地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

文字の大きさ
上 下
49 / 72
私の人生地味じゃない!

口に出せない想い

しおりを挟む
 気分転換にと提案した昼間の散歩で、アリィは幾分落ち着いたようだった。王子が来たことも高価なプレゼントを贈られたことも、俺には何も打ち明けてくれなかったけれど。
 ウサギのピーターは相変わらずで、人参だけをしっかり食べると、大きな体を揺らしてまたどこかへ行ってしまった。まったく、ピーターは何もわかっちゃいない。あれは明らかに食用で、料理長も「非常食だ」と言っていたのに。アリィのペットだから大事にされているのに、彼女に対して未だに愛想がない。

 この家に連れて来られた俺がアリィと打ち解けたきっかけも、ウサギ(この国ではラビットという)のピーターだった。彼女に褒められて、すごく嬉しかったことを覚えている。だが、当のピーターは育ち過ぎでふてぶてしく、いつまでたっても懐かない。可愛くないぞ、お前。
 もっともこれは俺の感想だし、同族嫌悪というやつだろうか? 『アリィの愛情で生かされている』という点においては、俺もピーターとそう変わりはないのかもしれない。

「転ぶと危ない」と無理やり理由をつけて、アリィと手を繋ぐ。それだけのことが嬉しくて、気分が浮上してしまう。庭の噴水や緑の小道も赤や黄色の花々も彼女と一緒にいるだけで、全てが色鮮やかに感じられる。こうしてずっと、アリィの隣にいられたら――
 庭のベンチに腰掛けて、懐から彼女へのプレゼントを取り出す。アリィの誕生日は明日。でも、こんなふうに二人でゆっくりできる時間が持てるかどうかはわからないから、今日渡そうと決めていた。

 俺が贈ったのは、白と水色の髪飾り。
 白く大きな薔薇の花に水色の羽根とレースの飾りがついている。
 団の用事で街に出た時に、アリィに似合うと思って買っておいたものだった。王子のように高価な物は渡せない。けれど、想いだけならあいつに負けないくらいたくさん込めたつもりだ。
 喜んでくれる君を見て、贈って良かったと嬉しくなる。アリィの笑顔を見るだけで、俺はいつだって幸せな気持ちになれるから。たまにしか会えなくても、いつでも君を想っている。
 赤みがかった金色の髪に触れ、髪飾りを留めてあげる。
 
「レオン、どうかしら。似合う?」

 はにかみながらそんなことを聞かなくても、絶対に合うとわかっていた。だって、これ、という品を選ぶのに時間をかけ過ぎたせいで、仲間のザックにそっちの趣味があるのかと疑われたくらいだ。だけど素直になれない俺は、彼女に向かってただ頷いた。

 白い薔薇の花言葉は『私はあなたにふさわしい』そして、『約束を守る』。口に出せない代わりに、メッセージを込めたつもりだ。だが、気づかなくても構わない。俺はいつかきっと、君に告白するつもりだから。

 

 その日の夜――
 壁を隔てたあちら側にはアリィがいるはずだ。
 大きくなった俺達は、小さな頃のように二人だけで部屋で過ごすことはできない。どんなに耳を澄ませても、調子はずれのあの歌は壁越しでももう聞こえなくなった。
 隣の部屋に続くのは、外のバルコニーだけ。
 扉を開けて外に出てみる。
 バルコニーから隣の部屋の窓を眺めた。
 明かりの灯るカーテンの向こうには、幼い頃から誰よりも好きな人がいる。けれど今はまだ、彼女に想いを伝えることはできない。俺はバルコニーの手すりに頬杖をつくと、夜空に浮かぶ二つの大きな月を見上げた。

 月を見ながら、ふと疑問が湧く。
 騎士になれば、君に手が届くのだろうか? 
 公爵令嬢ではなく、隣の国の王族だというアリィ。知られてしまえば連れて行かれて、もう二度と会うこともできないかもしれない。
 俺が近づこうとするたびに、君は離れていってしまう。成長すればするほど、君は俺からどんどん遠ざかっていくみたいだ。側にいるのに、あと少しというところでいつも手が届かないような気がする。
 近くて遠い存在は、輝く二つの月のよう。
 いつも一緒にいるのに、二つは決して交わらない――

 ぼんやり月を眺めていた。
 冷たく青白い月の光が、俺を照らしている。
 どうすればずっと側にいられるのか。
 君のためにできることは何なのか。
 考えれば考えるほど、答えは闇に埋もれていくようだ。

 

 そんな時――バルコニーに面した扉が開く音がした。出てきた人物を見て、嬉しくなると同時に悲しくなってしまう。アリィ、君はまだ自分の真実を知らない。明日になれば、更に手の届かない存在になってしまうのだろうか? 彼女の側に行こうとしたところで、なぜか手を突き出され、止められてしまった。 

「ま、待って。レオン、スト~~ップ」

 アリィに拒否をされてしまった。
 瞬間、何とも言えない痛みが襲う。
 昔に比べて図体がでかくなったのは、自分でもよくわかっている。弟としてでも、夜に会ってはいけないことも。だがお願いだ、俺を拒絶しないでくれ!
 訴えるように彼女を見つめる。
 アリィはなぜ、止めたのだろう?
 明日で成人するから、いけないことだと思っているのだろうか? 

 服の前を必死に合わせる彼女を見て、合点がいった。
 そうか、着ている夜着が薄いのか。
 金色のシルクの服は外に出るのに適していない。誰もいないと思って出てきたのだろう。それとも、普段は俺がいないから、いつもこんな格好でバルコニーに出ているのか?
 月の光に誘われたのだろうが、無防備にも程がある。俺だから良かったようなものの、ヴォルフや王子じゃ危ないところだ。

 真っ赤な顔で慌てて向きを変えたアリィは、自分の部屋に戻ろうとした。焦った俺は大股で近付くと彼女の肩を掴んだ。

「待って、アリィ」

 肩をグイっと自分の方に引き寄せると、彼女が恥ずかしくないように後ろから抱きすくめた。せっかくこうして会えたんだ。まだ足りない、離したくない。明日になれば運命が大きく変わり、こうやって触れることすら叶わないかもしれないのに。
 抱き締めたまま、俺はアリィの耳元に唇を寄せるとそっと囁いた。

「逃げないで聞いて。アリィに嫌われたら、どうしていいのかわからない。俺はこれからも、アリィの一番近くにいたい。そのために実力をつけて騎士になるつもりだ。だから何でも1人で抱え込まないで。何があっても俺は、絶対にアリィの味方だから……」

 本当に伝えたいのは、「好きだ」というたったひと言。けれどその想いは口に出すことができないから、代わりの言葉を囁いた。腕の中で身じろぎもしないアリィに気づいた俺は、パッと手を離すと彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。以前君がそうしてくれたように。
 怖がらせるつもりじゃなかった。
 ただどうしても、言っておきたかっただけ。

 アリィは小さく頷くと、直ぐに自分の部屋に戻ってしまった。俺の想いは少しは届いたのだろうか?
 当然答えはなく、閉まる扉の音だけが、夜の静寂しじまにむなしく響いた。

 
しおりを挟む
『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...