本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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リューク

帰郷

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  ガラガラガラガラ……

   馬車はもうすぐ、危険な難所に差し掛かる。山道で道幅は広いが、片側は切り立った山肌が見え、もう片方は崖に面している。ここさえ抜ければ、国境まではあと少し。
   身分の差があまり無いとはいえ、首都のあるイデアから離れると、メガイラ国の身分制度は色濃く残る。首都で差別を禁止しているせいか、辺境に行くに従ってむしろ貴族と平民との格差や確執は激しくなる。周辺の暴動やクーデターによってなかなか帰れなかったのはそのせいだ。政変で一掃されたとはいえ、革命軍の貴族排斥主義の狂信的な残党がどこに潜んでいるかはわからない。
   だから通常よりも護衛を増やし、馬車は故郷カレント王国へと向かっている。



   ギギーッ、ガタンッ
   馬車が突然止まった。不安そうな他の留学生二人を横目に、俺――リュークは窓から顔を出してみる。
   馬車が全身黒ずくめの男に囲まれている……?
   数は7~8人程。腕利きの護衛に倒せない数では無いが、馬車から降りて加勢することにする。イデアでも鍛錬は欠かさなかったから、この程度の人数なら俺でも戦力にはなるだろう。

   キィーン、ガキィーン、キン、キン
   敵は、短い剣を使う。一瞬で斬り伏せても良いが、狙いが何かわからない。痛めつけてから、話を聞くことにしよう。
   剣の腕には覚えがあったし相手が劣勢だったから、勝負は直ぐにつくと思われた。7人を次々と地面に転がし、4人の護衛と共に残る1人を取り囲む。
   負けると観念したのか最後の1人は自分の剣をこちらに投げつけると、手を上げ……ずに懐から何かを取り出した。暗器か? 身体を反らして思わず避ける。
   吹き矢だ!
   放たれた矢は迷わず馬車に括り付けた馬の方へと飛んで行った。

   しまった!!  
   ヒヒヒィ~~~~ン、ブルルルル~~、ヒ~~~~ン!!
   馬は大きな声でいななきその場で暴れる。

   自然と身体が動き、弾かれたように走り出す。
   頼む間に合ってくれっっ!!
   馬車の中にはまだ学生がいる。
 扉に手をかけ、大声で叫ぶ。

「降りろっっ!!」

   けれど、暴れた馬は崖に向かってめちゃくちゃに疾走する。扉から振り落とされないように必死にしがみ付く。手を離せば、俺だけは助かる。だけど……

   ダメだ! 間に合わないっっ!!
   そのまま馬車ごと、俺たちは崖から空中に放り出されると、深い森に転落していった。
 水よ、せめて衝撃をやわらげて!
   大きな水の球体で馬車ごと包む。

   はるか下方の常緑樹が、あっという間に目の前に近づく。
水の球体と共に森に突っ込む俺達を、強い衝撃が襲う!!!



   目の前が暗くなり、そこからは何もわからなくなった。
   最期に考えたこと、それは。

   ブランカ――
   俺はまた、君を泣かせてしまうのだろうか?

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