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ジュリアン編
ブランカとの1日デート
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何で僕はもっと早く生まれて来なかったんだろう。何で僕はこんなに弱く、小さな存在なんだろう。
「あら? ジュリアン、今日はいつもより早いのね? 」
昼食時はいつものように、寮の中のカフェテリアでみんなで揃ってランチをとる。僕はようやく、中等部へと進学した。二つ上のブランカは、今は三年生でマリエッタとライオネルも同じ学年。ユーリスは二年生。従兄のカイルは高等部へと進学し、邪魔なリュークは留学中で、一年の予定が未だに帰って来ていない。
そのままずっと、イデアにいればいいのに……
ブランカを溺愛しているリュークから「俺とブランカは付き合う事にした」という衝撃的な言葉を聞いたのは、二年前。それなのに彼は、ずっとこの国に帰って来る気配がない。 だからちょっぴり期待をしてしまう。
もしかして、向こうで好きな人でもできた? それならもう、ブランカとは関係ないよね?
「うん。テストが早く終わったから。中等部の勉強はもう、大体マスターしているしね」
「そう。ジュリアンは努力家で、偉いのね!」
ブランカは今日もまた、眩しい笑顔で応えてくれる。マナーと教養を身に付けて底辺から這い上がって来た僕を、彼女は優しく認めてくれる。
ブランカからの褒め言葉が欲しいために頑張っていると言っても過言ではない。彼女の隣に並ぶため、僕は昔から努力をしている。
幼いあの日に僕を認めてくれた人。
幼い僕を愛情を込めて叱ってくれた人。
彼女は昔、こう言った。
『貴方の態度はあなただけでなく、将来共に歩む女性の評判にも関わるのですからね』
もしも僕が頑張って、この国の誰よりも賢くなったなら、貴女は僕を選んで共に歩んでくれるのだろうか? 僕が立派になったなら、ずっと一緒にいてくれるのだろうか?
「それにしてもみんな遅いね~~。僕もう、お腹がペコペコだよ」
「ふふ、ジュリアンたら素直に育って。相変わらず可愛らしいわね」
そう言うブランカに対して無邪気に見えるようニッコリと笑う。
自分がどう見えるのかなんて既にわかっているから――
「中等部にもなって可愛いと言われるなんて」と普通は怒るものだろうけれど、僕の仕草や行動は全ては計算されたもの。甘えるしぐさも頼りない表情も、全ては周りに警戒心を抱かせないようにするための、自分なりの処世術。
生まれながらに王族だったカイルにはきっとわからない。僕は下級貴族の使用人として育ってきた。「ずる賢い」とか「あざとい」なんて言葉は、僕にとってはむしろ褒め言葉。弱くて小さな存在だけど、時に非情な世の中を生き抜くために、僕は自分の容姿をフルに活用している。
だけど――
それでも、願わずにはいられない。
もし僕がもっと早くに生まれていて、もし早く大きく頼り甲斐のある存在になっていたなら……。リュークなんかよりもっと先に貴女と出会えていたら、貴女は僕を選んでくれていたのかな?僕の隣で、僕だけを見つめてくれていたのかな?
二歳の年齢差は、どうしても埋める事ができない。
それなら僕が、早く大人になるから。
だからあなたはそのままで、誰のものにもならないで!
カフェテリアのいつものテーブルにほお杖をつき、彼女にお願いをしてみる。
「ねぇ、今日の放課後ガゼボで宿題教えてくれない?」
「別に良いけど。でも、変ね。さっきあなたは中等部の勉強は大体マスターしているって言ってなかった?」
しまった。すっかり忘れてた! 宿題はただの口実だから。
「えへへ、見栄を張っちゃった。でも、成績優秀なブランカに教えてもらえれば、本当に助かるんだけどなぁ~。だめ?」
できるだけ可愛く見えるよう、彼女に向かってテヘペロしてみる。だって、ガゼボに行かなきゃ意味がない。
『好きな人に告白すれば結ばれて、恋人同士で行くと永遠に続く』
そんなジンクスがあるガゼボに行かなきゃ意味がないんだ。
「仕方が無いわね。上手く教えられるかどうかわからないけれど。カイル様が高等部でお忙しいなら、私でも良いかしら? それにしても、あなたは昔からガゼボで勉強するのが好きね」
別に勉強はそれほど好きではないけれど、ブランカが勘違いしているようなので、そのままにしておく。
「ありがとう。ブランカ、大好き!」
「ふふ、私もジュリアンが大好きよ」
そう言って笑う君は、今日も僕の想いには気がついていないよね?
母のように姉のように。
そう思って慕っていた時代は、もう遠い過去のこと。僕はもう、君を母や姉としては見ていない。
「二人で先に食べちゃおうか?」
ウィンクしながら言ってみる。今日も僕は無邪気を装う。
☆☆☆☆☆
花に囲まれたガゼボの中で、ジュリアンの勉強を見ながら考える。「教えて」と言った割には算術は得意なようだから、私は本当に見てるだけ。
銀色の輝く髪のジュリアンは、中等部に入って背が伸びてきたとはいえ、今日もとっても可愛らしい。
声も『プリマリ』のままで、ストーリー通りだとするとそろそろマリエッタちゃんのことが気になっているはず。
見た目が愛らしい彼は、実はかなりの肉食系。中等部に進学した事を皮切りに、他の攻略者から出遅れた分を埋めようと、そのアイドルのような顔に似合わずヒロインをガンガンに攻めていく。
だけどストーリーから外れているせいか、今のジュリアンはおとなしく、マリエッタちゃんに特別に接近している様子も見られない。マリーちゃんの事がほんとに好きで、彼女もジュリアン推しならもちろん応援するんだけど……
でも、この子は結構積極的だったから、『プリマリ』でもかなりなシーンに赤面しちゃった覚えがある。
ま、今の天使のような彼からは、想像も出来ないんだけどね?
ふと顔を上げてこちらを見る、ジュリアンの緑色の瞳と目が合う。思いがけず真剣なその表情に、何事だろうと首をかしげる。
「ブランカ、大好きだよ」
突然何? 真面目な顔で言うから、びっくりしてしまうじゃない。でもいつもの軽口だろうから、私も笑っていつものように切り返す。
「もちろん私も、ジュリアンが大好きよ」
私が応えるなりニコーっと笑うジュリアン。
うん、やっぱりいつものワンコだ。
今日も耳としっぽが見える気がする。
亡くなった王弟の落とし胤という不安定な立場の彼を、誰かが支えてくれたなら、と願わずにはいられない。だって、今のジュリアンはとっても可愛く良い子だから。だからこれからはどうか、彼が幸せになりますように――
「あら? ジュリアン、今日はいつもより早いのね? 」
昼食時はいつものように、寮の中のカフェテリアでみんなで揃ってランチをとる。僕はようやく、中等部へと進学した。二つ上のブランカは、今は三年生でマリエッタとライオネルも同じ学年。ユーリスは二年生。従兄のカイルは高等部へと進学し、邪魔なリュークは留学中で、一年の予定が未だに帰って来ていない。
そのままずっと、イデアにいればいいのに……
ブランカを溺愛しているリュークから「俺とブランカは付き合う事にした」という衝撃的な言葉を聞いたのは、二年前。それなのに彼は、ずっとこの国に帰って来る気配がない。 だからちょっぴり期待をしてしまう。
もしかして、向こうで好きな人でもできた? それならもう、ブランカとは関係ないよね?
「うん。テストが早く終わったから。中等部の勉強はもう、大体マスターしているしね」
「そう。ジュリアンは努力家で、偉いのね!」
ブランカは今日もまた、眩しい笑顔で応えてくれる。マナーと教養を身に付けて底辺から這い上がって来た僕を、彼女は優しく認めてくれる。
ブランカからの褒め言葉が欲しいために頑張っていると言っても過言ではない。彼女の隣に並ぶため、僕は昔から努力をしている。
幼いあの日に僕を認めてくれた人。
幼い僕を愛情を込めて叱ってくれた人。
彼女は昔、こう言った。
『貴方の態度はあなただけでなく、将来共に歩む女性の評判にも関わるのですからね』
もしも僕が頑張って、この国の誰よりも賢くなったなら、貴女は僕を選んで共に歩んでくれるのだろうか? 僕が立派になったなら、ずっと一緒にいてくれるのだろうか?
「それにしてもみんな遅いね~~。僕もう、お腹がペコペコだよ」
「ふふ、ジュリアンたら素直に育って。相変わらず可愛らしいわね」
そう言うブランカに対して無邪気に見えるようニッコリと笑う。
自分がどう見えるのかなんて既にわかっているから――
「中等部にもなって可愛いと言われるなんて」と普通は怒るものだろうけれど、僕の仕草や行動は全ては計算されたもの。甘えるしぐさも頼りない表情も、全ては周りに警戒心を抱かせないようにするための、自分なりの処世術。
生まれながらに王族だったカイルにはきっとわからない。僕は下級貴族の使用人として育ってきた。「ずる賢い」とか「あざとい」なんて言葉は、僕にとってはむしろ褒め言葉。弱くて小さな存在だけど、時に非情な世の中を生き抜くために、僕は自分の容姿をフルに活用している。
だけど――
それでも、願わずにはいられない。
もし僕がもっと早くに生まれていて、もし早く大きく頼り甲斐のある存在になっていたなら……。リュークなんかよりもっと先に貴女と出会えていたら、貴女は僕を選んでくれていたのかな?僕の隣で、僕だけを見つめてくれていたのかな?
二歳の年齢差は、どうしても埋める事ができない。
それなら僕が、早く大人になるから。
だからあなたはそのままで、誰のものにもならないで!
カフェテリアのいつものテーブルにほお杖をつき、彼女にお願いをしてみる。
「ねぇ、今日の放課後ガゼボで宿題教えてくれない?」
「別に良いけど。でも、変ね。さっきあなたは中等部の勉強は大体マスターしているって言ってなかった?」
しまった。すっかり忘れてた! 宿題はただの口実だから。
「えへへ、見栄を張っちゃった。でも、成績優秀なブランカに教えてもらえれば、本当に助かるんだけどなぁ~。だめ?」
できるだけ可愛く見えるよう、彼女に向かってテヘペロしてみる。だって、ガゼボに行かなきゃ意味がない。
『好きな人に告白すれば結ばれて、恋人同士で行くと永遠に続く』
そんなジンクスがあるガゼボに行かなきゃ意味がないんだ。
「仕方が無いわね。上手く教えられるかどうかわからないけれど。カイル様が高等部でお忙しいなら、私でも良いかしら? それにしても、あなたは昔からガゼボで勉強するのが好きね」
別に勉強はそれほど好きではないけれど、ブランカが勘違いしているようなので、そのままにしておく。
「ありがとう。ブランカ、大好き!」
「ふふ、私もジュリアンが大好きよ」
そう言って笑う君は、今日も僕の想いには気がついていないよね?
母のように姉のように。
そう思って慕っていた時代は、もう遠い過去のこと。僕はもう、君を母や姉としては見ていない。
「二人で先に食べちゃおうか?」
ウィンクしながら言ってみる。今日も僕は無邪気を装う。
☆☆☆☆☆
花に囲まれたガゼボの中で、ジュリアンの勉強を見ながら考える。「教えて」と言った割には算術は得意なようだから、私は本当に見てるだけ。
銀色の輝く髪のジュリアンは、中等部に入って背が伸びてきたとはいえ、今日もとっても可愛らしい。
声も『プリマリ』のままで、ストーリー通りだとするとそろそろマリエッタちゃんのことが気になっているはず。
見た目が愛らしい彼は、実はかなりの肉食系。中等部に進学した事を皮切りに、他の攻略者から出遅れた分を埋めようと、そのアイドルのような顔に似合わずヒロインをガンガンに攻めていく。
だけどストーリーから外れているせいか、今のジュリアンはおとなしく、マリエッタちゃんに特別に接近している様子も見られない。マリーちゃんの事がほんとに好きで、彼女もジュリアン推しならもちろん応援するんだけど……
でも、この子は結構積極的だったから、『プリマリ』でもかなりなシーンに赤面しちゃった覚えがある。
ま、今の天使のような彼からは、想像も出来ないんだけどね?
ふと顔を上げてこちらを見る、ジュリアンの緑色の瞳と目が合う。思いがけず真剣なその表情に、何事だろうと首をかしげる。
「ブランカ、大好きだよ」
突然何? 真面目な顔で言うから、びっくりしてしまうじゃない。でもいつもの軽口だろうから、私も笑っていつものように切り返す。
「もちろん私も、ジュリアンが大好きよ」
私が応えるなりニコーっと笑うジュリアン。
うん、やっぱりいつものワンコだ。
今日も耳としっぽが見える気がする。
亡くなった王弟の落とし胤という不安定な立場の彼を、誰かが支えてくれたなら、と願わずにはいられない。だって、今のジュリアンはとっても可愛く良い子だから。だからこれからはどうか、彼が幸せになりますように――
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