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私の人生地味じゃない!
だって姉だもの
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ザック様と話したことは途中からよく覚えていないけれど、直後に踊ったレオンのことはしっかり意識していた。
小さな頃とは違い背が高くなった弟。彫刻のような端整な顔はかなり上の位置にあり、見上げなければならない。重ねた手も添えられる手も大きくて、長い足でのリードは迷いがなくしっかりしている。シャンデリアの下で煌めく金色の髪は、リオネル様のものよりも少しだけ淡い。
大きくなった義弟と踊っていると、初めて出会った知らない人のような不思議な感じがする。綺麗な顔を見ていると、海のような青い瞳と目が合った。レオンの青が嬉しそうに輝く。思わずドキリとしてしまったので、慌てて笑顔を作る。
レオンったら、私を見ながら好きな子のことでも思い出しているのかしら? だって、ワルツのステップは軽やかで楽しそうだし、口角の上がった唇からはいつもの毒舌が全く出てこない。上機嫌なレオンはとても珍しく、ついじっと見てしまう。
彼のリードが上手になったのは、好きな子とたくさん踊ったせい? 目覚めて間もない私は、まだ紹介してもらってないんだけど。
レオンの好きな子ってどんな子なんだろう。
彼に似合う大人しくて優しい子なのかしら?
もしその子が小さい頃のレオンに会っていたとしたら、自分よりも可愛らしい顔にビックリしたでしょうね。私の自慢の弟は、天使の容貌だったから。
まあ彼は、今も綺麗な顔立ちでとても目立つけれど。
寂しいなんて思っちゃいけない。
ちゃんと二人を祝福してあげよう。
何たって私は、レオンのお姉さんなんだから。
「どうした? アリィ。踊りながら何を考えている?」
「えっと……レオンも随分背が高くなってがっしりしてきたし、ダンスも上手になったなぁって。それも好きな子のためなのかしら?」
何気なく言っただけなのに、義弟は耳を真っ赤にして照れている。
そうなんだ――
ザック様の言ってらした通りなのね?
レオンはその娘のことが相当好きみたい。
なかなか会えない分、その娘のためにいろいろ頑張っているんだろうな。
「何でそう思った?」
「え?」
レオンが掠れた声で私に聞いてきた。その顔は、とても真剣だ。まさか、ザック様から聞いたのだとバレた? だけど、弟本人から信頼して打ち明けられたわけではないので、ここは笑ってごまかすしかないだろうな。
「ええっと……何となく?」
「そう。じゃあアリィは、俺の好きな人が誰なのか知っている?」
ああ、やっぱりいたんだ。
本人が肯定したから、レオンに想う人がいるのは紛れもない事実。
「いいえ。私のよく知る人?」
動揺を悟られないよう、冷静な声を出す。
もしかしたら、今日来ている女友達の誰かなのかしら? イボンヌ様は婚約者がいるから違うと思うし、ダイアン様はレオンよりもかなり上。アイリス様とジュリア様は私と同い年だから一つ上で、ローザ様は一つ下になる。みんな優しくていい人達ばかりだけれど、レオンの好みは誰なのかしら?
眉を寄せて考え込む私。
その姿を見た弟は、苦笑しながら距離を縮めてきた。私の耳元に唇を寄せ、誰にも聞こえないようにそっと囁く。
「わからないならいいんだ。いつかきっと、教えてあげるから――」
それは約束。
だけどそう言った弟の顔が、悲しそうに見えたのはなぜかしら?
私の腰を支える手に一瞬力を入れた弟は、困った顔で笑った。
仕方がないわね。
言いたくないのなら、今は聞かないでおいてあげるから。姉として頼りにされていないのは、物足りない気もするけれど。
「それならレオン、応援して欲しい時はちゃんと言うのよ? 私はいつだって、あなたの味方なんだから」
姉としてカッコよく言ったつもりだった。
いざという時は頼りにして欲しかったから。
なのに弟は、何とも言えないような複雑な顔をした。レオンってば、ちょうど思春期? 好きな子を友達に言うのはいいけれど、身内に言うのは恥ずかしいから、隠しておきたいのね?
曲が終わったついでに、私はギュッと弟を抱きしめた。小さな頃によくしていたように。頑張って、という意味を込めて。
そのまま背中をトントン叩いてあげる。
大きくなっても可愛い弟。
ごめんね、大事な時に側にいてあげられなくて。
だけどあっさり肩を掴まれ引きはがされてしまった。困ったように目を伏せるレオン――
そうだった! ここは大広間。姉弟のスキンシップをはかる場所ではなかった。
だからかな? 耳まで赤くなったレオンが、そそくさと私から離れていってしまったのは。レオンってば、姉と仲良くしているところをみんなに見られるのが、やっぱり恥ずかしいのね?
結果として、仮装パーティーは大成功!
みんなも口々に楽しかったと言ってくれたし、夜のガールズトークでは誰の衣装が一番良かったかで盛り上がった。
『魔王』と『海賊』が人気が高く、『騎士』は仮装じゃないとの声が。『魔導師』は今後に期待で、『吟遊詩人』よりも『剣闘士』の方が合っていたんじゃないかという意見が出た。うん、なるほどね。ガイウス様ならそっちの方がイメージに合うだろうな。
私はさりげなく、この中にレオンの好きな相手がいないかと探ってみた。私の眠っている間に、弟と会っていた人がいないかどうか。今日、レオンとたくさん踊った相手は誰なのか聞いてみる事にした。
でも残念ながら、結局わからなかった。
だって、弟はみんなにバレるのが嫌なせいか、全員と一回ずつ踊っていたとのこと。特別な話をしたり、二人きりになった子はこの中にはいないそうだ。それなら好きな相手はよその人? もしかしたらレオンは、好きな娘にまだ告白していないのかも。それなら彼の片想い? 気になるけれど、今はそっとして見守ってあげよう。だって私は、彼のお姉さんだもの。
窮屈な衣装より寝衣の方がくつろげる。
4年前の楽しい夜の再現が、もう一度我が家でできるなんて思わなかった。以前はこの数日後、黒い陰に囚われてしまった。そのせいで私もアイリス様も、お互いに遠慮をするようになってしまった。
だけど今日からはもう平気!
一緒に楽しい時間を過ごせたし、女の子同士で話す夜はまだまだ長い。優しい世界の女子の友情は、変わらなかった。
ああ、そうか。
母がパーティーを企画してくれたのは、私やアイリス様の悪い思い出を払拭するためだったの? ああ見えて母は策士で、頭が良いから。
今日はとても幸せだった。
もうすぐ私の誕生日。
成人しても変わらずに、こんな素敵な時間をみんなと過ごせたらいいのにな。
小さな頃とは違い背が高くなった弟。彫刻のような端整な顔はかなり上の位置にあり、見上げなければならない。重ねた手も添えられる手も大きくて、長い足でのリードは迷いがなくしっかりしている。シャンデリアの下で煌めく金色の髪は、リオネル様のものよりも少しだけ淡い。
大きくなった義弟と踊っていると、初めて出会った知らない人のような不思議な感じがする。綺麗な顔を見ていると、海のような青い瞳と目が合った。レオンの青が嬉しそうに輝く。思わずドキリとしてしまったので、慌てて笑顔を作る。
レオンったら、私を見ながら好きな子のことでも思い出しているのかしら? だって、ワルツのステップは軽やかで楽しそうだし、口角の上がった唇からはいつもの毒舌が全く出てこない。上機嫌なレオンはとても珍しく、ついじっと見てしまう。
彼のリードが上手になったのは、好きな子とたくさん踊ったせい? 目覚めて間もない私は、まだ紹介してもらってないんだけど。
レオンの好きな子ってどんな子なんだろう。
彼に似合う大人しくて優しい子なのかしら?
もしその子が小さい頃のレオンに会っていたとしたら、自分よりも可愛らしい顔にビックリしたでしょうね。私の自慢の弟は、天使の容貌だったから。
まあ彼は、今も綺麗な顔立ちでとても目立つけれど。
寂しいなんて思っちゃいけない。
ちゃんと二人を祝福してあげよう。
何たって私は、レオンのお姉さんなんだから。
「どうした? アリィ。踊りながら何を考えている?」
「えっと……レオンも随分背が高くなってがっしりしてきたし、ダンスも上手になったなぁって。それも好きな子のためなのかしら?」
何気なく言っただけなのに、義弟は耳を真っ赤にして照れている。
そうなんだ――
ザック様の言ってらした通りなのね?
レオンはその娘のことが相当好きみたい。
なかなか会えない分、その娘のためにいろいろ頑張っているんだろうな。
「何でそう思った?」
「え?」
レオンが掠れた声で私に聞いてきた。その顔は、とても真剣だ。まさか、ザック様から聞いたのだとバレた? だけど、弟本人から信頼して打ち明けられたわけではないので、ここは笑ってごまかすしかないだろうな。
「ええっと……何となく?」
「そう。じゃあアリィは、俺の好きな人が誰なのか知っている?」
ああ、やっぱりいたんだ。
本人が肯定したから、レオンに想う人がいるのは紛れもない事実。
「いいえ。私のよく知る人?」
動揺を悟られないよう、冷静な声を出す。
もしかしたら、今日来ている女友達の誰かなのかしら? イボンヌ様は婚約者がいるから違うと思うし、ダイアン様はレオンよりもかなり上。アイリス様とジュリア様は私と同い年だから一つ上で、ローザ様は一つ下になる。みんな優しくていい人達ばかりだけれど、レオンの好みは誰なのかしら?
眉を寄せて考え込む私。
その姿を見た弟は、苦笑しながら距離を縮めてきた。私の耳元に唇を寄せ、誰にも聞こえないようにそっと囁く。
「わからないならいいんだ。いつかきっと、教えてあげるから――」
それは約束。
だけどそう言った弟の顔が、悲しそうに見えたのはなぜかしら?
私の腰を支える手に一瞬力を入れた弟は、困った顔で笑った。
仕方がないわね。
言いたくないのなら、今は聞かないでおいてあげるから。姉として頼りにされていないのは、物足りない気もするけれど。
「それならレオン、応援して欲しい時はちゃんと言うのよ? 私はいつだって、あなたの味方なんだから」
姉としてカッコよく言ったつもりだった。
いざという時は頼りにして欲しかったから。
なのに弟は、何とも言えないような複雑な顔をした。レオンってば、ちょうど思春期? 好きな子を友達に言うのはいいけれど、身内に言うのは恥ずかしいから、隠しておきたいのね?
曲が終わったついでに、私はギュッと弟を抱きしめた。小さな頃によくしていたように。頑張って、という意味を込めて。
そのまま背中をトントン叩いてあげる。
大きくなっても可愛い弟。
ごめんね、大事な時に側にいてあげられなくて。
だけどあっさり肩を掴まれ引きはがされてしまった。困ったように目を伏せるレオン――
そうだった! ここは大広間。姉弟のスキンシップをはかる場所ではなかった。
だからかな? 耳まで赤くなったレオンが、そそくさと私から離れていってしまったのは。レオンってば、姉と仲良くしているところをみんなに見られるのが、やっぱり恥ずかしいのね?
結果として、仮装パーティーは大成功!
みんなも口々に楽しかったと言ってくれたし、夜のガールズトークでは誰の衣装が一番良かったかで盛り上がった。
『魔王』と『海賊』が人気が高く、『騎士』は仮装じゃないとの声が。『魔導師』は今後に期待で、『吟遊詩人』よりも『剣闘士』の方が合っていたんじゃないかという意見が出た。うん、なるほどね。ガイウス様ならそっちの方がイメージに合うだろうな。
私はさりげなく、この中にレオンの好きな相手がいないかと探ってみた。私の眠っている間に、弟と会っていた人がいないかどうか。今日、レオンとたくさん踊った相手は誰なのか聞いてみる事にした。
でも残念ながら、結局わからなかった。
だって、弟はみんなにバレるのが嫌なせいか、全員と一回ずつ踊っていたとのこと。特別な話をしたり、二人きりになった子はこの中にはいないそうだ。それなら好きな相手はよその人? もしかしたらレオンは、好きな娘にまだ告白していないのかも。それなら彼の片想い? 気になるけれど、今はそっとして見守ってあげよう。だって私は、彼のお姉さんだもの。
窮屈な衣装より寝衣の方がくつろげる。
4年前の楽しい夜の再現が、もう一度我が家でできるなんて思わなかった。以前はこの数日後、黒い陰に囚われてしまった。そのせいで私もアイリス様も、お互いに遠慮をするようになってしまった。
だけど今日からはもう平気!
一緒に楽しい時間を過ごせたし、女の子同士で話す夜はまだまだ長い。優しい世界の女子の友情は、変わらなかった。
ああ、そうか。
母がパーティーを企画してくれたのは、私やアイリス様の悪い思い出を払拭するためだったの? ああ見えて母は策士で、頭が良いから。
今日はとても幸せだった。
もうすぐ私の誕生日。
成人しても変わらずに、こんな素敵な時間をみんなと過ごせたらいいのにな。
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『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
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