地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

文字の大きさ
上 下
20 / 72
地味顔に転生しました

事件の始まり

しおりを挟む
 アイリス様からショッピングのお誘いがあった。
 でもこの世界に『福袋』という概念はないハズだから「近日中に是非」と、返事をしておいた。

 新年初日はみんないつの間にか寝てしまった。
 私も一旦夜中に起きたものの、結局朝寝坊してしまった。
 朝起きた時に1人見慣れない顔の女性がいたので、みんなで「「「誰?」」」と顔を見合わせた。だけどその正体はお化粧を落としたイボンヌ様で、素顔は17歳という年相応に可愛らしかった。
「そっちの方がいいのに~」と思ったのは、きっと私だけではないはずだ。
 すごく楽しい時間をみんなと過ごせたので『今年も絶対良い年になる』と、私は確信していた。

 お父様やお兄様をはじめとする大人の男性陣は年明けすぐ、慌ただしく登城したとのこと。けれど3日後の今もまだ家には帰って来ない。

「王城内どんだけブラックなんだ?」

 以前、お城の仕事は暇なのね~と考えていたことも忘れて愚痴ってみた。

「嫌だわ、アリィったら。お父様がお留守の方が自由に過ごせるでしょ?」

 いえいえお母様。
 あなたお父様がいらしても十分自由ですが。
 確か大恋愛の末の結婚でしたよね?
 良いんですか? そんなんで。
 新年早々娘の結婚願望を壊すの止めて下さいな。



 結局、新年はお母様やレオンや屋敷に残っている使用人(という言葉はあまり好きではないんだけど)達とお祝いをしてゆっくり過ごした。
 そんな矢先にアイリス様からまたまた買い物のお誘い。知らないだけでこの世界にも実はあるのか、福袋? 気になった私はついOKしてしまった。
 腐っても地味でも公爵令嬢なので、お母様に許可をいただき一応侍女と護衛と「一緒に行きたい!」というレオンを連れて行く事にした。

「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」
 
   私ってなんて理解のあるいいお姉さんなんだろう! 
 わかってるわよ、レオン。
 アイリス様、清楚な美少女で可愛いもんね。
 可愛い弟のために、一肌脱いであげるから!

「ばか、アリィ、違うよ」

「照れなくてもいいのに~~」

 軽口を叩きながら馬車に乗り込む。
 一応、街中用にと私もレオンもシンプルな服を着てきた。
 商家のお嬢様とお坊ちゃんに見えないこともない。



 街の入り口で馬車を止め、舗装された通路を指定されたお店の方にみんなで歩いていく。今日の案内はベテランのエルゼさん。リリーちゃんは余計に迷子になりそうだから屋敷に置いてきちゃった。
 年の初めは家族と過ごすのが一般的なこの国の風習のせいか、予想したよりも開いているお店はかなり少ない。
 なのに、なんで今日なのかしら? 
 もしかしてやっぱり福袋!?
 期待に胸が膨らむ。

「『光と影』? そんな所にそんな名前のお店があったかしらねぇ?」と、街をよく知るはずのエルゼさんが言うので一瞬不安になった。到着したのは新しいお店。笑顔で手を振るアイリス様が護衛と一緒に待っていた。

「ほらレオン! やっぱりアイリス様って可愛いわね!」

「知るかよ」

「あら、レオン。付いて来たがったくせに意外に冷たいのね」

 ふふ。レオンったら。でもわかっているわよ。
 彼女の前でカッコつけたいのよね?
 理解あるお姉さんはそれ以上ツッコミません。

「アレキサンドラ様、レオン様ごきげんよう。レオン様、わたくしお姉様と一緒にお買い物をしたくて強引にお誘いしたの。ゴメンなさいね」

 そう謝られたけれど、うちの弟は残念ながらシスコンではないの。今日もきっとアイリス様目当て。私も女友達とのショッピングが夢だったし。

「とんでもない! こちらこそお誘いいただいて光栄ですわ。楽しみですわ。ね、レオン」

 ニコニコしながら代わりに答えておいた。
 弟は肩を竦めただけで「さっさと行くぞ」とお店に入ってしまった。美人に話しかけられるとすぐに照れるところがまだまだ子どもだ。



 入ったお店は女性のドレスと小物の専門店。
 店内をキョロキョロ見てある物を探すけれど、当然見当たらない。ダメ押しでアイリス様に聞いてみた。

「あの、福袋は……」

「服、ぶくろ? 存じませんが」

 そばにいた店員達も首を横に振る。
 ああ、やっぱり無かったか。ちょっと残念。
 私はガックリと肩を落とした。 

 店内はパステルカラーのバルーンやリボンの装飾をほどこし、繊細なレースや丁寧な作りのドレスや小物が所狭しと並んでいる。全体的に明るく可愛らしい印象のお店で、デパートの子供服売り場なんかによくありそう。女の子だし、可愛いものってやっぱり憧れるわよね! 福袋を諦めた私は気を取り直してよく見ることにした。

 可愛らしい店の雰囲気ににそぐわないのは、アイリス様の所とうちのゴツい護衛達。完全に無表情なので「イボンヌ様御用達のセクシーな夜着のお店でなくて良かったかも」と言うと、アイリス様も「ふふふ」と笑って下さった。
 あぁ、前世ではこんな買い物に憧れていたの。
 買い物の後は、当然カフェでスイーツよね?

 一方、店内にひどく似合うのは弟のレオン。
 口調は俺様だけど、もともと天使の容貌なので私よりも余程ドレスが似合いそう。

「ウィッグ付けて着てくれないかな~、ドレス」

 私の希望は当然スルーされた。
 現在レオンは女性用の小物に夢中。
 誰かにあげるのかしら? 
 まさか自分の趣味、ではないわよね? 
 お姉さん信じてるからね!



「こちらのドレス、アリィ様に似合いそう」

 アイリス様がおっしゃって差し出してきたのは、淡い黄色のシフォンのドレス。
 私の栗色の髪と黄色なら、確かに相性が良いかもしれない。身につけてみて、気に入ったら自分サイズでオーダーすれば良いそうな。リボンやレースなど、好みのオプションをつけることも可能だそう。

「仕立てるのが当たり前のアリィ様にオススメするのは心苦しいのですが。この店のデザインが今風で素敵だと思うんです」

 ドレスなら家にいっぱいあるし、もったいないから本当はいらないけれど。でもどれが良いかと一緒に選ぶのが、女友達との買い物の醍醐味に違いない! 買う買わないに関わらず、お互いに試着して「可愛い~~」とか「似合う~」とか言ってみたり。いけない、キャッキャウフフをしなければ!
 前世では既製品が当たり前だったから、もちろんまったく気にならない。

「アイリス様がせっかく見立てて下さったのだもの。楽しみですわ」

 取り敢えず試しに着てみることにした。
 アイリス様には目の色を引き立てるラベンダー色のスリムなドレスをオススメした。美人なので、何を着ても確実に似合うに違いない。
 レオンは相変わらず小物に夢中。
 ゴメンね、連れてきて。
 もしかして、イケナイ扉を開いちゃった?
「ちょっとだけ着てくるから、寂しがらずに待っててね」とお姉さんぶると、「子供扱いするな!」と、怒られてしまった。

「いつ見ても仲がよろしいのですね」 

「えぇ、自慢の弟ですから」

 言ったそばからレオンに睨まれてしまった。
 なんでぇ~? 
 でも大丈夫、アイリス様にしっかりとレオンの良いところアピールしておくからね!



 私達は試着用の別室に移動。
 もちろん男子禁制だから、護衛達とレオンはここから先には入れない。
 エルゼさんは侍女なのでOK。
 アイリス様の侍女が見当たらないけれど……
 似合うに決まっているドレスで軽く身体に当てるだけだから必要ないのかな? 彼女は常連っぽいので、店員さんに手伝ってもらえるのかもしれない。


 店員に案内されて長椅子と豪華な調度品のある別室……をなぜか通り過ぎた。
 目立たない扉を開けて案内されたその先は――


 その先は、なぜか外の暗い路地だった。
しおりを挟む
『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...