2 / 72
地味顔に転生しました
地味なのが自慢です
しおりを挟む
今朝も鏡の前でうっとり。
「ハァァ、何て普通の良いお顔」
鏡の中から茶色の髪と瞳の平凡で地味な少女が私を見返している。
着替えもそこそこに自分の部屋の鏡の前から動かない私を見て、後ろに控えるエルゼ、リリアンヌ、メリーの侍女3人が今日もドン引きしている。でも、朝の地味顔確認は私にとってはとっても大事なルーティーン。これをしないと、1日が始まらない。
私の名前はアレキサンドラ10歳。ゲラン王国の由緒正しきグリエール公爵家の長女だ。
ゲラン王国は、一年を通して温暖な気候と海に面した風光明媚な王城で有名。農業や漁業が盛んで文化レベルも高い。綺麗な顔立ちの人が多く、通りには馬車が行き交い帯剣している人もチラホラ。どことなく昔のヨーロッパを思い起こさせる。
私の父は、その頭脳と腹黒さ(お父様ゴメン)で『我が国の至宝』と王に言わしめるこの国の宰相。いくつもの改革や交渉、国家事業を成功させている(らしい)。娘の私から言うのも何だが、金髪にアイスブルーの切れ長の瞳を持ち、口ひげが似合う要するにイケメンだ。
母は父と大恋愛の末伯爵家から嫁いできた銀髪に紫の瞳を持つ絶世の美女。美貌もさることながら、優雅な身のこなしと柔和な性格で『お嫁さんにしたかった』ランキング未だに堂々の第1位。結婚式の時には恋に破れた多くの殿方の涙で川ができたとかできなかったとか。
銀髪にアイスブルーの瞳の6つ上の兄は、16歳にして城内にファンクラブを持ち「クールな所が素敵」ともてはやされ、『氷の貴公子』の異名を持つこれまたすこぶるイケメンだ。現在は近衛騎士団所属だけど、頭が良いから将来は父様の後を継ぐのではないかとにらんでいる。
そんなご大層な家柄と美形揃いの家族に囲まれ不自由のない恵まれた環境で育った私。もちろん誰もが振り返る完璧美少女で、歳の近い王子様とは婚約者同士……
な、わけがない!!
いえ、いるにはいますけど、王子様。ちゃんと金髪碧眼で同い年の美少年。年齢も家柄も釣り合うし、我が家は王家と親しいけれど。
彼はとっても優しくてつきまとっても怒らない。それどころか美少年特有のキラキラオーラでいつも周りをウットリさせている。そんな王子様が仲良くしてくれるから、絶賛勘違いしてましたとも。もしかして私、かなりイケてるんじゃあ!?
でも、最近ようやく気がついた。私は婚約者どころか女子として認識すらされていない。
だって、私が地味だから。
いえ、アレキサンドラという名前はものすごく派手ですよ? そこのあなた「名前負け」って言うのは止めて下さいね?
大切な事なのでもう一度言います。
「私はすっごくすっごく地味だから!」
*****
「おはようアリィ。良い朝だね」
「ええ本当に。お父様、おはようございます」
緑あふれる公爵家自慢の庭を臨むテラスで朝食。
さっぱりした冷静スープとクロワッサンに似たクロスルという焼きたてのパン、見た目も鮮やかな新鮮野菜のサラダ、ドレッシングはオランジュ(オレンジ)ソース、舌平目のムニエルのような魚料理やジューシィな肉料理にタルトやパイ、ジュレなどのデザートやフルーツもたっぷり。朝からこんなに食べ切れないなと思いつつ、目は豪華な料理の数々に釘付け。
うちのシェフ、相変わらず良い仕事してます! 良ければレシピを教えて欲しい。
でも貴族って調理場に入れないから、私は未だに食材や料理の知識が無いのが残念。前はお料理好きだったのにな。今は作るどころか近寄るのも禁止。
そのうち調理場を借りて女子力の高そうな『手作りのお菓子』を女友達みんなに振る舞うことが、今の私の密かな目標。
それにしても、宰相であるお父様がこんな時間にいらっしゃるのは珍しい。もしかしてこの世界のお城の仕事って、実は暇なんじゃ?!
そんな事を考えながら男前なアドルフ父様のお顔を眺めて絶品朝食。
お兄様は王城内の騎士団の寮にいて滅多に帰ってこないし、お母様はいつものごとくまだ寝ているし。だから大好きなお父様と二人きりで、癒しのひとときをゆっくり過ごす事ができる。
「ところでアリィ、今日もまた鏡の前でため息をついていたと聞いたが? あまり侍女を待たせて煩わせるものではないよ。お前はそのままで十分可愛いんだからね」
「……。今日も支度に時間がかかり過ぎましたかしら? 今後気をつけるように致しますわね」
とりあえず子供らしくニッコリ微笑んでおく。お父様、キラッキラの家族に比べて地味で可愛く無いのは自分が一番良くわかっています。何だかんだいって、男親って娘に甘いんだから。
毎日自分の顔を見てため息をつく私。でもそれは、嘆きのためでなく見飽きない地味顔に安心してうっとりしたせい。決してガッカリしているわけではありません。カン違いなさらないようにね?
だけどお父様、それで良いのです。
だって今までの私は、確かに鏡の前で本物のため息をついていました。
本気で容姿にコンプレックスを抱いていましたもの。
整い過ぎた美貌の家族の誰にも似ず、『お父様、まさか町の人と浮気した?』と密かに疑ってかかっていた地味子な私。
茶色い髪と色素の薄い茶色の瞳。顔も取り立てて可愛いわけでなく、体型も年相応。煌々した美男美女揃いのこの家ではかなり地味~な容姿。スタイルは……まあ、まだ10才だからわかんないけどね。もちろん前はぺったんこ。
前世の方がよっぽどファンタジー向きの顔とスタイルでしたとも。
なんで前世と言い出したかって?
そう、あれはほんの2ヶ月前ーー
バッシャーーン
やらかしました。吹き抜けホールの2階にいたメイドがつまずいてこぼした洗面用の水。あろうことか手すりを越えて1階にいた私に直撃!!
容れ物がぶつからなくて良かった。かぶったの水だけだったし。
公爵令嬢でワガママいっぱいのいつもの私なら、ガキンちょの癖にそれはそれは偉そーに怒鳴っていた事でしょう。ま、今回のことは怒ってもいいと思うんだけど。だけどその時私は、頭からボタボタと垂れる水をボー然と見ながら遠い記憶を思い出してしまったのーー
「ハァァ、何て普通の良いお顔」
鏡の中から茶色の髪と瞳の平凡で地味な少女が私を見返している。
着替えもそこそこに自分の部屋の鏡の前から動かない私を見て、後ろに控えるエルゼ、リリアンヌ、メリーの侍女3人が今日もドン引きしている。でも、朝の地味顔確認は私にとってはとっても大事なルーティーン。これをしないと、1日が始まらない。
私の名前はアレキサンドラ10歳。ゲラン王国の由緒正しきグリエール公爵家の長女だ。
ゲラン王国は、一年を通して温暖な気候と海に面した風光明媚な王城で有名。農業や漁業が盛んで文化レベルも高い。綺麗な顔立ちの人が多く、通りには馬車が行き交い帯剣している人もチラホラ。どことなく昔のヨーロッパを思い起こさせる。
私の父は、その頭脳と腹黒さ(お父様ゴメン)で『我が国の至宝』と王に言わしめるこの国の宰相。いくつもの改革や交渉、国家事業を成功させている(らしい)。娘の私から言うのも何だが、金髪にアイスブルーの切れ長の瞳を持ち、口ひげが似合う要するにイケメンだ。
母は父と大恋愛の末伯爵家から嫁いできた銀髪に紫の瞳を持つ絶世の美女。美貌もさることながら、優雅な身のこなしと柔和な性格で『お嫁さんにしたかった』ランキング未だに堂々の第1位。結婚式の時には恋に破れた多くの殿方の涙で川ができたとかできなかったとか。
銀髪にアイスブルーの瞳の6つ上の兄は、16歳にして城内にファンクラブを持ち「クールな所が素敵」ともてはやされ、『氷の貴公子』の異名を持つこれまたすこぶるイケメンだ。現在は近衛騎士団所属だけど、頭が良いから将来は父様の後を継ぐのではないかとにらんでいる。
そんなご大層な家柄と美形揃いの家族に囲まれ不自由のない恵まれた環境で育った私。もちろん誰もが振り返る完璧美少女で、歳の近い王子様とは婚約者同士……
な、わけがない!!
いえ、いるにはいますけど、王子様。ちゃんと金髪碧眼で同い年の美少年。年齢も家柄も釣り合うし、我が家は王家と親しいけれど。
彼はとっても優しくてつきまとっても怒らない。それどころか美少年特有のキラキラオーラでいつも周りをウットリさせている。そんな王子様が仲良くしてくれるから、絶賛勘違いしてましたとも。もしかして私、かなりイケてるんじゃあ!?
でも、最近ようやく気がついた。私は婚約者どころか女子として認識すらされていない。
だって、私が地味だから。
いえ、アレキサンドラという名前はものすごく派手ですよ? そこのあなた「名前負け」って言うのは止めて下さいね?
大切な事なのでもう一度言います。
「私はすっごくすっごく地味だから!」
*****
「おはようアリィ。良い朝だね」
「ええ本当に。お父様、おはようございます」
緑あふれる公爵家自慢の庭を臨むテラスで朝食。
さっぱりした冷静スープとクロワッサンに似たクロスルという焼きたてのパン、見た目も鮮やかな新鮮野菜のサラダ、ドレッシングはオランジュ(オレンジ)ソース、舌平目のムニエルのような魚料理やジューシィな肉料理にタルトやパイ、ジュレなどのデザートやフルーツもたっぷり。朝からこんなに食べ切れないなと思いつつ、目は豪華な料理の数々に釘付け。
うちのシェフ、相変わらず良い仕事してます! 良ければレシピを教えて欲しい。
でも貴族って調理場に入れないから、私は未だに食材や料理の知識が無いのが残念。前はお料理好きだったのにな。今は作るどころか近寄るのも禁止。
そのうち調理場を借りて女子力の高そうな『手作りのお菓子』を女友達みんなに振る舞うことが、今の私の密かな目標。
それにしても、宰相であるお父様がこんな時間にいらっしゃるのは珍しい。もしかしてこの世界のお城の仕事って、実は暇なんじゃ?!
そんな事を考えながら男前なアドルフ父様のお顔を眺めて絶品朝食。
お兄様は王城内の騎士団の寮にいて滅多に帰ってこないし、お母様はいつものごとくまだ寝ているし。だから大好きなお父様と二人きりで、癒しのひとときをゆっくり過ごす事ができる。
「ところでアリィ、今日もまた鏡の前でため息をついていたと聞いたが? あまり侍女を待たせて煩わせるものではないよ。お前はそのままで十分可愛いんだからね」
「……。今日も支度に時間がかかり過ぎましたかしら? 今後気をつけるように致しますわね」
とりあえず子供らしくニッコリ微笑んでおく。お父様、キラッキラの家族に比べて地味で可愛く無いのは自分が一番良くわかっています。何だかんだいって、男親って娘に甘いんだから。
毎日自分の顔を見てため息をつく私。でもそれは、嘆きのためでなく見飽きない地味顔に安心してうっとりしたせい。決してガッカリしているわけではありません。カン違いなさらないようにね?
だけどお父様、それで良いのです。
だって今までの私は、確かに鏡の前で本物のため息をついていました。
本気で容姿にコンプレックスを抱いていましたもの。
整い過ぎた美貌の家族の誰にも似ず、『お父様、まさか町の人と浮気した?』と密かに疑ってかかっていた地味子な私。
茶色い髪と色素の薄い茶色の瞳。顔も取り立てて可愛いわけでなく、体型も年相応。煌々した美男美女揃いのこの家ではかなり地味~な容姿。スタイルは……まあ、まだ10才だからわかんないけどね。もちろん前はぺったんこ。
前世の方がよっぽどファンタジー向きの顔とスタイルでしたとも。
なんで前世と言い出したかって?
そう、あれはほんの2ヶ月前ーー
バッシャーーン
やらかしました。吹き抜けホールの2階にいたメイドがつまずいてこぼした洗面用の水。あろうことか手すりを越えて1階にいた私に直撃!!
容れ物がぶつからなくて良かった。かぶったの水だけだったし。
公爵令嬢でワガママいっぱいのいつもの私なら、ガキンちょの癖にそれはそれは偉そーに怒鳴っていた事でしょう。ま、今回のことは怒ってもいいと思うんだけど。だけどその時私は、頭からボタボタと垂れる水をボー然と見ながら遠い記憶を思い出してしまったのーー
11
『お妃選びは正直しんどい』発売中です♪(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックスより。
お気に入りに追加
1,894
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?
岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」
10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる