地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

文字の大きさ
上 下
1 / 72

登場人物紹介

しおりを挟む
「アガさん、ヴィオは貴方のことも里のことも。とても大切に想っていますよ。ここにいる間は外の世界ばかりがよく見えて、ここではないどこかに旅立ちたい気持ちで羽ばたく練習ばかりをしていたかもしれません。一度飛び立ったらもう二度と戻らないように見えたかもしれない。でも人は自由に飛び回れるようになったら、それはそれで、また違った高い目線で今までいた場所を見下ろし新しい発見もすることができる。ヴィオは今そんな風に、自分の羽で羽ばたきながら世界を違った目線で見て学んでいる最中です。俺はそんなヴィオについて、一緒にいつまでも、どこまでも飛んでいきたい。そのために身を軽くする準備はもうできています」

 それはセラフィンが今までの経歴や人生を脱ぎ去って、一からヴィオと共にある人生をやり直す準備ができたという決意を表していることに他ならない。
 この中央貴族出身の青年医師は、アガにはできなかった里を出てルピナと沿うという選択肢を迷わず掴もうとしている。アガが再び口を開きかけた時、暗がりから小さな声がした。

「セラ? 父さん?」
「ヴィオ。目が醒めたんだな」

 愛らしい呼びかけにセラフィンはすぐに反応して彼を迎えに歩いていった。そして赤いショールでヴィオの上半身を包みなおすと壊れ物でも扱う様に丁寧に抱き上げて二人が座る平椅子までやってきて、抱き上げたままそこに座りなおした。

 ヴィオはまだ半覚醒なのか、とろとろとした表情のままうっとりとセラフィンの胸に抱かれ凭れている。その表情はかつてアガが若き日の妻から向けられた甘えている時の貌によく似ていた。どこまでもヴィオを溺愛し、世話をやこうとするセラフィンも同じく蕩けるような眼差しでヴィオを見つめていた。
 二人の仲睦まじい姿に、若き日のアガと妻との思い出が重なる。

『アガ、ずっと傍にいてね。ずっとよ』

 若く甘い妻の柔らかな声が脳裏に蘇り、アガはたまらず立ち上がった。

「風呂の支度をしてくる。お前たちは食事を続けていろ」

 そう言い捨てると二人に背を向けて逃げるように外に飛び出していった。セラフィンはその姿に強い男の孤独と寂しさを見て、ほろ酔いにも誘引され涙の被膜が張りそうになったが、すぐに腕の中の最愛へ意識を向きなおした。

(アガさん、なによりも誰よりもヴィオを大切にします。約束します)

 くたりと脱力し顔が胸から少しでも離れるとむずがる赤い顔、熱い身体を摺り寄せるヴィオを抱えなおして、セラフィンは燃えるように熱い額に誓う様に口づけた。



しおりを挟む
『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

処理中です...