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地味顔に転生しました
迎えられない明日
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結局、帰宅後も翌日もアリィは目覚めなかった。
俺――レオンは養父母と兄と共に一階の部屋にいる。たった今、詳しい診察のために城から医師団と魔導士が到着した。
本来なら王城にいるべき魔導士にも、宰相である父が協力を要請した。王もアリィの容態を心配してくれたのか、彼らをすぐに寄越してくれた。
だけど、診断の結果は絶望的なものだった。
身体に異常は見られないが意識が無い、つまり身体はここにあるものの魂が宿っていないというのだ。原因が特定できず、『黒い闇』だけでは何もわからないという。
「残念ながら、元に戻る可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。心臓も今は順調に動いているので、すぐに亡くなるとは思えません。ですが、初めてのケースなので断定はできません。現段階では、魂が元に戻るのを気長に待つしかないでしょう」
「心が切り離されている今、生命維持のために魔力の供給が必要です。一旦城に戻って検討し、対策を立てないと……」
『コイツラハ、ナニヲイッテイルンダ?』
医師たちの言葉に一瞬頭が真っ白になる。
言われた事もすぐに理解ができない。
元に戻る可能性が低い?
すぐに死ぬとは思えない?
昨日まであんなに元気ではしゃいでいたアリィが?
父は頭を抱えている。
兄は青ざめ立ち尽くした。
母は思わず、手で顔を覆う。
俺はアリィに駆け寄り、肩を掴んで怒鳴った。
「俺を置いていくな、戻って来い!」
慌てた医師に止められる。
どうして止める?
俺はただ、いつものようにこっちを向いて笑って欲しいだけなのに!
『冗談だよ。レオン、ゴメンね』
『大丈夫、お姉さん寝過ごしちゃっただけだから』
そんな言葉を期待したのに、何の反応も返らない。
「何で何にも言わないんだよっ。起きろよ! 戻れよ!」
室内に俺の声が虚しく響く。
何がいけなかったんだろう?
昨日までいつもと変わらない穏やかな日常だったのに。
大好きなアリィがこちらを向いて、嬉しそうに言っていたのに。
「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」
ああ、大好きだ。
1つだけ年上の他でもないアリィが、俺はこの世で一番好きだ!
でもまだ伝えていない。
大好きだ、大切だ、ずっと側にいてって――
「だから俺を置いて、いかないでくれ……」
最後は不覚にも涙声になって掠れてしまった。
後ろの方ですすり泣きも聞こえる。
大好きなアリィ、優しいアリィ、大事なアリィ。
その目を開いて俺に元気な姿を見せて!
俺はやっぱり彼女を守れていなかった。
一番近くにいたのに、彼女のために何もできなかった。
アリィは明日が迎えられない。
昇る朝日を移り行く季節を、眺める事も叶わない。
『何を引き換えにしても構わないから。だから早く、戻ってきてくれ……』
こみ上げる嗚咽をこらえ、言葉にならない想いを抱えた俺は、彼女の回復を切に願った。
――三年後
「じゃあ行ってくる。母さんもみんなも身体に気をつけて。アリィをよろしくね」
屋敷の玄関前で、見送りに出て来てくれた人達に俺は手を振る。兄に比べて頼りなく見えるのか、相当心配されているのがわかる。着替えやいざという時の金銭などを必要以上に持たせようとするから、母に慌てて断った。質素倹約がモットーの場所に、そんな大荷物で行ってどうする? 大好きな公爵家、養父母は未だに俺にとても甘い。
大好きなアリィへの挨拶は、昨日既に済ませてきた。当分寝顔も見られなくなると思うと後ろ髪引かれる思いだが、これは何より自分で決めた事。乗り越えなければならない。大好きな家族と最愛の人と別れて、俺は騎士になるために今日から寮に入ることにしたのだ。
各地で原因不明の事件が多発したために軍備が強化された。騎士団も募集していたので、ダメ元で応募してみた。養父である公爵のコネで入れないこともないだろうが、正々堂々と入りたかったので相談はしなかった。
『14歳は本来なら警備隊か治安部隊の見習いになります。公爵のご子息で推薦状をお持ちなら特別に入団試験を許可します』
通知が届いた。
俺はそこで初めて、宰相である父に相談した。
「何だ、やっぱりコネじゃないか」と言われそうだが、強くなるために特権でも何でも利用させてもらうことにした。警備隊や治安部隊では将来アリィの近くにはいられないし、いざという時に彼女を護ることができないから。
試験の許可を得た後すぐに、兄のヴォルフに頼んで特訓してもらった。面白そうだからという理由で、レイモンド様が直々に剣の相手をして下さったこともある。結果はもちろん惨敗。
学力には自信があったけれど、栄えある王宮騎士団や近衛騎士団に入るためには、国内でも最高レベルの知識や剣技が求められる。だから、寝る間を惜しんでクタクタになるまで身体を鍛え勉強をした。
騎士につきものの馬。乗馬は好きだし馬の扱いは得意だから、練習がてら気分転換に時々嗜んだ。
そういえば以前、こんなことがあった。
アリィと一緒に厩舎に行ったら、突然こんな事を言い出したのだ。
「馬って実は食べられるんだよね~。生で食べたらすごく美味しいらしい」
それが聞こえたのか、以来アリィはうちの馬にすごく嫌われている。彼女が見えると必ず嘶いて興奮するので、連れては行けない。馬は俺一人で乗る事にしていた。
この家に居ると、何を見てもどこへ行っても元気なアリィを思い出す。
彼女とは結局、出会って約1年半しか共に過ごせていない。彼女が倒れ眠ったままの時間の方が、はるかに長くなってしまった。
けれど彼女に頼られたい、守りたいという想いは俺の中でどんどん膨らんでいく。もう一度、名前を呼んで笑いかけて欲しいと思う気持ちも募るばかり。
一緒に過ごした時間が楽しくて、これ以上の幸せは考えられなくて、いつも笑っていたあの頃。けれど今では、笑い方すら忘れてしまった。彼女の側にいた俺は、どんな表情をしていたっけ?
このままでは人として成長することができない。大好きな彼女との思い出が強すぎて、前に進むことができない……
弱い自分は捨てなければならない。だから俺は自分を鍛えるために、騎士になる事を強く希望した。
入団試験の結果は、無事合格。
試験官も基準に満たない俺が、まさか受かるとは思っていなかったらしい。レイモンド様だけは予想していたのか、ニヤリと笑っていたけれど。
本当なら騎士団への入団は15歳から。
歳も足りずに下積みのない俺は、見習いとはいえ破格の待遇を受けている。
何でも利用してやる。
弱い自分を変えてやる。
必ず鍛えて強くなってやる。
昨日は一日中、アリィの側に付き添った。
俺の出発前日だということもあり、いつもはうるさい侍女達もこの時ばかりは見逃してくれた。アリィが倒れたあの日以来、こんなに近くでゆったりした気分で過ごすのは、久しぶりだったような気がする。
意識の無いまま、成長していくアリィ。
子どもらしさが抜けて、身体は徐々に大人へ変化している。
でもいくら眺めても君の瞼は開かないし、「大好きだ」と言い続けた唇も動かない。
朝が来る度、ここに来て挨拶するのが俺の日課だった。
きっと聞こえていないだろうけれど、あの頃のように俺も毎日話しかけていた。
「おはよう、今日もいい朝だ。アリィ大好き!」
けれど、それも昨日で終わり。
何もできない自分を変えると決めたから。
君が目覚めた時、強く頼られる存在でいたい。
君が起きた時、可愛い弟とは呼ばれたくないから。
だから俺は今日、この家を出る。
俺――レオンは養父母と兄と共に一階の部屋にいる。たった今、詳しい診察のために城から医師団と魔導士が到着した。
本来なら王城にいるべき魔導士にも、宰相である父が協力を要請した。王もアリィの容態を心配してくれたのか、彼らをすぐに寄越してくれた。
だけど、診断の結果は絶望的なものだった。
身体に異常は見られないが意識が無い、つまり身体はここにあるものの魂が宿っていないというのだ。原因が特定できず、『黒い闇』だけでは何もわからないという。
「残念ながら、元に戻る可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。心臓も今は順調に動いているので、すぐに亡くなるとは思えません。ですが、初めてのケースなので断定はできません。現段階では、魂が元に戻るのを気長に待つしかないでしょう」
「心が切り離されている今、生命維持のために魔力の供給が必要です。一旦城に戻って検討し、対策を立てないと……」
『コイツラハ、ナニヲイッテイルンダ?』
医師たちの言葉に一瞬頭が真っ白になる。
言われた事もすぐに理解ができない。
元に戻る可能性が低い?
すぐに死ぬとは思えない?
昨日まであんなに元気ではしゃいでいたアリィが?
父は頭を抱えている。
兄は青ざめ立ち尽くした。
母は思わず、手で顔を覆う。
俺はアリィに駆け寄り、肩を掴んで怒鳴った。
「俺を置いていくな、戻って来い!」
慌てた医師に止められる。
どうして止める?
俺はただ、いつものようにこっちを向いて笑って欲しいだけなのに!
『冗談だよ。レオン、ゴメンね』
『大丈夫、お姉さん寝過ごしちゃっただけだから』
そんな言葉を期待したのに、何の反応も返らない。
「何で何にも言わないんだよっ。起きろよ! 戻れよ!」
室内に俺の声が虚しく響く。
何がいけなかったんだろう?
昨日までいつもと変わらない穏やかな日常だったのに。
大好きなアリィがこちらを向いて、嬉しそうに言っていたのに。
「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」
ああ、大好きだ。
1つだけ年上の他でもないアリィが、俺はこの世で一番好きだ!
でもまだ伝えていない。
大好きだ、大切だ、ずっと側にいてって――
「だから俺を置いて、いかないでくれ……」
最後は不覚にも涙声になって掠れてしまった。
後ろの方ですすり泣きも聞こえる。
大好きなアリィ、優しいアリィ、大事なアリィ。
その目を開いて俺に元気な姿を見せて!
俺はやっぱり彼女を守れていなかった。
一番近くにいたのに、彼女のために何もできなかった。
アリィは明日が迎えられない。
昇る朝日を移り行く季節を、眺める事も叶わない。
『何を引き換えにしても構わないから。だから早く、戻ってきてくれ……』
こみ上げる嗚咽をこらえ、言葉にならない想いを抱えた俺は、彼女の回復を切に願った。
――三年後
「じゃあ行ってくる。母さんもみんなも身体に気をつけて。アリィをよろしくね」
屋敷の玄関前で、見送りに出て来てくれた人達に俺は手を振る。兄に比べて頼りなく見えるのか、相当心配されているのがわかる。着替えやいざという時の金銭などを必要以上に持たせようとするから、母に慌てて断った。質素倹約がモットーの場所に、そんな大荷物で行ってどうする? 大好きな公爵家、養父母は未だに俺にとても甘い。
大好きなアリィへの挨拶は、昨日既に済ませてきた。当分寝顔も見られなくなると思うと後ろ髪引かれる思いだが、これは何より自分で決めた事。乗り越えなければならない。大好きな家族と最愛の人と別れて、俺は騎士になるために今日から寮に入ることにしたのだ。
各地で原因不明の事件が多発したために軍備が強化された。騎士団も募集していたので、ダメ元で応募してみた。養父である公爵のコネで入れないこともないだろうが、正々堂々と入りたかったので相談はしなかった。
『14歳は本来なら警備隊か治安部隊の見習いになります。公爵のご子息で推薦状をお持ちなら特別に入団試験を許可します』
通知が届いた。
俺はそこで初めて、宰相である父に相談した。
「何だ、やっぱりコネじゃないか」と言われそうだが、強くなるために特権でも何でも利用させてもらうことにした。警備隊や治安部隊では将来アリィの近くにはいられないし、いざという時に彼女を護ることができないから。
試験の許可を得た後すぐに、兄のヴォルフに頼んで特訓してもらった。面白そうだからという理由で、レイモンド様が直々に剣の相手をして下さったこともある。結果はもちろん惨敗。
学力には自信があったけれど、栄えある王宮騎士団や近衛騎士団に入るためには、国内でも最高レベルの知識や剣技が求められる。だから、寝る間を惜しんでクタクタになるまで身体を鍛え勉強をした。
騎士につきものの馬。乗馬は好きだし馬の扱いは得意だから、練習がてら気分転換に時々嗜んだ。
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アリィと一緒に厩舎に行ったら、突然こんな事を言い出したのだ。
「馬って実は食べられるんだよね~。生で食べたらすごく美味しいらしい」
それが聞こえたのか、以来アリィはうちの馬にすごく嫌われている。彼女が見えると必ず嘶いて興奮するので、連れては行けない。馬は俺一人で乗る事にしていた。
この家に居ると、何を見てもどこへ行っても元気なアリィを思い出す。
彼女とは結局、出会って約1年半しか共に過ごせていない。彼女が倒れ眠ったままの時間の方が、はるかに長くなってしまった。
けれど彼女に頼られたい、守りたいという想いは俺の中でどんどん膨らんでいく。もう一度、名前を呼んで笑いかけて欲しいと思う気持ちも募るばかり。
一緒に過ごした時間が楽しくて、これ以上の幸せは考えられなくて、いつも笑っていたあの頃。けれど今では、笑い方すら忘れてしまった。彼女の側にいた俺は、どんな表情をしていたっけ?
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入団試験の結果は、無事合格。
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歳も足りずに下積みのない俺は、見習いとはいえ破格の待遇を受けている。
何でも利用してやる。
弱い自分を変えてやる。
必ず鍛えて強くなってやる。
昨日は一日中、アリィの側に付き添った。
俺の出発前日だということもあり、いつもはうるさい侍女達もこの時ばかりは見逃してくれた。アリィが倒れたあの日以来、こんなに近くでゆったりした気分で過ごすのは、久しぶりだったような気がする。
意識の無いまま、成長していくアリィ。
子どもらしさが抜けて、身体は徐々に大人へ変化している。
でもいくら眺めても君の瞼は開かないし、「大好きだ」と言い続けた唇も動かない。
朝が来る度、ここに来て挨拶するのが俺の日課だった。
きっと聞こえていないだろうけれど、あの頃のように俺も毎日話しかけていた。
「おはよう、今日もいい朝だ。アリィ大好き!」
けれど、それも昨日で終わり。
何もできない自分を変えると決めたから。
君が目覚めた時、強く頼られる存在でいたい。
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『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
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