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地味顔に転生しました
イジメ、だめ、絶対!
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ーーあれは前世、そして日本。
今の年齢と同じくらいの小学生のころ。
幼いとあなどるなかれ、しっかりとイジメは存在している。しかも、あの頃の私は自分で言うのも何だけど本当に可愛らしかった。
赤みがかった金色に近い髪、日本人離れした白くて小さな顔。高い鼻、パッチリ二重、長い睫毛が薄茶の瞳を縁取り、小さな赤い唇はリップを塗らなくてもツヤツヤしていた。手足はほっそり、でも発育途中の出るところが出始めた女の子らしい体型。
「ねぇ、一緒に来てくれる? 相談したい事があるの」
普段話したことの無い女子達が声をかけてきた時点でおかしいと気付けば良かった。
でも、久々に同性から話しかけられて嬉しくて舞い上がっていた私。ニコニコしながら何の疑いもなく行っちゃいました。
ええ。イジメの定番、女子トイレです。
バッシャーーン
かぶったのはバケツの水。
掃除用の蛇口から新たに汲んだと思いたい。こちらを見て指差しながらケラケラと笑う少女達。
本当にこんなイジメがあるとは思わなかった。でもこれ、すぐにバレるし絶対先生に見つかるよね?
「○○君に迫った」とか言われても……
ていうか、小学生の癖に迫るって何?
その子、確かに顔もいいし面白いけど頭悪いよね?
よく声をかけてくるから普通に話しているだけなんだけど。どちらかといえば私は髪を引っ張られたり悪口言われたりして、意地悪されている方。特に仲良くしていた覚えはない。
「ざまあ」「ブース」「バーカ」と口々に言いながら駆け出していく同級生。授業のベルが鳴ったけど、私は悔しくてその場から動けなかった。ベトベトになったお気に入りのチェックのスカート、もう履けないな。
呼びに来た先生、目を逸らすのはやめて下さい。
「落ち着いたら教室に戻って来るように」ってどういう事? こんな姿でどうして良いのかわからないのは、私の方なのに……
涙を手でゴシゴシ拭いながら、1人とぼとぼと保健室へ向かった。
今まで授業を休んだ事なんて1度もなかった。いつも真面目に頑張っていたのに。
光があたると金色に近い髪も、その時は濡れてくすんだ茶色になっていた。
人と違う容姿が、少しだけ違う髪や肌がそんなにいけないこと? 好きで派手に見えるように生まれたわけじゃない。「目立ち過ぎだ」と言われても、私にはどうすることもできない。
前世の私は、鏡を見るのが嫌だった。
だって、他人と違う自分の顔が映るから。
クラスのみんなに嫌われている顔が、じっとこちらを見返すから。
近所のおばさんに「お人形さんみたい」と言われても嬉しくなんかない。知らないおじさんに勝手に写真を撮られて、連れ去られそうになった事もある。怖くて叫んで助かったけど、「そんな顔じゃ仕方がない」と言われて余計に辛い思いをした。
心ない大人の言葉にどれだけ傷つけられてきた事か。
私が悪いの?
変わっているのは、他人と違うのはそんなにいけない事なの?
頭からポタポタ垂れる水を見ながら呆然とする私。
慌てる侍女達。
水をかぶった事により突如前世を思い出した。
私は昔、日本で暮らしていた。そして、自分の派手な顔が大嫌いだったんだ――
*****
「どうした? アリィ、深刻な顔をして。具合でも悪いのか?」
「いいえ、お父様。少し考え事をしていただけですの。ご心配いただくほどの事ではありませんわ」
いえ、本当は心配してもらう程の事かも。
だって、私は転生していたんだもの。
しかも憧れのお金持ち、西洋風の貴族に!
安心安全安定の憧れの地味顔で!!
神様、どうもありがとう。
今度こそ、女子のお友達たくさん作るからね♪
前世は高校3年の春までの記憶しかない。
毎度おなじみ体育館の裏で「生意気、ブス、ムカつく」とやっぱり女子に囲まれ罵られたあげく、帰りがけに校門の前で突き飛ばされた。
その勢いが凄かったのか道路に面している学校の造りが悪かったのか、運悪く走って来たトラックに身体ごと衝突してしまった。
前世最後の記憶は、恐怖に歪むトラック運転手の顔。
「運転手さん、巻き込んでしまってゴメンなさい」
でもそっかあ、私死んじゃってたんだ。
お母さん、悲しんだよね?
お父さんはずーっと消息不明で音信不通。
私は記憶にすら無いから生きているかどうかもわからない。
お母さん、一人ぼっちになっちゃったんだね。
親不孝でごめん。
いっぱい愛してくれたのに、私のために苦労をたくさんさせたのに、何も返せなくてごめん。
「将来は安心の老後を送らせてあげるから楽しみにしててね!」と言う私に「まだ若いわよ。失礼ね」と笑っていた母。
イジメられていたのを知って、気弱なくせに小学校に怒鳴り込んでくれた優しい母。どうにもならないと知って、泣きながら「ごめんねごめんね」と何度も繰り返していたお母さん。
日本人顔だけど美人だから、私がいなければ再婚でも何でもすぐにできたのにね? でもいつだって『あなたは私の宝物よ』と言ってギュっと抱きしめてくれた。貧しいけれど一生懸命働いて、私を育ててくれた。
地味顔に転生できたのは嬉しいけれど、できればもう一度あなたに逢いたい。今の私は顔も姿も地味になってしまったけれど、この薄茶の瞳だけは前世の母に似ているような気がするの。
『決めた! 私、この地味顔でこの世界で強くたくましく生きていく!!』
……そう誓ったのが、ほんの二ヶ月前の事。
私の決意を今の家族は誰も知らない。
言ってもたぶん頭がおかしくなったと思われるだけだから。
私の前世は私だけが知っていれば良い事。
10歳の私に17歳の記憶があるなんて、誰にも信じてもらえないだろう。
それよりも、この世界に転生した私には幸運な機会が与えられた。
今度こそ、同年代の女子と仲良くなるという機会が!
今の年齢と同じくらいの小学生のころ。
幼いとあなどるなかれ、しっかりとイジメは存在している。しかも、あの頃の私は自分で言うのも何だけど本当に可愛らしかった。
赤みがかった金色に近い髪、日本人離れした白くて小さな顔。高い鼻、パッチリ二重、長い睫毛が薄茶の瞳を縁取り、小さな赤い唇はリップを塗らなくてもツヤツヤしていた。手足はほっそり、でも発育途中の出るところが出始めた女の子らしい体型。
「ねぇ、一緒に来てくれる? 相談したい事があるの」
普段話したことの無い女子達が声をかけてきた時点でおかしいと気付けば良かった。
でも、久々に同性から話しかけられて嬉しくて舞い上がっていた私。ニコニコしながら何の疑いもなく行っちゃいました。
ええ。イジメの定番、女子トイレです。
バッシャーーン
かぶったのはバケツの水。
掃除用の蛇口から新たに汲んだと思いたい。こちらを見て指差しながらケラケラと笑う少女達。
本当にこんなイジメがあるとは思わなかった。でもこれ、すぐにバレるし絶対先生に見つかるよね?
「○○君に迫った」とか言われても……
ていうか、小学生の癖に迫るって何?
その子、確かに顔もいいし面白いけど頭悪いよね?
よく声をかけてくるから普通に話しているだけなんだけど。どちらかといえば私は髪を引っ張られたり悪口言われたりして、意地悪されている方。特に仲良くしていた覚えはない。
「ざまあ」「ブース」「バーカ」と口々に言いながら駆け出していく同級生。授業のベルが鳴ったけど、私は悔しくてその場から動けなかった。ベトベトになったお気に入りのチェックのスカート、もう履けないな。
呼びに来た先生、目を逸らすのはやめて下さい。
「落ち着いたら教室に戻って来るように」ってどういう事? こんな姿でどうして良いのかわからないのは、私の方なのに……
涙を手でゴシゴシ拭いながら、1人とぼとぼと保健室へ向かった。
今まで授業を休んだ事なんて1度もなかった。いつも真面目に頑張っていたのに。
光があたると金色に近い髪も、その時は濡れてくすんだ茶色になっていた。
人と違う容姿が、少しだけ違う髪や肌がそんなにいけないこと? 好きで派手に見えるように生まれたわけじゃない。「目立ち過ぎだ」と言われても、私にはどうすることもできない。
前世の私は、鏡を見るのが嫌だった。
だって、他人と違う自分の顔が映るから。
クラスのみんなに嫌われている顔が、じっとこちらを見返すから。
近所のおばさんに「お人形さんみたい」と言われても嬉しくなんかない。知らないおじさんに勝手に写真を撮られて、連れ去られそうになった事もある。怖くて叫んで助かったけど、「そんな顔じゃ仕方がない」と言われて余計に辛い思いをした。
心ない大人の言葉にどれだけ傷つけられてきた事か。
私が悪いの?
変わっているのは、他人と違うのはそんなにいけない事なの?
頭からポタポタ垂れる水を見ながら呆然とする私。
慌てる侍女達。
水をかぶった事により突如前世を思い出した。
私は昔、日本で暮らしていた。そして、自分の派手な顔が大嫌いだったんだ――
*****
「どうした? アリィ、深刻な顔をして。具合でも悪いのか?」
「いいえ、お父様。少し考え事をしていただけですの。ご心配いただくほどの事ではありませんわ」
いえ、本当は心配してもらう程の事かも。
だって、私は転生していたんだもの。
しかも憧れのお金持ち、西洋風の貴族に!
安心安全安定の憧れの地味顔で!!
神様、どうもありがとう。
今度こそ、女子のお友達たくさん作るからね♪
前世は高校3年の春までの記憶しかない。
毎度おなじみ体育館の裏で「生意気、ブス、ムカつく」とやっぱり女子に囲まれ罵られたあげく、帰りがけに校門の前で突き飛ばされた。
その勢いが凄かったのか道路に面している学校の造りが悪かったのか、運悪く走って来たトラックに身体ごと衝突してしまった。
前世最後の記憶は、恐怖に歪むトラック運転手の顔。
「運転手さん、巻き込んでしまってゴメンなさい」
でもそっかあ、私死んじゃってたんだ。
お母さん、悲しんだよね?
お父さんはずーっと消息不明で音信不通。
私は記憶にすら無いから生きているかどうかもわからない。
お母さん、一人ぼっちになっちゃったんだね。
親不孝でごめん。
いっぱい愛してくれたのに、私のために苦労をたくさんさせたのに、何も返せなくてごめん。
「将来は安心の老後を送らせてあげるから楽しみにしててね!」と言う私に「まだ若いわよ。失礼ね」と笑っていた母。
イジメられていたのを知って、気弱なくせに小学校に怒鳴り込んでくれた優しい母。どうにもならないと知って、泣きながら「ごめんねごめんね」と何度も繰り返していたお母さん。
日本人顔だけど美人だから、私がいなければ再婚でも何でもすぐにできたのにね? でもいつだって『あなたは私の宝物よ』と言ってギュっと抱きしめてくれた。貧しいけれど一生懸命働いて、私を育ててくれた。
地味顔に転生できたのは嬉しいけれど、できればもう一度あなたに逢いたい。今の私は顔も姿も地味になってしまったけれど、この薄茶の瞳だけは前世の母に似ているような気がするの。
『決めた! 私、この地味顔でこの世界で強くたくましく生きていく!!』
……そう誓ったのが、ほんの二ヶ月前の事。
私の決意を今の家族は誰も知らない。
言ってもたぶん頭がおかしくなったと思われるだけだから。
私の前世は私だけが知っていれば良い事。
10歳の私に17歳の記憶があるなんて、誰にも信じてもらえないだろう。
それよりも、この世界に転生した私には幸運な機会が与えられた。
今度こそ、同年代の女子と仲良くなるという機会が!
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『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
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