても全く違和感がなかった。兄の必死になった姿って今までに見たことがないかも。


 
 夜も更けたので、考えごとは止めにしてそろそろ寝よう。ふと窓の側に行くと、レース越しに月が見えた。この世界の二つの月が今日も綺麗に輝いている。せっかくだから月を見てから寝ようと思い、バルコニーに出てみることにした。

 外に出た途端、先客に気がついた。
 その人は、隣の部屋のバルコニーの手すりに頬杖をついて、月を見ながらぼんやりと考え事をしている。サラサラの金色の髪が、白い月の光で幻想的に輝いている。寂しそうな彼を見ると、最近の私はなぜか胸が苦しくなってしまう。彼は私に気がつくと、どこか悲し気な笑みを浮かべて近づいて来た。

「ま、待って。レオン、スト~~ップ」

 手を伸ばして、近付いてくる義弟を思いっきり制止した。だって、薄着一枚の自分の恰好が急に気になってしまったから。必死に前をかき合わせ、見えないように胸の前で腕を組む。弟に対して自意識過剰だと思われても仕方がない。だって私は、突然気がついてしまったのだ。

 私はレオンを、弟として見ていない――



 頭に浮かんだ言葉に愕然がくぜんとしてしまう。
 こんなはずではなかった。
 昔から良く知るレオンを、好きな相手がいる義弟を、そんな目で見ているなんて……
   これ以上、近づいてはいけない。
 でないと、とんでもないことを口走ってしまいそうだ。

 それなのにレオンは、捨てられた子犬のような目で問いかけるようにこちらをじっと見ている。
 そんなに悲しい顔をしないで。
 切ない瞳で見つめてこないで。
 勘違いしてしまいそうになるから。
 私は貴方のお姉さんでしょう?
 貴方にはちゃんと、好きな子がいるんでしょう?
 言葉にできない問い――だけど今はまだ、彼女の名前を聞きたくないの。

 それ以上何も言えない私は、引き返して安全な自分の部屋に逃げ込もうとした。けれど、追ってきたレオンに後ろから肩を掴まれる。逃げる間もなく引き寄せられたかと思うと、後ろからギュッと抱き締められてしまった。それだけで、自分の鼓動が大きく跳ね上がるのがわかった。
   レオンはそんな私の様子に気づかずに、背後から顔を寄せると、低い声で話かけてきた。

「逃げないで聞いて。アリィに嫌われたら、どうしていいのかわからない。俺はこれからも、アリィの一番近くにいたい。そのために実力をつけて騎士になるつもりだ。だから何でも1人で抱え込まないで。何があっても俺は、絶対にアリィの味方だから……」

 耳元で響いた声に危うく腰が砕けそうになってしまった。何を言っているんだ、この弟は!   顔が熱くなって頭もよく働かない。一つだけわかったのは、「アリィの一番近くにいたい。そのために騎士になる」と言ったことだった。
 どうしてそんなことを言うんだろう。
 だったら学者になるのを諦めたのは、やっぱり私のせい? それに、好きな子のことはもういいの? 彼女への想いは、そんなに簡単に捨てられるものなの?

 どうしていいのかわからずに、その場で固まってしまった私。動揺が伝わったのか、レオンはゆっくり手を離すと最後に私の頭をポンポンと軽く叩いた。
   そんなに優しくしないで欲しい。
 気持ちの整理がつかなくなるから。
 私は軽く頷くと、急いでその場を後にした。

 

 部屋の扉を後ろ手に閉めて、詰めていた息を吐き出す。涙が滲みだした目を閉じて、こぼれないように上を向いて考える。
 今のは一体何だったんだろう。
 レオンはどうして、あんなことを言ったの?  
 彼に後ろから包まれた時の温もりが、かすかに残っているようだ。私は肩に手を置くと、自分の身体を抱きしめた。

   気づいたばかりの想い。
 けれどそれは、知られてはならない私だけの秘密。
 私は貴方の姉だから――こんな想いは、持つべきではないとわかっている。
 
 大丈夫、可愛い義弟を困らせるつもりなんてない。私は明日からも、今まで通りに振る舞えるはず。
 だからお願い。今日だけ、今だけは貴方のことを考えさせて。
 
 
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