私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる

文字の大きさ
上 下
4 / 85
友人と言う名のお世話役

幼なじみ2

しおりを挟む
「ゆかりちゃん、いっしょにお絵かきしよ?」
「向こうでお砂あそびをしようよ」
「ゆかりたんは、ぼくとあしょぶの!」

 両親が共働きだったうちとお隣。
 当然、預けられる保育園も一緒だった。
 まあ、櫻井家はお金が有り余っているからベビーシッターを頼んでも良かったのだろうけれど。三兄弟はなぜか成金のうちと同じくちょっとお高い『くまさん保育園』に通っていた。  
   保育園でも私達は、すごく仲が良かった。しかし三兄弟は、園児達の洗礼を受けてしまう。親が大金持ちだろうと小金持ちだろうと、小さな子供には関係ない。三人は『信号兄弟』と呼ばれ「あか、あお、きいろ」と面白がってからかわれた。

   大泣きする三人を慰めて、背中に庇っていた私。くっついて回る彼らのお世話をし、いじめっ子達を毎日のように追い払ってあげた。バカにされる度にべそをかき、不安そうに手を握ってきた紅と蒼。黄は甘えて私によく抱きついてきたっけ。今思い出しても、あの頃の彼らは素直でとっても可愛かった。

 そういえば小学校高学年の頃、黄が誘拐されそうになったこともあった。櫻井家の教育方針なのか、彼らも私と同じ近くの公立の小学校に通っていた。普通の子供として育てたいというのが、うちの親の言い分。残念ながら、そこの警備は万全ではなかった。

 校門近くで待ち伏せていた怪しい男がいきなり黄を抱っこし、連れ去ろうとした。一緒にいた私は必死に犯人の右手にかみつき、紅が男にしがみつく。その間に、蒼が大人を呼びに行った。
 犯人に手を振り払われ、地面に叩きつけられてしまった私は、その時ちょっとした怪我をした。幸い駆けつけた先生たちに助けられ、犯人も通報されてすぐに捕まった。
   怖くて泣きじゃくる黄を、蒼と私が慰めた。紅はお兄ちゃんらしく、悔しそうに唇を噛んでいた。ちなみに、私の左耳の上、髪で隠れる所にある傷はその時の名残だ。

 事件後すぐ、三人は警備の手厚い私立の小学校に転校してしまった。一緒にどうかと誘われたけど、忙しかった我が家の両親はあっさり断ってしまった。私はそのまま、近くの公立の小学校に通い続けた。

 本当は寂しかった。
   親しい幼なじみが離れてしまって、胸にポッカリ穴が開いたような感じがした。だけど我が儘は言えない。言えば優しい三人は、私のことを心配してしまう。
   だから私は、別々の学校に通っても彼らの前では笑顔を心がけた。学校の様子を聞かれても、楽しいことだけを話すことにした。彼らを守る『強いゆかりちゃん』は、不安な顔を見せてはいけない。私は一人でも大丈夫、だから心配しないで。そう必死にアピールし続けた。

 今だからこそ言えるけれど、当時の私は三兄弟のことを好きだったように思う。誰が、というのは特になくて三人まとめて。だって、クオーターの小さな子ってそれはそれは可愛らしいから。天使のような三人は、私の自慢で大切な宝物だった。
 だけど今は違う。彼らは雇い主の息子で大財閥の御曹司だ。大事な人との約束のこともあるし、好きになってはいけない。まあ、好きだといっても当時のは、母親のような気持ちかな。



 中学生になった三人は、父親が忙しく家にいないのをいいことに、結構荒れた。派手な紅は、夜遅くまで遊んでいるのか帰ってこない。久々に会った私は注意をした。

「気になるなら一緒に来る?」
「そんなヤンキーのような真似はできないんだけど」
「へぇ。紫は俺のこと、そう思っているんだ」

   蒼も蒼でふらっといなくなり、帰らない日があると聞いた。

「どこに泊まっているの?」
「私の自由だ。干渉しないでくれ」

   黄も芸能事務所にスカウトされたとかで、学校を休んでモデルの仕事を勝手に始めようとしていた。

「学校はちゃんと行かなきゃダメでしょう?   おじ様の許可は取ったの?」
「だって、早く一人前になりたいんだ!」

   私には彼らの意図がわからなかった。頼りにされず、相談もされなくなったのには、正直がっかりした。

「みんなどうしたの?   色々あって寂しいのはわかるけど、もう中学生だし落ち着こうよ」



 そんな時、うちの借金問題が持ち上がり、櫻井父に助けてもらった。私は親公認のお世話役となり、櫻井家に彼らの世話をしに行くこととなった。とはいえ余程のことがない限り、うるさく言ってはいけない。だって、御曹司と落ちぶれてしまった私とでは、立場が違うのだ。

 夜遊びする紅はやんわりたしなめるだけに留めた。その際、「補導されても引き取る人がいないよ?」と指摘しておいた。
   何を考えているのかわからない蒼にも、しつこく問い正さないように気をつけた。ただし、「他人に迷惑をかけないように」と言い含めておいた。
   可愛い顔してやんちゃな黄にも勝手なことをしないよう言って聞かせた。

「僕がモデルになって、みんなのものになったら困る?」
「当たり前でしょう。学生の本分は勉強よ」

 その他、家庭教師の女子大生といちゃつく紅を目にしたり、同じ中学の女生徒と仲良く帰る蒼の姿を目撃したりは日常茶飯事。黄も時々、女の子だけでなく男の子にまで囲まれていた。
  恩返しができるよう、世話役として頑張ろうと決めていた私。元々カッコいい三兄弟に彼女ができたくらいで動じてはいけない。
   それなのに、何か不満があったのだろうか?   彼らは私の反応を見る度に、渋い顔をしていた。仲を邪魔する気なんてないんだけど。世話役にそんな権限などないし、彼らが幸せになるのなら応援したい。
 


 三人ともうちの親の前では猫を被る。
 高校の合格祝いの夕食会に招いた時、酔ったうちの父が彼らにこんな質問をしていた。

「大きくなったら紫ちゃんをお嫁に下さいって、俺に頼みに来たことを覚えているか? 何なら今から婚約しとくか?」

   さすがにそれはもう時効だ。
 酔っ払っていい気分になっているからといって、楽しい食事時に盛り下がるようなトークはダメだと思う。

「もちろんです。もう大きいので今すぐにでも」と、紅が笑う。
「彼女のよき伴侶になれるよう、努力しているところです」と、蒼が見つめる。
「紫ちゃんは僕のだよ?   兄さんたちには渡さない」と、黄が拗ねる。

   リップサービスありがとう。
   でも、全部が嘘だと知っている。
 だって私は、三兄弟ところころ変わるカノジョの様子を目にしている。その時感じた寂しさを、受け入れる術も身に着けた。
 このままではいけない。中学卒業を期に、もっとしっかりしなければ。彼らはここから離れた櫻井財閥系列の、有名私立の学園に入学をする予定だ。男子寮に入る彼らにお世話役は必要ない。どこかで割のいいバイトを探して、少しでも家計を助けよう。



 そんな私を最も驚かせる出来事が起こったのが、今から約一年前。私が通う予定だった公立高校の入学式直前のことだった。
しおりを挟む
『綺麗になるから見てなさいっ!』(*´꒳`*)アルファポリス発行レジーナブックス。書店、通販にて好評発売中です。
感想 45

あなたにおすすめの小説

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...