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私の人生地味じゃない!
仮装パーティー2
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けれど楽団の演奏が始まった途端、『魔王』はこちらに駆け寄って真っ先にダンスを申し込んできた。
「アレキサンドラ嬢、最初の1曲を私と踊っていただけますか?」
げ、仮面しててもやっぱりバレてた。
「はい、リオネル様、喜んで」
4年前のパジャマパーティーの時に王子はいらっしゃらなかったから、彼と踊るのは本当に久しぶり。幼なじみだけど成人した彼と踊るのは初めてなので、少し恥ずかしい感じがする。仮面で顔が隠れていて良かった。今の私は、照れてきっと赤くなっているに違いない。
差し出された手を取って、静かにステップを踏む。裾が狭くて殆ど動けないドレスだけど、王子様が上手くリードしてくれるから踊りやすい。腰に添えられている手が、すご~く気になるけれど。
今日のリオネル様は『魔王』の衣装のためか、前髪部分に黒のウィッグを付けている。黒い2本の角を生やし肩幅の広い大きな黒いマントをお召しだ。踊る度に赤と黒と金の衣装がチラ見えするのもカッコいい。
リオネル様なら大天使の衣装も似合うだろうけれど、凄味を増した壮絶な美貌が黒に映えてこれはこれですごくいい。
「こんな魔王様に誘惑されたら、人間なんてひとたまりもないですわね?」
「誘惑するのはアレクだけでいいよ」
顔をぐっと近付けて甘い声で囁いてきた。
頬がカッと熱くなる。
リオネル様ったら、いつの間にこんなたらしテクを覚えたの? 保健の時間? それとも甥っ子だからレイモンド様に指導されたのだろうか。
握った手と腰に添えられた手に力が入り、更に引き寄せられる。
「大人になったら一番に、君とこうして踊りたいと思っていたんだ」
ん? 幼なじみだし、ずっと前から一緒に踊っていましたけど。もしや、マナーレッスンで上手になった私と踊りたかったってことかしら。それとも今まで身長差があったから、踊りにくいのを我慢してたってこと?
ああそうか。リオネル様は先日既に成人したから、一足早く大人になった自分を私に自慢したかったのかもしれない。
「光栄ですわ」
返答に困った時にはとりあえずこう言って微笑むように、って教わっていて助かった。私とは以前からの知り合いなのに、急に積極的になるって変だし。そういえばリオネル様は、先ほどワインのグラスを持っていらした。顔色は変わらないようだけど、実はお酒に弱いのかもしれない。
話しているうちに曲が終わった。
もう1曲? と思っていたら、横から兄が出てきてこう言った。
「パートナー交代です、王子。みんなが貴方と踊りたがっています。成人した王子が婚約もしていない未婚の女性と続けて踊る事はあり得ません」
あー、確かそうだった。
さすがは兄様! マナーも完璧だ。
リオネル様が悔しがるような素振りをした気もするけれど、きっと気のせいでしょう。何たって私達、ただの幼なじみだし。
結局、お兄様がそのまま入れ代わって下さった。リオネル様はすぐにジュリア様に捕まっている。
兄と私は『海賊と人魚』だから、あとはピーターパンがいたら完璧なのに。そんな事を考えていたら、注意をされた。
「ダンス中にパートナー以外の事を考えてはいけないよ?」
ヴォルフは笑みを含んだ目でこちらを見ている。私も当然微笑み返した。
「すみません、お兄様。ところで、最近のお兄様は妹を甘やかし過ぎですわよ?」
「もしも妹でなかったら、もっと甘やかしても良いってことかな?」
「その言葉、お兄様のファンクラブの方に聞かれたくありません。だって私、八つ裂きにされるの嫌ですもの」
「ハハハッ」
ヴォルフが珍しく声をあげて笑う。
そのせいで変に注目を集めてしまった。
ごめん、みんなの邪魔して。
正直な気持ちで、別に面白いことは言ってないんだけど。
*****
「お前の姉ちゃんスゲーな。ヴォルフ様って微笑むだけでもレアなのに。声を出して笑わせるなんて、尊敬するわ」
猫の格好のローザ嬢と踊りながら、ザックが俺に話しかけてくる。
うるさい! 他の奴と楽しそうに踊るアリィなんて、たとえ兄でも見たくない。一緒に踊るイボンヌ嬢には悪いけれど、俺は今完全に無表情だ。
「あら、ヴォルフ様は以前からアリィ様とは仲がよろしかったわよ? もちろん弟君ともね」
そう言って艶やかに笑う王妃の格好をしたイボンヌ嬢。その言葉を猫のローザ嬢が肯定した。
「そーだよ。アリィちゃんトコ家族みんな仲いいもん。アリィちゃん可愛いし」
「そっかぁ? 可愛いっていうより綺麗だって言った方がしっくりくるけどなぁ。俺ん家の妹はただ生意気なだけだぜ?」
「えー、妹さんいくつ?」
「15だから、レオンと同い年かな?」
ザックが答える。
「そう。まだまだ子供なのね」
まあ、婚約者もいる貴女から見ればそうだろう。
「え~、イボンヌ様がおばさんなんだよ」
「何ですってー!!」
ああ、うるさい。
喧嘩なら他所でやって欲しい。
人数が少ないからパートナーを代えてもすぐに終わる。だけどアリィは次々申し込まれるから、なかなか機会が回ってこない。今もガイウス様と楽しそうに踊っている。
まったく、あの衣装は目立ち過ぎだろ。
身体に沿ったドレスは、アリィのスタイルの良さを際立たせている。レースで隠れているとはいえ、胸も背中も肌色が見えているから却って想像をかきたてられてしまう。王子もヴォルフもガイウスも、みんなアリィに近づき過ぎだ! 同じかそれ以上に肌が出ているダイアン嬢やジュリア嬢は見てもまったく気にならないのに。アリィだけが俺の特別、視線はいつでも彼女を追ってしまう。
曲が終わった途端にまた申し込むって……王子、二度目って何だよ! 俺もザックもまだ一度も踊っていないぞ?
「ザック行こう! 姉にちゃんと紹介する」
「え? いいのか?」
ザックには悪いが王子をこれ以上アリィに近づけないために、お前には犠牲になってもらおう。
「アレキサンドラ嬢、最初の1曲を私と踊っていただけますか?」
げ、仮面しててもやっぱりバレてた。
「はい、リオネル様、喜んで」
4年前のパジャマパーティーの時に王子はいらっしゃらなかったから、彼と踊るのは本当に久しぶり。幼なじみだけど成人した彼と踊るのは初めてなので、少し恥ずかしい感じがする。仮面で顔が隠れていて良かった。今の私は、照れてきっと赤くなっているに違いない。
差し出された手を取って、静かにステップを踏む。裾が狭くて殆ど動けないドレスだけど、王子様が上手くリードしてくれるから踊りやすい。腰に添えられている手が、すご~く気になるけれど。
今日のリオネル様は『魔王』の衣装のためか、前髪部分に黒のウィッグを付けている。黒い2本の角を生やし肩幅の広い大きな黒いマントをお召しだ。踊る度に赤と黒と金の衣装がチラ見えするのもカッコいい。
リオネル様なら大天使の衣装も似合うだろうけれど、凄味を増した壮絶な美貌が黒に映えてこれはこれですごくいい。
「こんな魔王様に誘惑されたら、人間なんてひとたまりもないですわね?」
「誘惑するのはアレクだけでいいよ」
顔をぐっと近付けて甘い声で囁いてきた。
頬がカッと熱くなる。
リオネル様ったら、いつの間にこんなたらしテクを覚えたの? 保健の時間? それとも甥っ子だからレイモンド様に指導されたのだろうか。
握った手と腰に添えられた手に力が入り、更に引き寄せられる。
「大人になったら一番に、君とこうして踊りたいと思っていたんだ」
ん? 幼なじみだし、ずっと前から一緒に踊っていましたけど。もしや、マナーレッスンで上手になった私と踊りたかったってことかしら。それとも今まで身長差があったから、踊りにくいのを我慢してたってこと?
ああそうか。リオネル様は先日既に成人したから、一足早く大人になった自分を私に自慢したかったのかもしれない。
「光栄ですわ」
返答に困った時にはとりあえずこう言って微笑むように、って教わっていて助かった。私とは以前からの知り合いなのに、急に積極的になるって変だし。そういえばリオネル様は、先ほどワインのグラスを持っていらした。顔色は変わらないようだけど、実はお酒に弱いのかもしれない。
話しているうちに曲が終わった。
もう1曲? と思っていたら、横から兄が出てきてこう言った。
「パートナー交代です、王子。みんなが貴方と踊りたがっています。成人した王子が婚約もしていない未婚の女性と続けて踊る事はあり得ません」
あー、確かそうだった。
さすがは兄様! マナーも完璧だ。
リオネル様が悔しがるような素振りをした気もするけれど、きっと気のせいでしょう。何たって私達、ただの幼なじみだし。
結局、お兄様がそのまま入れ代わって下さった。リオネル様はすぐにジュリア様に捕まっている。
兄と私は『海賊と人魚』だから、あとはピーターパンがいたら完璧なのに。そんな事を考えていたら、注意をされた。
「ダンス中にパートナー以外の事を考えてはいけないよ?」
ヴォルフは笑みを含んだ目でこちらを見ている。私も当然微笑み返した。
「すみません、お兄様。ところで、最近のお兄様は妹を甘やかし過ぎですわよ?」
「もしも妹でなかったら、もっと甘やかしても良いってことかな?」
「その言葉、お兄様のファンクラブの方に聞かれたくありません。だって私、八つ裂きにされるの嫌ですもの」
「ハハハッ」
ヴォルフが珍しく声をあげて笑う。
そのせいで変に注目を集めてしまった。
ごめん、みんなの邪魔して。
正直な気持ちで、別に面白いことは言ってないんだけど。
*****
「お前の姉ちゃんスゲーな。ヴォルフ様って微笑むだけでもレアなのに。声を出して笑わせるなんて、尊敬するわ」
猫の格好のローザ嬢と踊りながら、ザックが俺に話しかけてくる。
うるさい! 他の奴と楽しそうに踊るアリィなんて、たとえ兄でも見たくない。一緒に踊るイボンヌ嬢には悪いけれど、俺は今完全に無表情だ。
「あら、ヴォルフ様は以前からアリィ様とは仲がよろしかったわよ? もちろん弟君ともね」
そう言って艶やかに笑う王妃の格好をしたイボンヌ嬢。その言葉を猫のローザ嬢が肯定した。
「そーだよ。アリィちゃんトコ家族みんな仲いいもん。アリィちゃん可愛いし」
「そっかぁ? 可愛いっていうより綺麗だって言った方がしっくりくるけどなぁ。俺ん家の妹はただ生意気なだけだぜ?」
「えー、妹さんいくつ?」
「15だから、レオンと同い年かな?」
ザックが答える。
「そう。まだまだ子供なのね」
まあ、婚約者もいる貴女から見ればそうだろう。
「え~、イボンヌ様がおばさんなんだよ」
「何ですってー!!」
ああ、うるさい。
喧嘩なら他所でやって欲しい。
人数が少ないからパートナーを代えてもすぐに終わる。だけどアリィは次々申し込まれるから、なかなか機会が回ってこない。今もガイウス様と楽しそうに踊っている。
まったく、あの衣装は目立ち過ぎだろ。
身体に沿ったドレスは、アリィのスタイルの良さを際立たせている。レースで隠れているとはいえ、胸も背中も肌色が見えているから却って想像をかきたてられてしまう。王子もヴォルフもガイウスも、みんなアリィに近づき過ぎだ! 同じかそれ以上に肌が出ているダイアン嬢やジュリア嬢は見てもまったく気にならないのに。アリィだけが俺の特別、視線はいつでも彼女を追ってしまう。
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『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
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