地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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地味顔に転生しました

レオン君のこと

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「お嬢様、少しよろしいでしょうか」

 廊下を歩いていたら、侍女のエルゼさんに呼び止められた。お父様との話は終わったし、夕食までまだ間があるから時間は大丈夫。今日の分の勉強は、明日に回せばいいか。私は首肯した。

「レオン様のことで少し……」

 そう言うので、私の部屋で話を聞くことにした。この部屋はレオン君のいる隣の部屋とは正反対。お母様の趣味で恥ずかしいくらいにフリフリが多い女の子って感じの内装。

   白い机は機能よりも見た目重視。背もたれがピンクの椅子は使うのがもったいないくらいに可愛い。カーテンは薄いピンクでフリルが付いているし、クッションも濃いピンクと白でレースが邪魔で使い心地はあまり良ろしくない。
   あ、ベッドはもちろん天蓋付きで、カバーはこれまたフリル付き。どこのお姫様が使うの?   って感じだ。豪華なベッドにこんなに地味な私が寝てたら、どんな王子様もびっくりしてUターンしてしまうに違いない。
   お母様、娘に幻想を抱き過ぎだと思うんだけど……
   それから、いずれ楽器を嗜(たしな)むだろうと、壁は安心の防音完備。声が外に聞かれる心配はない。時々大声で歌っているけど、今のところバレてはいないみたい。だから話を聞くのに下手な場所に行くよりは、私の部屋の方が安心。



 エルゼさんの話はこうだった。

「夕食前に時間があったので、レオン様にご入浴をお勧めしました。けれど固まったまま反応がないのでお手伝いをしようとしたところ、異常におびえられてしまって」

「そうね。私もとても怖がられてしまったもの」

「はい。丁寧に接してはいたのですが……」

「もちろん、あなたの腕は疑っていないわ。最善を尽くしてくれたんでしょう?」

「はい。入浴が嫌ならせめてお召し替えを、と他の者と協力して服を取り替えようとしました。その時、背中や腕に無数の傷が見えてしまったんです。擦過傷さっかしょうやあざで、新しいものも古いものもありました。旦那様にお伝えしたところ、お嬢様にも知らせておくように、とのことでしたので」

「あぁ、やっぱり……」

 私は思わず目を閉じた。
 お父様からある程度聞いていたから予想はついていたものの、間違いであって欲しいと思っていた。
 年齢より小さい身体、周りに対する警戒心や怯え、身体につけられた無数の傷やあざ。
   常識では考えられないし信じたくも無いけれど、この世界でも悪しき行為が存在していたなんて。

「虐待、されていたのね……」

   ポツリと呟く。
   エルゼさんも頷いている。

「こんなに酷いのは私も初めて見ました。中には一生痕が残る傷もあるでしょう。手足も細く折れそうです。元の場所にずっといらしたら、いったいどうなっていた事か!」

   話を聞けば聞くほど、単純に『可哀想』という言葉では片付けられない。こんな時、いろいろ世話を焼かれたら、本人は却って戸惑ってしまうだろう。
   だったら私にできる事は一つだけ。



   ノックをしても返事が無いので、覚悟を決めて隣の部屋に入っていった。
 ベッドの上で震えている小さな身体。残りは自分で着替えたみたいだけど、こちらを見ないように腕で頭や顔を覆い、隅っこで丸まって震えている。

 私は今も前世も愛情たっぷりに育てられていたから、虐待された経験はない。チートな能力を持って転生したわけではないけれど、前世でイジメられた記憶ならバッチリある。

 小学生の頃、バケツ事件の後で『何をやっても泣かないからつまらない、生意気』と、クラスのほぼ全員から殴られたり蹴られたりした。参加しないと仲間外れにされるからか、通過儀礼のようにだんだんとイジメの人数が増えていった。
   最後には、学級委員長や普段おとなしい子までもが加わっていた。すごくショックで、誰も信じられないと思っていた時期がある。

 今ここで震えているレオン君は、それよりもっと大変な経験をしてきたはずだ。こんなに小さくか弱い存在を、いったい誰がいじめたんだろう?   こんなに可愛い少年をいったい誰が傷つけたというの?



 私はベッドに飛び乗ると、ビクッと驚き縮こまるレオン君に構わず、そのままギュッとハグをした。彼は固まったままではあるけれど、特に抵抗はしていない。私も子どもだからか、そこまで警戒はされていないのかな?   
   腕の中の小さな存在が急に愛しくなって、金色の頭をよしよしと撫でた。
   そして私は、自分がイジメられていた時に一番言って欲しかった言葉を言った。

「何があっても私はあなたの味方だから」

 前世の母の受け売りだけど。
 バケツ事件以降、余計な苦労をかけたくなくて母には黙っていたけれど、多分バレていたんだろう。母は時々私をギュッと抱きしめて大切だと伝えてくれた。
   何があっても母という強い味方がいたから、イジメられても私は乗り越えられた。
   身体や心に痛みが残っても、少なくとも自分は要らない存在だって思わなくて済んだ。

   自分の事を気にかけてくれる人がいる。大切に思ってくれる人がいる。ただそれだけで、私はくじけずに前に進む勇気が持てた。



   レオン君は青い目を見開き、「突然何を言いだすんだ」という風に私を見ている。「同じ子どものくせに何だこいつ?」と思われているに違いない。それでも構わない。
   本当の私は17歳まで過ごした記憶があるけれど、それはここで言う事ではないだろう。

 ーー今はまだ、彼にとって世界中が敵に見えているのだとしても。自分は愛され、大切にされる存在だと実感できていなくても。ここに、あなたを気にかける存在がいるのだという事だけは覚えておいて欲しい。

   私はこれから毎日あなたに『大好きだ』と伝えるから。姉として、あなたをずっと愛し続けるから。だから私を、私達を信用して徐々に心を開いて欲しい。
 そしていつか天使のような笑顔で、「お姉ちゃん」と呼んでくれたら最高なんだけどな!
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