地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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私の人生地味じゃない!

仮装パーティー3

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『吟遊詩人改:アポロン』のガイウス様の巧みな話術で、彼と踊るのは本当に楽しかった。ご自分の騎士見習い時代の失敗談をあれこれ楽しく聞かせて下さったから。彼が兄と親友で、レオンの上司で良かった。これなら安心して弟を任せられる。

 動きにくい衣装で3曲続けて踊ったから、ちょっと足が疲れてきた。男性陣はみんなリードが上手だったから、お母様が「マナーの授業のおさらい」と言った意味がよくわかる気がした。
 それにしても、たかが私のご褒美パーティーのために王子様や王弟様――は来られなかったけど、までぼうとするなんて、お母様どんだけ図々しいの?
 曲が終わって『魔王』の王子様にもう一度ダンスを申し込まれたけれど、やんわり断った。

「私ばかりがリオネル様を独占するわけにはまいりません。脚も疲れましたし、お腹が空きましたので」

 マナーとしてはなっていないけど、嘘は言っていない。だってまだ何も食べていないし、新作デザートが気になるんだもの。断ったのに嫌な顔一つしない優しい王子様は、ビュッフェの所まで付き添ってくれた。
 あともう少し、と思ったら行く手を『魔導士』に阻まれる。

「あの、俺、さっきお話させていただいたザックです。後でいいので一曲踊っていただけませんか?」

 すぐ後ろから来た『騎士』を見て、レオンがここまで連れて来たのだとわかる。話しかけて来たのはザック様なのに、なぜか王子とレオンの間に火花が散っている気がする。

「ええ、もちろん。でもその前にシェフ自慢の料理を味わいたいのですが。ご一緒にいかが?」

 誰が何と言おうと、腹ごしらえは大事!
 シェフの新作デザートを逃すわけにはいかない。
 そうこうしていると、横から『月の女神』ダイアン様がレオンに声をかけ……たけど片手を挙げて断られたので、ザック様を連れて行った。
 結局私は幼なじみと弟に挟まれて、料理を堪能する事となった。正体既にバレてるし、食べるのに邪魔になるから仮面は外してテーブルに置く。邪魔だったのか、私以外のみんなはもうとっくに外していた。


 これこれ! このカボチャのコロッケが食べたかったの。ほど良く焼けたズッキーニ入りのグラタンも美味しそう! デザートはもちろん、ショコラとフランボワーズのムース! それから、プティガトーとタルトタタンと……
 あれこれ目移りしている私のお皿を、リオネル様が笑って持って下さっている。一方反対側のレオンは自分の分と私の分まで飲み物を受け取って持ってくれている。端から見たら、『魔王』と『騎士』を従える『悪い人魚』のようだ。

 私が食事を頬張っていると、『花の妖精』アイリス様がいらした。仲直りしたばかりとはいえ、ご自分から来て下さるなんてとても嬉しい。お喋りしながら仲良く料理をつまんでいたけど、彼女の興味は『魔王』様にあるみたい。私と話しながら、チラチラと王子の様子をうかがっている。
 
 任せて! こういう時の女友達でしょう?
 リオン様に幼なじみパワーを発揮して、アイリス様を引き渡す。事件の後、彼女が領地にひきこもっていたのを知っていたのか、王子様は苦笑しながらもすぐにダンスに連れ出して下さった。彼はやっぱり紳士だし、頬を染めたアイリス様も可愛いらしい。



 満足気に二人を見送っていたら、レオンが話しかけてきた。

「あのさー、前から思ってたんだけど。アリィってあんまり男心をわかってないよね」

 またもや、ダメ出し!?
 今日のレオンは口を開けば意地悪ばかりを言ってくる。
 これは、あれか?
 この前感動の再会を果たしてようやく寮に戻れたと思ったら、お母様プロデューサーの悪巧みですぐに家に引き戻されたから? だから家族の中で一番弱そうな姉に対して八つ当たりをしてるとか。それとも未だに反抗期?
 ついこの前まで病人で、甘やかされるのに慣れていた私。弟が急に冷たくなってしまった理由がわからず思わずウルっとしてしまった。そのまま彼を見上げていると、急に赤くなったレオンが言う。

「うわ、バカ、その顔止めろよ。俺がイジメてるみたいだし。くそ、どーすりゃ良いんだよ」

 口に手を当てたレオンが、反対の手で慌てて私の腕を掴んでそのまま外のテラスへ引っ張って行く。気付けばとっくに夜になっていて、空にはやっぱり二つの月。この前月を見た時の弟は、もう少し優しくしてくれたのに……と思ったらまた泣けてきた。

 温暖な気候とはいえ夜は少し冷える。
 薄いドレスの私が震えると、レオンが自分の上着を脱いで着せかけてくれた。手を放さずにそのまま温めるように上からハグしてきた。彼は私の頭に顎を乗せると、ため息とともに低い声を出した。

「ねぇアリィ、聞いて欲しい。4年は長い――眠っている間に中身は変わらなくても、外見は大きく変わっているんだ。綺麗になったアリィを男は当然放っておかない。無防備で危なっかしいから、もっと自分の魅力を自覚して気をつけた方がいいよ」

 何を言い出すかと思えば、何だそりゃ?
 そんなセリフを切ない声で言うなんて。
 弟でなければ、何だか愛の告白みたい。
 私がのんきに眠っている間になんだか成長しちゃって。すっかり大人になったのねぇ、レオンは。

 そこで、ふと思い出す。
 ハッそうか。お母様が、レオンは既に大人の保健体育終わったって言っていた。ローザちゃん以外周りのみんなも終わってるんだった。今更ながら、恥ずかしい。
 周りはみんな男女の機微を知っていて、成人している大人なんだ。社交界デビューってこういうこと? 含みを持たせた大人の会話ができなきゃいけないの? だからお母様は私に練習させたがったのかしら?
 悩んでいたら、レオンが私に声をかけた。
 とても優しい声で。

「パーティーももうすぐ終わるから、そろそろ中に戻ろう」

 自分の上着を私にかけたまま、腰に手を添え中へ入るよう促してきた。レオン、頼りない姉でゴメンね。誕生日が過ぎたら、もう少ししっかりするよう努力するから。



 大広間に戻ると、ザック様が待ち構えていた。

「踊って下さるって言うから、期待してずっとお待ちしていましたよ」

 ワインのグラスを持ちながら、いい笑顔で言ってくる。室内に戻ったので、先ほど借りた上着をレオンに返す。探るような青い瞳と一瞬だけ目が合った。
 心配しなくても、大丈夫よ。
 近づき過ぎなければ良いんでしょう?
 まったく、心配性なんだから――
 口元に微笑を浮かべ、私はザック様と踊った。
 今日初めてお会いしたザック様。
 共通の話題がレオンしかないので、自然と彼の話になる。

「いやー、レオンにこんなに綺麗なお姉さんがいるって知りませんでした。この前彼が休暇を取ったのも、お姉さんがご病気から回復されたからだとか。華奢だしお身体弱いんですねー」

 レオンの注意を思い出し、身体が近付き過ぎないように気をつけて距離を取る。そのことに気を取られていたせいで、ザック様の次の言葉を一瞬聞き逃してしまった。

「……って言ってあいつが笑うんですよ。よっぽど好きなんですかね~、彼女のこと」

「え? 彼女ってレオンの?」

「あれ、お姉さんには言ってなかったんですか? しまった。まあ、仲良いみたいだから言っても多分大丈夫ですよね? あいつは、好きな人がいるけどなかなか手が届かない、相当努力しないと会えない、みたいな事言ってましたよ?   でも、お姉さんより綺麗な人ってなかなかいないと思うんですけどねー」

 レオンに好きな子がいたと知り、何だかショックだ。笑みを張り付けたまま機械的に手足を動かし、思考の海に沈む。

 私は聞いていなかった。
 そうじゃないか、と考えた事はあったけれど。実際に聞くと、置いていかれたように感じて何だか落ち込む。
 4年の間に何があったの?
 騎士を目指しているのも急に大人っぽくなったのも、やっぱりその子のためだった? さっき私の事を危なっかしいって言ったのも、頼りない姉を残してその子の所に行けないから?

 何だかよくわからないけれど、胸が苦しい。一番近い存在だと思っていた義弟に、好きな相手がいる事実。私は彼を振り回してばかりで、いつも迷惑をかけていた。だからきっと相談もしてくれなかったんだ――
 小さな頃から「大好き」だと言っておきながら、私は弟の望みや好きな人の事さえ聞いてあげられないダメな姉だった。

 
 最後のダンスだというのに、後のことはほとんど覚えていない。
 ザック様には悪い事をしてしまったな。
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