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友人と言う名のお世話役
紅輝と蒼士
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ヒロインの桃華と席が隣同士になった私。必然的にくっついて、一つしかない教科書を見ることになる。男子からは羨ましがられ、女子からはチラチラ視線を送られる。桃華は全く気にしていない様子で、時々笑顔で私に話しかけてくる。けれど私が発するのは、「ああ」「いや、違う」の二言だけ。
ごめん、愛想がなくて。好かれたら困るから、悪いけどあんまり仲良くできないんだ。
だけど正直、桃華の首を傾げたり考え込んだりする仕草の一つ一つが、文句なく可愛いらしい。さすがはヒロイン! 女の子の私でさえ思わず目を奪われてしまう。クラスの男子は言うに及ばず。綿菓子のようなふわっとした可愛らしさに、紅も黒板よりも彼女のことが気になるようだ。
桃華にはこの調子で攻略対象――特に櫻井三兄弟を片っ端からメロメロにしてもらいたい。
昼休みになるとすぐに、蒼が隣のクラスからやって来た。もしかして、美少女の噂を早速聞きつけて来たのかな? 紅に続いて蒼にまで会いたいと思わせるなんて、桃華のヒロイン力ってばすごいな。
ところが蒼は桃華には目もくれず、私に直接話しかけてきた。
「紫記。今日七限目にある化学の実験だが、二クラス合同だ。組めるか?」
「四人で一グループのやつ? 別にいいけど。藍人と橙也も入るのか?」
「いや、まだ聞いていない。お前との方が作業がはかどる」
化学が得意な蒼に言われるのは、お世辞でも嬉しい。彼らのお世話係をしているせいか、紅や蒼、黄の癖がなんとなくわかる。蒼は全体を見て結果をまとめたいタイプだから、私は実験役に回ればいい。『虹カプ』の攻略対象である藍人と橙也は蒼と同じクラスで、私も友人として仲良くさせてもらっている。
「あら、でしたら私もご一緒したいわ。初めてですもの。紫記様、教えて下さいますか?」
隣の桃華が口を開いた。
蒼は彼女に初めて気づいたようで、ギョッとしている。
あれ? でもこのヒロイン、何だか随分積極的だ。蒼と桃華が仲良くなるのは、まだ先ではなかったかな?
「僕なら構わないけれど。蒼、だったら紅は?」
四人一グループだと、桃華を入れたらあと一人しか入れない。藍人と橙也を誘うのは無理なようだ。だったら紅はどうだろう? 彼は人気だから、放っておいてもあぶれることはないけれど。
「聞いてみる。お前が女子の頼みを聞くのは珍しいな?」
「ああ、ごめん。紹介がまだだったね。彼女は花澤 桃華さん。今日転校してきたばかりで、担任に面倒をみろと言われているから、それで」
私は桃華を蒼に紹介した。
不本意ながら側にいるということを、桃華に聞こえるようにわざと言った。
彼女のことは、きっと蒼が助けてくれる。順番が前後しても恋に時間は関係ないはず。蒼とくっつく運命なら、今がチャンスだ。
「よろしくお願いします。蒼様」
「蒼士だ。親しくない者にはそう呼ばれている」
蒼の冷たい口調に一瞬怯む桃華。
あれ? 見つめ合って恋に落ちるのは?
蒼、彼女はヒロインだよ? そこでいつものようにバッサリ切ったらだめでしょう。
おかしいな、ゲームだと出会って間もなく桃華の魅力にくらくらする……はずなんだけど。やっぱりタイミングが早過ぎた? ストーリー通りに廊下で桃華にぶつかるまでは、蒼は彼女のことを好きにならないのかもしれない。
「何だ? 紫記、蒼。俺の名前が聞こえた気がしたけど」
紅だ。向こうの席にいたはずなのに、やはり桃華のことが気になったのかな? 率先して声をかけに来るとは、非常にいい兆候だ。
「紅、今日の化学は実験だが、空いているか?」
蒼が兄の紅に問う。
彼らは二卵性の双子なので、あまり似ていない。けれど揃って背が高く、スタイルがいい。それぞれが日本人離れした端整な顔立ちなので、並ぶとすごく絵になる。一部の女子たちからは、ため息まで出ている。
「どうかな。紫記も一緒? だったら俺も人数に入れてくれて構わない」
紅ったら、照れちゃって。
素直じゃないんだから。
本当は、「桃華も一緒?」って聞きたかったんでしょう? だって、さっきからこっちを見ていたし、ヒロインのことが気になるようだから。
本来なら紅輝は、運動場で怪我した桃華をお姫様抱っこして保健室に運ぶ。その後から彼女のことが気になりだして、構うようになる。それまでは、特に接点はなかったような。でも、同じクラスでこんなに近くにいるのに、話しかけないのは明らかに不自然だ。
「花澤さん、彼は櫻井 紅輝。蒼士の双子の兄だ。見た通り手が早いから気をつけて」
ヒロインに夢中になった紅は、心を入れ替え真面目になる。知っているからこそ言えるセリフだ。
「紫記、お前なぁ。まあいいや。よろしく」
紅はさりげなく握手の手を差し出した。
私は桃華の表情を見てみる。
茶色の瞳が輝き、意外に好感触だ。
よし、いける!
蒼より紅の方がいいみたい。
なのに桃華は握手はせずに、紅も手をあっさりひっこめたようだ。
しまった、私が余計な一言を付け加えたせい?
それともあれかな。
お互い見つめ合って握手するのを忘れたパターン?
「よろしくお願いします。紅様」
「……紅輝だ」
紅もわざわざ言い直した。
何でだろ?
兄弟揃って名前を縮められるのが嫌だとか。それとも、保健室に運んでいないからまだ早いの?
他人でも、私に呼ばれるのは平気なくせに変なの。でもまあ、そのうち自分からヒロインに「愛称の方で」とお願いするだろうから、特に心配はしていない。
紅と蒼に紹介したから、あとは黄。
ヒロインである桃華は、果たして誰と恋に落ちるのだろうか?
ごめん、愛想がなくて。好かれたら困るから、悪いけどあんまり仲良くできないんだ。
だけど正直、桃華の首を傾げたり考え込んだりする仕草の一つ一つが、文句なく可愛いらしい。さすがはヒロイン! 女の子の私でさえ思わず目を奪われてしまう。クラスの男子は言うに及ばず。綿菓子のようなふわっとした可愛らしさに、紅も黒板よりも彼女のことが気になるようだ。
桃華にはこの調子で攻略対象――特に櫻井三兄弟を片っ端からメロメロにしてもらいたい。
昼休みになるとすぐに、蒼が隣のクラスからやって来た。もしかして、美少女の噂を早速聞きつけて来たのかな? 紅に続いて蒼にまで会いたいと思わせるなんて、桃華のヒロイン力ってばすごいな。
ところが蒼は桃華には目もくれず、私に直接話しかけてきた。
「紫記。今日七限目にある化学の実験だが、二クラス合同だ。組めるか?」
「四人で一グループのやつ? 別にいいけど。藍人と橙也も入るのか?」
「いや、まだ聞いていない。お前との方が作業がはかどる」
化学が得意な蒼に言われるのは、お世辞でも嬉しい。彼らのお世話係をしているせいか、紅や蒼、黄の癖がなんとなくわかる。蒼は全体を見て結果をまとめたいタイプだから、私は実験役に回ればいい。『虹カプ』の攻略対象である藍人と橙也は蒼と同じクラスで、私も友人として仲良くさせてもらっている。
「あら、でしたら私もご一緒したいわ。初めてですもの。紫記様、教えて下さいますか?」
隣の桃華が口を開いた。
蒼は彼女に初めて気づいたようで、ギョッとしている。
あれ? でもこのヒロイン、何だか随分積極的だ。蒼と桃華が仲良くなるのは、まだ先ではなかったかな?
「僕なら構わないけれど。蒼、だったら紅は?」
四人一グループだと、桃華を入れたらあと一人しか入れない。藍人と橙也を誘うのは無理なようだ。だったら紅はどうだろう? 彼は人気だから、放っておいてもあぶれることはないけれど。
「聞いてみる。お前が女子の頼みを聞くのは珍しいな?」
「ああ、ごめん。紹介がまだだったね。彼女は花澤 桃華さん。今日転校してきたばかりで、担任に面倒をみろと言われているから、それで」
私は桃華を蒼に紹介した。
不本意ながら側にいるということを、桃華に聞こえるようにわざと言った。
彼女のことは、きっと蒼が助けてくれる。順番が前後しても恋に時間は関係ないはず。蒼とくっつく運命なら、今がチャンスだ。
「よろしくお願いします。蒼様」
「蒼士だ。親しくない者にはそう呼ばれている」
蒼の冷たい口調に一瞬怯む桃華。
あれ? 見つめ合って恋に落ちるのは?
蒼、彼女はヒロインだよ? そこでいつものようにバッサリ切ったらだめでしょう。
おかしいな、ゲームだと出会って間もなく桃華の魅力にくらくらする……はずなんだけど。やっぱりタイミングが早過ぎた? ストーリー通りに廊下で桃華にぶつかるまでは、蒼は彼女のことを好きにならないのかもしれない。
「何だ? 紫記、蒼。俺の名前が聞こえた気がしたけど」
紅だ。向こうの席にいたはずなのに、やはり桃華のことが気になったのかな? 率先して声をかけに来るとは、非常にいい兆候だ。
「紅、今日の化学は実験だが、空いているか?」
蒼が兄の紅に問う。
彼らは二卵性の双子なので、あまり似ていない。けれど揃って背が高く、スタイルがいい。それぞれが日本人離れした端整な顔立ちなので、並ぶとすごく絵になる。一部の女子たちからは、ため息まで出ている。
「どうかな。紫記も一緒? だったら俺も人数に入れてくれて構わない」
紅ったら、照れちゃって。
素直じゃないんだから。
本当は、「桃華も一緒?」って聞きたかったんでしょう? だって、さっきからこっちを見ていたし、ヒロインのことが気になるようだから。
本来なら紅輝は、運動場で怪我した桃華をお姫様抱っこして保健室に運ぶ。その後から彼女のことが気になりだして、構うようになる。それまでは、特に接点はなかったような。でも、同じクラスでこんなに近くにいるのに、話しかけないのは明らかに不自然だ。
「花澤さん、彼は櫻井 紅輝。蒼士の双子の兄だ。見た通り手が早いから気をつけて」
ヒロインに夢中になった紅は、心を入れ替え真面目になる。知っているからこそ言えるセリフだ。
「紫記、お前なぁ。まあいいや。よろしく」
紅はさりげなく握手の手を差し出した。
私は桃華の表情を見てみる。
茶色の瞳が輝き、意外に好感触だ。
よし、いける!
蒼より紅の方がいいみたい。
なのに桃華は握手はせずに、紅も手をあっさりひっこめたようだ。
しまった、私が余計な一言を付け加えたせい?
それともあれかな。
お互い見つめ合って握手するのを忘れたパターン?
「よろしくお願いします。紅様」
「……紅輝だ」
紅もわざわざ言い直した。
何でだろ?
兄弟揃って名前を縮められるのが嫌だとか。それとも、保健室に運んでいないからまだ早いの?
他人でも、私に呼ばれるのは平気なくせに変なの。でもまあ、そのうち自分からヒロインに「愛称の方で」とお願いするだろうから、特に心配はしていない。
紅と蒼に紹介したから、あとは黄。
ヒロインである桃華は、果たして誰と恋に落ちるのだろうか?
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