地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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私の人生地味じゃない!

アレキサンドラの真実

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 ヴォルフを呼び出してから数週間後のこと。
 私――レイモンドはアレキサンドラ嬢のことで事実確認をするために、元宰相で現在王室の最高顧問アドルフ=グリエール公爵を情報局の執務室に呼び出していた。グリエール公爵とは言うまでも無く、ヴォルフとアレキサンドラとレオンの父親である。
 この場所は普段隠されているため、一握りの者にしか知られていない。

「公爵に確認したいことがある」

「息子から大体の話は聞いております。我が娘アレキサンドラの事でしょう?」

「そう。彼女の出生と貴方の親友であるトマス=リンドとの関係について教えてもらいたい」

「短期間にそこまで調べられましたか。さすがはレイモンド様ですね」

 公爵の賛辞に首を横に振る。
 まだ、肝心なことはわかっていない。

「いや、大したことはない。アレキサンドラ嬢があなた方に預けられた理由と彼女の本当の年齢がわからない」

 流石に【我が国の名宰相】と謳われたアドルフを論破することはできないから、正直にこちらの疑問をぶつけてみた。

「何をおっしゃっているのか。アレキサンドラは見たままの年齢。もう直ぐ16になりますが、12の歳から4年の記憶が無いので精神年齢は12歳でしょう」

 とても12歳とは思えない。
 根拠はないけれど、他人から鋭いと言われる勘ならある。

「教えていただけないのなら、先に貴方の親友であったトマスについて聞きたい。彼は我が国の『王立学院』へ留学生として来ていたんだったね」

『ゲラン王立学院』とは我が国最高峰の教育機関で、官僚と優秀な人材育成のための学校だ。身分に関係なく、超難関の選抜試験を通過した者だけが入学できる。

「はい。私とトマスと妻のマリアンヌは同じ時期に学院にいて、成績を競い合っていました」

 公爵はそう言って、当時を懐かしむような遠い目をした。

「その時には身分を隠していたものの、隣国を訪問した際、君はトマスが王族だと知った。トマス=リンドはトーマス=リンデルだね?」

「はい。私も現役時代は国外に出る機会が何度もありましたから。隣国リンデルの王宮内で彼が王族だと紹介された時、違和感よりも『あぁ、やはり』と納得する気持ちの方が強かったように思います。彼は学院内でもとても優秀でしたから」

「彼が魔導に長けていたのも君は知っていた?」

「ええ。彼の国では王族により強い力が宿ると言われています。学生時代、何度か軽い魔導を見せてもらいました。卒業して再会してからはより強い魔導を。彼が得意としていたのは、錬金術のようなものだったと記憶しています。交渉後、我が国に魔導士を紹介してくれたのも彼です」

「だが、トーマスはその強大な魔力のせいで王位継承権から外れていたよね?」

「いえ、魔力のせいというよりも、彼は始めから王位や権力に興味はありませんでした。元々穏やかな性格でしたので。目立たず普通に暮らしたい、というのが彼の口癖でした」

 私が思い描いたトーマス=リンデル像とはだいぶ異なる。公爵はさらに、驚くべき事を語り出した。



「ある時、魔導王国リンデルで前代未聞の爆発が起こり、大量の魔力が流出したそうです。原因は不明。魔導研究所が跡形も無く吹き飛び、敷地には巨大な穴が空き、周囲も黒焦げになって関係者の生存は絶望視されました」

「聞いた事がある。だいぶ前の話だよね?」

「まだ貴方が小さい頃の話でしょう。そして、その関係者の中にはトマスも含まれていました」

 その話は初耳だった。
 研究所に王族のトマスがいたという事実は、上手く隠されていたようだ。

「続けて」

「何年も経ったある日、以前とは全く異なった姿でトマスはひょっこり自国に戻って来たそうです。手に赤子を抱いて」

「それが、アレキサンドラちゃんだと?」

「私が聞いた限りではそうです。彼はその子を自分の子だと、双子の妹の方だと言いました」

「双子の片割れはどこに? それまでどこにいたと?」

「それ以上は何も。母親である女性の事もわかりません。ただ、いつか取り戻しに行くと言っておりました。それ以来、彼の消息は不明で足取りも掴めておりません」

「取り戻しに行くために、君達に預けたと?」

「私はそう理解しております。ヴォルフには詳しい話をしていなかったため、多少の相違があります。私達の子として大切に育てていましたが、アレキサンドラは大切な預かりもの。16歳になったら真実を伝え、本人が望めばトーマスの所に戻そうと妻とも話しておりました」

「リンデル王室はそのことは?」

「知らないと思います。トマス自身話す気も無かったでしょう。爆発事件の当事者は全員死亡したと伝えられていたし、彼は王族の名を捨てたがっていましたから」


 話を整理しよう。
 つまり、アレキサンドラ嬢はリンデル王室の血を引くトーマス=リンデルの実子で双子の妹さん。実の母親は双子の姉と共にどこかに居て、トーマスはその二人を取り戻そうとしている。その為に学院時代の親友であるアドルフとマリアンヌに娘を預け、15年ほど前から消息不明。

「父親に魔力があるなら、アレキサンドラちゃんも魔力持ち?」

「いいえ。以前、我が国の魔導院に連れて行った時は全く計測できませんでした。今までも変わった事はありませんでしたから、恐らく魔力は無いでしょう。ただ……」

「ただ?」

「もうすぐ3歳になろうかという時に死にかけました。生存が絶望視されていて脈も鼓動も一旦停止しました。その時に、光を見たような気がします」

「光?」

「はい。光が娘の身体に入ると、再び目覚めました。しかし今回とは違い、あの時は完全に鼓動が止まっていました。もし魔力があったのだとしても、その時に全て使い切ってしまったのではないかと思います」

「無意識に蘇生したと? にわかには信じられないが……。いや、大変な話を聞かせてくれてありがとう」

「いえ、疑問が少しでも解消できたのなら光栄です」

   こちらから聞かなければ、話すつもりもなかったくせに。相変わらず食えない男だ。

「ところで、この前のパーティーは済まなかったね。せっかくマリアンヌにお誘いいただいたのに、仕事が立て込んでいて行けなかった」

 主にこの調査の所為だが。

「いえ、内輪の子ども達のための仮装パーティーでしたから。こちらこそ、お忙しいのにお招きしてすみません」

「それは構わないよ。行くかどうかは自分で選べるからね。ところで、確かあと一ヶ月程でアレキサンドラちゃんの16歳の誕生日だよね?」

「妻のマリアンヌとヴォルフとも話してみます。レオンにも話をしなければ……。少し考える時間を下さい。誕生会を開くかどうかも決定していないので、正式な招待はその後で」

「察しが良くて助かるよ。もちろん、別の機会でも構わないよ?」

「出生の秘密を知るまであと少しですし、まだ時々調子が悪くなるようです。親としては、子ども時代の残りの日々を穏やかに過ごさせてあげたい」

「そうだね。自分の生い立ちを知った時、彼女がショックを受けないといいけどね」

 私もそんなに不粋ではないから、了承の意味を込めて頷き、公爵に退室を促した。
 女性には優しくしないといけない。今まで愛されて育ってきた分、真実は彼女にとって酷だろう。



   公爵が部屋から出た後、熟考しようと革張りの大きな椅子にもたれる。彼の話は、私の推測を上回るものだった。今後の方針を決めかねて目を閉じる。

「あともう少しで、何かが掴めそうなんだけどなぁ」

 瞼に手を当て目をこする。
 私はそのまま、アレキサンドラの運命に思いを馳せた。
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