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リューク
紫の呪縛
しおりを挟む――もう、いい加減にして欲しい。
図書館で借りた本を部屋のデスクに放り投げると、水色の髪をかき上げながら俺はため息を吐いた。
目に浮かぶのは、こちらを見つめる紫色の瞳。珍しいその色は、俺の知る限り彼女だけのものだ。授業の時の一生懸命な様子も、カイルと話す時の嬉しそうな笑顔も、慌てた様子も怒った顔も、すぐに思い出せる。俺に叱られた後の、泣き顔も――
なのに、彼女のことだけ思い出せない。
彼女の過去が浮かんでこない。
過去を少しでも気にかけようものなら、頭がだんだん痛くなってくる。
それでも、わずかでも思い出したい!
君は、俺の何なんだ?
「違うわ! ブランカ様はあなたの……」
「君さえ良ければ、私が告白してしまうけれど」
割れるように頭が痛い。
まだだ、まだあと少しだけ考えさせてくれ。
あと少しで、何かを思い出せそうな気がする。
「ぐあっ……!」
いつもの何倍もの痛みが、俺を襲う。
思わずベッドに倒れこむ。
「ハァッ、ハァ、ハァ……」
浅く息を吐き、痛みを必死で逃す。
俺は本当にただの『記憶喪失』なのか?
それともこれは、君が俺にかけた呪いなのか? いつまで経っても君の事だけが思い出せない。
いつの間にか気を失っていたらしい。
痛みはとうにおさまっている。
俺もバカでは無いから、今までの流れで察する事はできる。
ブランカとは昔、仲が良かったのだろう。
けれど、俺の留学を機に仲違いしてしまったようだ。そして今、彼女はカイルと仲が良い。俺の周りをうろついていた事など忘れたように……
俺は彼女を思い出せない。
彼女の事だけを忘れている。
それなのに、彼女の事がなぜだか気にかかる。何日か前に追い回されて必死に逃げる彼女を見て、思わずそちらへ足が向いた。同じ公爵家で3年の自意識過剰のバカに捕まるのを見て、思わずカッとなってしまった。
「誰もいない場所に逃げ込むお前が悪い。どうぞ狙ってください、と言っているようなものだぞ」
言ってからすぐに後悔した。
心配したのだと、優しく言えば良かった。
泣きそうになる君を見て、なぜか胸が痛かった。
君の涙が忘れた過去を思い出させるのか。頭に突然激痛が走った。泣かせるつもりはなかったけれど、痛みでもう何も考えられない。
耐えがたい痛みに我慢ができず、後ろを向く。君と顔を合わさなければ、君の涙で過去を揺り起こされなければ、俺の痛みは治るはずだから。カイルが来てくれて助かった。カイルになら、安心して君を託す事ができる……本当に? 本当にそれは、俺が望んだこと?
足早にその場を去りながら、彼女のことを考えるのは止める。そうしない限り、痛みがまたぶり返すから。
それなのに今日もまた、視線はすぐに君を捉える。特徴的な色の髪を、俺は見逃さない。
「こんなところで何をしている?」
ガラスに張り付いて中庭を見ていたはずなのに、声をかけると挙動不審にキョロキョロしている。変なしぐさのはずなのになぜか少し心が動いた。
君は俺を見ない。
瞳はカイルを映し、話すのも彼とだけ。
それこそ俺が望んでいた事だ。
けれど不思議と胸が痛んだ。
確か、ユーリスの事を話していた時だと思う。
「カイル様……無理なさらないでくださいね。今度はわたしがなぐさめめますから」
あまりの言葉にギョッとする。
カイルとブランカ、二人の間に何があったか知らないが、恋人同士の甘い言葉は二人きりの時にして欲しい。
だけど君の口から、カイルのためのそんな言葉は聞きたくなかった。なぜかなんてわからない。それがいかに自分勝手な願いかということも。わかっているけどこれ以上二人を見たくなくて、頭痛を言い訳に俺は立ち去った。
必要な資料を探し出し、じりじりとカイルが戻るのを待っていた。そうしている間も、心はつい二人へ飛ぶ。学園は男女交際を禁止せず、むしろ推奨している。カイルとブランカなら家柄も釣り合う。歳も近いしお互い魔力もあるだろうから、周りからは反対されないだろう。だがそれならなぜ、彼女は最初からカイルを選ばなかった? カイルが俺に遠慮したのは、なぜなんだ?
本当に頭が痛くなりそうなので、カイルを探しに席を立つ。先ほどの場所には、話し込むマリエッタとユーリスの姿があった。
「何でカイル様とブランカ様?」
「僕にもわからない」
この二人は本当に付き合っているのか?
全然そんな感じに見えないぞ。
俺ならもっとこう……どうする?
俺は誰とどうしていたのだろうか。
雑念を払おうと頭を振りながら、別の場所を探す。
柱の陰に金色の頭を見つけた。
寄り添う薄紫の頭も。
途端に黒い感情が浮かんでくる。
彼らに近づく。
「カイル、いい加減にしろ! いつまで待たせるんだ!」
気がつけば、カッとなって怒鳴っていた。
それでも怒りはおさまらない。
「気味もだ。図書館に何しに来てるんだ? フラフラしたいだけなら、よそでやれ!」
ああ、本当はこんな事が言いたいんじゃない。泣きそうになりながら、必死に耐える君を見たかったわけじゃないんだ。どうする事もできないがんじがらめの自分を隠したくて、怒りに任せてカイルをズルズルと引き摺っていく。
「ごめんね、ブランカ。この埋め合わせは必ず……」
させるかっっ!!
声に出せたら、この痛みも苦しみもおさまるのだろうか?
その後は調べものに集中できず、すぐに打ち切りとなった。
部屋に戻っても、このザマだ。
――もう、いい加減にして欲しい。
制御できない自分は嫌だ。
情けない自分も。
俺は君から離れたい?
それとも側に居たいのか?
過去の君を思い出せば、全てにケリはつくのだろうか。わけのわからない焦りや痛みも、全ては治る?
ブランカ――君の呪縛から、俺は逃れたい。
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嬉しいので推敲が終わり次第投稿させていただきます。
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でも、アップで見たい…笑
ブランカの鈍感さ呆れるを通りこして笑える
気づいてあげよう…笑
カイン優勝したのにね…笑
リューク良かったね!笑
ご感想をいつもありがとうございますm(_ _)m
そうなんです! タイトル画がまたしても全員カッコいいんです!一花ハ華様が完成している分を編集して下さいました。ありがたや~~(//∇//)
ブランカの鈍さは天然記念物級!
こんなに鈍かったっけと本編を読み返しつつ……やっぱりとっても鈍かった(^з^)。