84 / 85
エピローグ
虹の始まる所3
しおりを挟む
「そういえば紫ちゃん、さっき紅輝が探していたよ?」
橙也の言葉に私は意識を戻した。
「会わなかった? じゃあ行き違いになったのかもね。もうすぐ離れる俺に、君を貸してくれたっていいのに。独占欲の強い男はこれだから嫌だな。何なら一緒に留学する?」
すぐに冗談を言う橙也の顔は、あの日と違ってけろっとしている。仲間の多い学園を出る寂しさも、どうやら吹っ切れたようだ。
「いや、留学は遠慮しとくよ。私はまだ、学園でやり残したことがあるから」
いつか海外には行ってみたいと思う。
だけどそれは今じゃない。
生徒会長になったばかりでここを離れるなんて、嘘でも考えたことはない。第一、お金もないし。
「何だ残念。ま、予想していたけどね」
肩を竦める橙也が大げさにため息をつく。やっぱりからかっただけなのね? 彼は以前からずっと、私に対する態度が変わらない。
ところで、紅が探しているのって何でだろ。さっき渡り廊下の近くで見かけたから、まだ外にいるのかな?
「じゃあ藍人、せっかくだから橙也の好みも聞いておいて!」
「あ、俺も行く……って、何だよ橙也」
「恋人達の逢瀬に君は邪魔だよ?」
「なっ」
きっと、そんなんじゃないのに。
話す二人を置いて、私はさっさと教室を出た。ここで捕まえておかないと、また紅とは会えなくなる。送別会のことかな? 橙也本人にもバレたことだし、せっかくだから彼も巻き込んでみんなで計画してみよう。
この世界はゲームではない。
シナリオともだいぶ違うから、この先を私は知らない。私が生徒会長になったり、橙也が桃華に惹かれずに留学しようとするなんて、ゲームよりも現実の方がはるかに面白い。
……あ、閃いちゃった。
『大きな男になる』ってことは、橙也が好きなのは外国の女性! そうか、それなら身長もつり合いが取れるのか。彼も綺麗な顔立ちだし、仕草も優雅だから並んでも全然違和感ないかも。
紅に会ったら教えてあげよう。橙也が学園を出るのは周知の事実だから、もう話してもいいはずだ。
「私が鈍くて良かった」って、この前ふと漏らした言葉を撤回させるいい機会かもしれない。
ちょうど旧校舎辺りにさしかかった時。木の陰から大好きな声が私を呼び留めた。
「紫、こっちだ。探したぞ」
「紅!」
私は走り寄ると、彼の広げた腕に飛びんだ。
抱き締められて、ふと気づく。
あれ、さっきの取り巻き達は?
キョロキョロしている私の頭に紅がキスを落とす。
「どうした? 誰もいないが気になるなら中に入ろう」
そう言った紅が私の手を取り指を絡める。恥ずかしいけど、久々なのでまあいいか。そのまま、旧校舎の中に引っ張っていかれた。
旧校舎は木造の洋風の建物だ。
以前はここで猫の『ゆかり』を育てていた。けれどゆかりは理事長室で飼っているため、今は誰もいない。はめ込まれたステンドグラスを通して、午後の光が射しこむ。床に映る七色は、さながら虹を集めたようだ。見惚れていると、正面に立った紅が私の頬に片手を添える。
「まったく。お前がこんなに忙しくなると知っていたなら、応援するんじゃなかったな」
「生徒会のこと? だったら紅も入れば良かったのに」
「理事長も櫻井だからダメだろ。そう言ったのに、黄は聞く耳を持たなかった」
「みんなそこまで気にしてないけど。私は、黄が手伝ってくれるから助かってるよ?」
「はあぁー」
弟である黄を褒めたのに、紅は大きなため息をついている。何でだろ。
「無自覚は恐ろしいな。黄も花澤も、お前がいるから生徒会に入ったんだろう? 最近は蒼や藍人までお前の周りをウロチョロしているみたいだし。まあ、橙也が留学するのがせめてもの救いかな」
「何のこと? 橙也が留学するのは自分のためだよ。それに、みんなが手伝ってくれるおかげで仕事もはかどってるし。誰かさんは全然会いに来てくれないのにね」
「いいのか? 俺が側に行く度に、お前の方が嫌がってたと思うんだけど」
「嫌がってなんか! でも、紅が所構わずすぐにくっつこうとするから、照れくさいんだけど」
「せっかく想いが通じたんだ。それくらいいいだろう?」
「だーめ。好きだからってベタベタしてたら、ただのバカップル……」
「ほう? 好きだって認めるんだ。俺に冷たくしておきながら」
「冷たくしてないもん!」
紅の茶色い瞳が面白そうに煌いている。雲行きが怪しくなりそうなので、違う話をしよう。
あ、そうだ。
「そういえば、橙也が留学するのって大きな男になるためなんだって。好きな人が外国人だと大変だね」
「そう来たか。わかってなければいい。紫、もう何も言うな」
失礼しちゃう。
話そうとしたのに遮るなんて。
文句を言おうと思って口を開けた瞬間、紅の唇が下りてくる。久しぶりのキスに胸がドキドキしてしまう。しかも、結構深い大人のキスだ。角度を変えた唇から紅の舌が……って、やっぱり恥ずかしい!
「ま、まま待って、紅! 私を探していたのって、まさかこのため?」
「違うけど。お前が可愛いのがいけない」
「か、可愛っ……」
急に顔が熱くなる。
平気な顔でサラッとそんなことを言うから、余計に照れてしまう。
「何だ、もっと褒めようか? お前にはもう少し自覚してもらいたい」
「自覚……何を?」
首を傾げていると、紅はポケットからあるもの取り出して私の手のひらに乗せた。小さな白い箱には、高級宝飾メーカーの金色の文字が刻んである。
「紅、まさかこれって……」
「開けてみて」
箱を開くと、中には小さな七色の石をちりばめた指輪が入っていた。箱にはチェーンも入っていて、指輪を通すと首にかけることもできそうだ。
「本当は正式な婚約指輪を贈りたかったんだけど。学生だし目立つから、簡単なものにしておいた」
「紅……」
「受け取りを見られて、女子がぞろぞろついて来たのには参った。だけど、みんな相手がお前だと知っているから、騒がれなくてよかった」
さっき紅が女の子達に囲まれていたのは、そのせいなのね? なのに私は彼を見て、ちょっとモヤっとしてしまった。
「ごめんね。ありがとう」
泣きそうになる私を見て、紅が目を細める。
「なぜ謝る? ちょっと貸してみ。はめてあげるから。ああ、そうか、その前に――」
言うなり紅は私の左手を取り、手の甲にキスをした。その姿勢で私の目を覗き込むと、真剣な表情で語る。
「紫、好きだ。一生を共にするなら俺はお前がいい。在学中、できたら夏にでも婚約してくれ」
心臓がドキンと大きく跳ねた。自覚って、婚約者としての自覚ってことね?
紅が将来のことを具体的に考えているとは知らなかった。だけどもちろん、私に異論はない。大好きな人と共に歩む未来が、すぐそこまで来ている。
「私も紅が好き。嬉しい」
答えを聞いた瞬間、紅が大きく笑う。
私の左手を取ると、薬指に虹の指輪をはめてくれた。
「ありがとう、紅。ずっと一緒にいようね」
「当たり前だ。何年待ったと思っている?」
感激のあまり泣き出す私に、紅が優しく言葉をかける。
誰もいない午後の旧校舎でしっかり抱き合う私達。そんな二人をステンドグラスを通した虹が、祝福するように優しく包んでいたのだった。
完
*****
最後までご覧いただき、ありがとうございました(^∇^)。優しいあなたに感謝を込めて…… きゃる
橙也の言葉に私は意識を戻した。
「会わなかった? じゃあ行き違いになったのかもね。もうすぐ離れる俺に、君を貸してくれたっていいのに。独占欲の強い男はこれだから嫌だな。何なら一緒に留学する?」
すぐに冗談を言う橙也の顔は、あの日と違ってけろっとしている。仲間の多い学園を出る寂しさも、どうやら吹っ切れたようだ。
「いや、留学は遠慮しとくよ。私はまだ、学園でやり残したことがあるから」
いつか海外には行ってみたいと思う。
だけどそれは今じゃない。
生徒会長になったばかりでここを離れるなんて、嘘でも考えたことはない。第一、お金もないし。
「何だ残念。ま、予想していたけどね」
肩を竦める橙也が大げさにため息をつく。やっぱりからかっただけなのね? 彼は以前からずっと、私に対する態度が変わらない。
ところで、紅が探しているのって何でだろ。さっき渡り廊下の近くで見かけたから、まだ外にいるのかな?
「じゃあ藍人、せっかくだから橙也の好みも聞いておいて!」
「あ、俺も行く……って、何だよ橙也」
「恋人達の逢瀬に君は邪魔だよ?」
「なっ」
きっと、そんなんじゃないのに。
話す二人を置いて、私はさっさと教室を出た。ここで捕まえておかないと、また紅とは会えなくなる。送別会のことかな? 橙也本人にもバレたことだし、せっかくだから彼も巻き込んでみんなで計画してみよう。
この世界はゲームではない。
シナリオともだいぶ違うから、この先を私は知らない。私が生徒会長になったり、橙也が桃華に惹かれずに留学しようとするなんて、ゲームよりも現実の方がはるかに面白い。
……あ、閃いちゃった。
『大きな男になる』ってことは、橙也が好きなのは外国の女性! そうか、それなら身長もつり合いが取れるのか。彼も綺麗な顔立ちだし、仕草も優雅だから並んでも全然違和感ないかも。
紅に会ったら教えてあげよう。橙也が学園を出るのは周知の事実だから、もう話してもいいはずだ。
「私が鈍くて良かった」って、この前ふと漏らした言葉を撤回させるいい機会かもしれない。
ちょうど旧校舎辺りにさしかかった時。木の陰から大好きな声が私を呼び留めた。
「紫、こっちだ。探したぞ」
「紅!」
私は走り寄ると、彼の広げた腕に飛びんだ。
抱き締められて、ふと気づく。
あれ、さっきの取り巻き達は?
キョロキョロしている私の頭に紅がキスを落とす。
「どうした? 誰もいないが気になるなら中に入ろう」
そう言った紅が私の手を取り指を絡める。恥ずかしいけど、久々なのでまあいいか。そのまま、旧校舎の中に引っ張っていかれた。
旧校舎は木造の洋風の建物だ。
以前はここで猫の『ゆかり』を育てていた。けれどゆかりは理事長室で飼っているため、今は誰もいない。はめ込まれたステンドグラスを通して、午後の光が射しこむ。床に映る七色は、さながら虹を集めたようだ。見惚れていると、正面に立った紅が私の頬に片手を添える。
「まったく。お前がこんなに忙しくなると知っていたなら、応援するんじゃなかったな」
「生徒会のこと? だったら紅も入れば良かったのに」
「理事長も櫻井だからダメだろ。そう言ったのに、黄は聞く耳を持たなかった」
「みんなそこまで気にしてないけど。私は、黄が手伝ってくれるから助かってるよ?」
「はあぁー」
弟である黄を褒めたのに、紅は大きなため息をついている。何でだろ。
「無自覚は恐ろしいな。黄も花澤も、お前がいるから生徒会に入ったんだろう? 最近は蒼や藍人までお前の周りをウロチョロしているみたいだし。まあ、橙也が留学するのがせめてもの救いかな」
「何のこと? 橙也が留学するのは自分のためだよ。それに、みんなが手伝ってくれるおかげで仕事もはかどってるし。誰かさんは全然会いに来てくれないのにね」
「いいのか? 俺が側に行く度に、お前の方が嫌がってたと思うんだけど」
「嫌がってなんか! でも、紅が所構わずすぐにくっつこうとするから、照れくさいんだけど」
「せっかく想いが通じたんだ。それくらいいいだろう?」
「だーめ。好きだからってベタベタしてたら、ただのバカップル……」
「ほう? 好きだって認めるんだ。俺に冷たくしておきながら」
「冷たくしてないもん!」
紅の茶色い瞳が面白そうに煌いている。雲行きが怪しくなりそうなので、違う話をしよう。
あ、そうだ。
「そういえば、橙也が留学するのって大きな男になるためなんだって。好きな人が外国人だと大変だね」
「そう来たか。わかってなければいい。紫、もう何も言うな」
失礼しちゃう。
話そうとしたのに遮るなんて。
文句を言おうと思って口を開けた瞬間、紅の唇が下りてくる。久しぶりのキスに胸がドキドキしてしまう。しかも、結構深い大人のキスだ。角度を変えた唇から紅の舌が……って、やっぱり恥ずかしい!
「ま、まま待って、紅! 私を探していたのって、まさかこのため?」
「違うけど。お前が可愛いのがいけない」
「か、可愛っ……」
急に顔が熱くなる。
平気な顔でサラッとそんなことを言うから、余計に照れてしまう。
「何だ、もっと褒めようか? お前にはもう少し自覚してもらいたい」
「自覚……何を?」
首を傾げていると、紅はポケットからあるもの取り出して私の手のひらに乗せた。小さな白い箱には、高級宝飾メーカーの金色の文字が刻んである。
「紅、まさかこれって……」
「開けてみて」
箱を開くと、中には小さな七色の石をちりばめた指輪が入っていた。箱にはチェーンも入っていて、指輪を通すと首にかけることもできそうだ。
「本当は正式な婚約指輪を贈りたかったんだけど。学生だし目立つから、簡単なものにしておいた」
「紅……」
「受け取りを見られて、女子がぞろぞろついて来たのには参った。だけど、みんな相手がお前だと知っているから、騒がれなくてよかった」
さっき紅が女の子達に囲まれていたのは、そのせいなのね? なのに私は彼を見て、ちょっとモヤっとしてしまった。
「ごめんね。ありがとう」
泣きそうになる私を見て、紅が目を細める。
「なぜ謝る? ちょっと貸してみ。はめてあげるから。ああ、そうか、その前に――」
言うなり紅は私の左手を取り、手の甲にキスをした。その姿勢で私の目を覗き込むと、真剣な表情で語る。
「紫、好きだ。一生を共にするなら俺はお前がいい。在学中、できたら夏にでも婚約してくれ」
心臓がドキンと大きく跳ねた。自覚って、婚約者としての自覚ってことね?
紅が将来のことを具体的に考えているとは知らなかった。だけどもちろん、私に異論はない。大好きな人と共に歩む未来が、すぐそこまで来ている。
「私も紅が好き。嬉しい」
答えを聞いた瞬間、紅が大きく笑う。
私の左手を取ると、薬指に虹の指輪をはめてくれた。
「ありがとう、紅。ずっと一緒にいようね」
「当たり前だ。何年待ったと思っている?」
感激のあまり泣き出す私に、紅が優しく言葉をかける。
誰もいない午後の旧校舎でしっかり抱き合う私達。そんな二人をステンドグラスを通した虹が、祝福するように優しく包んでいたのだった。
完
*****
最後までご覧いただき、ありがとうございました(^∇^)。優しいあなたに感謝を込めて…… きゃる
0
『綺麗になるから見てなさいっ!』(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックス。書店、通販にて好評発売中です。
お気に入りに追加
1,845
あなたにおすすめの小説

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる