地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

文字の大きさ
上 下
23 / 72
地味顔に転生しました

迎えられない明日

しおりを挟む
 結局、帰宅後も翌日もアリィは目覚めなかった。
 俺――レオンは養父母と兄と共に一階の部屋にいる。たった今、詳しい診察のために城から医師団と魔導士が到着した。
 本来なら王城にいるべき魔導士にも、宰相である父が協力を要請した。王もアリィの容態を心配してくれたのか、彼らをすぐに寄越してくれた。



 だけど、診断の結果は絶望的なものだった。
 身体に異常は見られないが意識が無い、つまり身体はここにあるものの魂が宿っていないというのだ。原因が特定できず、『黒い闇』だけでは何もわからないという。

「残念ながら、元に戻る可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。心臓も今は順調に動いているので、すぐに亡くなるとは思えません。ですが、初めてのケースなので断定はできません。現段階では、魂が元に戻るのを気長に待つしかないでしょう」

「心が切り離されている今、生命維持のために魔力の供給が必要です。一旦城に戻って検討し、対策を立てないと……」

『コイツラハ、ナニヲイッテイルンダ?』

 医師たちの言葉に一瞬頭が真っ白になる。
 言われた事もすぐに理解ができない。

 元に戻る可能性が低い?
 すぐに死ぬとは思えない?
 昨日まであんなに元気ではしゃいでいたアリィが?
 父は頭を抱えている。 
 兄は青ざめ立ち尽くした。
 母は思わず、手で顔を覆う。
 俺はアリィに駆け寄り、肩を掴んで怒鳴った。

「俺を置いていくな、戻って来い!」

 慌てた医師に止められる。
 どうして止める?
 俺はただ、いつものようにこっちを向いて笑って欲しいだけなのに!

『冗談だよ。レオン、ゴメンね』

『大丈夫、お姉さん寝過ごしちゃっただけだから』

 そんな言葉を期待したのに、何の反応も返らない。

「何で何にも言わないんだよっ。起きろよ!   戻れよ!」

 室内に俺の声が虚しく響く。
 何がいけなかったんだろう?
 昨日までいつもと変わらない穏やかな日常だったのに。
 大好きなアリィがこちらを向いて、嬉しそうに言っていたのに。

「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」

 ああ、大好きだ。
 1つだけ年上の他でもないアリィが、俺はこの世で一番好きだ!
 でもまだ伝えていない。
 大好きだ、大切だ、ずっと側にいてって――

「だから俺を置いて、いかないでくれ……」

 最後は不覚にも涙声になってかすれてしまった。
 後ろの方ですすり泣きも聞こえる。
 大好きなアリィ、優しいアリィ、大事なアリィ。
 その目を開いて俺に元気な姿を見せて!
 俺はやっぱり彼女を守れていなかった。
 一番近くにいたのに、彼女のために何もできなかった。


 アリィは明日が迎えられない。
 昇る朝日を移り行く季節を、眺める事も叶わない。

『何を引き換えにしても構わないから。だから早く、戻ってきてくれ……』

 こみ上げる嗚咽おえつをこらえ、言葉にならない想いを抱えた俺は、彼女の回復を切に願った。




  ――三年後

「じゃあ行ってくる。母さんもみんなも身体に気をつけて。アリィをよろしくね」

 屋敷の玄関前で、見送りに出て来てくれた人達に俺は手を振る。兄に比べて頼りなく見えるのか、相当心配されているのがわかる。着替えやいざという時の金銭などを必要以上に持たせようとするから、母に慌てて断った。質素倹約がモットーの場所に、そんな大荷物で行ってどうする? 大好きな公爵家、養父母は未だに俺にとても甘い。

 大好きなアリィへの挨拶は、昨日既に済ませてきた。当分寝顔も見られなくなると思うと後ろ髪引かれる思いだが、これは何より自分で決めた事。乗り越えなければならない。大好きな家族と最愛の人と別れて、俺は騎士になるために今日から寮に入ることにしたのだ。

 各地で原因不明の事件が多発したために軍備が強化された。騎士団も募集していたので、ダメ元で応募してみた。養父である公爵のコネで入れないこともないだろうが、正々堂々と入りたかったので相談はしなかった。

『14歳は本来なら警備隊か治安部隊の見習いになります。公爵のご子息で推薦状をお持ちなら特別に入団試験を許可します』

 通知が届いた。
 俺はそこで初めて、宰相である父に相談した。
「何だ、やっぱりコネじゃないか」と言われそうだが、強くなるために特権でも何でも利用させてもらうことにした。警備隊や治安部隊では将来アリィの近くにはいられないし、いざという時に彼女を護ることができないから。

 試験の許可を得た後すぐに、兄のヴォルフに頼んで特訓してもらった。面白そうだからという理由で、レイモンド様が直々に剣の相手をして下さったこともある。結果はもちろん惨敗。
 学力には自信があったけれど、栄えある王宮騎士団や近衛騎士団に入るためには、国内でも最高レベルの知識や剣技が求められる。だから、寝る間を惜しんでクタクタになるまで身体を鍛え勉強をした。

 騎士につきものの馬。乗馬は好きだし馬の扱いは得意だから、練習がてら気分転換に時々たしなんだ。
 そういえば以前、こんなことがあった。
 アリィと一緒に厩舎きゅうしゃに行ったら、突然こんな事を言い出したのだ。

「馬って実は食べられるんだよね~。生で食べたらすごく美味しいらしい」

 それが聞こえたのか、以来アリィはうちの馬にすごく嫌われている。彼女が見えると必ずいなないて興奮するので、連れては行けない。馬は俺一人で乗る事にしていた。

 この家に居ると、何を見てもどこへ行っても元気なアリィを思い出す。
 彼女とは結局、出会って約1年半しか共に過ごせていない。彼女が倒れ眠ったままの時間の方が、はるかに長くなってしまった。
 けれど彼女に頼られたい、守りたいという想いは俺の中でどんどん膨らんでいく。もう一度、名前を呼んで笑いかけて欲しいと思う気持ちも募るばかり。

 一緒に過ごした時間が楽しくて、これ以上の幸せは考えられなくて、いつも笑っていたあの頃。けれど今では、笑い方すら忘れてしまった。彼女の側にいた俺は、どんな表情をしていたっけ?

 このままでは人として成長することができない。大好きな彼女との思い出が強すぎて、前に進むことができない……
   弱い自分は捨てなければならない。だから俺は自分を鍛えるために、騎士になる事を強く希望した。

 入団試験の結果は、無事合格。
 試験官も基準に満たない俺が、まさか受かるとは思っていなかったらしい。レイモンド様だけは予想していたのか、ニヤリと笑っていたけれど。
 本当なら騎士団への入団は15歳から。
 歳も足りずに下積みのない俺は、見習いとはいえ破格の待遇を受けている。

 何でも利用してやる。
 弱い自分を変えてやる。
 必ず鍛えて強くなってやる。



 昨日は一日中、アリィの側に付き添った。
 俺の出発前日だということもあり、いつもはうるさい侍女達もこの時ばかりは見逃してくれた。アリィが倒れたあの日以来、こんなに近くでゆったりした気分で過ごすのは、久しぶりだったような気がする。

 意識の無いまま、成長していくアリィ。
 子どもらしさが抜けて、身体は徐々に大人へ変化している。
 でもいくら眺めても君の瞼は開かないし、「大好きだ」と言い続けた唇も動かない。
 朝が来る度、ここに来て挨拶するのが俺の日課だった。
 きっと聞こえていないだろうけれど、あの頃のように俺も毎日話しかけていた。

「おはよう、今日もいい朝だ。アリィ大好き!」

 けれど、それも昨日で終わり。
 何もできない自分を変えると決めたから。
 君が目覚めた時、強く頼られる存在でいたい。
 君が起きた時、可愛い弟とは呼ばれたくないから。

 だから俺は今日、この家を出る。
しおりを挟む
『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...