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ライオネル編
ブランカとの1日デート
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「おう、ブランカ。今日はどうする? シェリーの機嫌も良いし、良い天気だから湖まで行こうか?」
ある晴れた休日、私はライオネルから乗馬に誘われた。『シェリー』とは、彼の愛馬。黒鹿毛の牝馬の名前である。学園内で大人しい馬なら私も一人で乗りこなせるようになったけれど、遠出となると自信が無い。だから時々、シェリーに乗せてもらうのだ。
マリエッタを誘っても相変わらずで、その度に「馬きらーい。だって睨むもの」と言うけれど、馬の目はみんな優しくて睨むだなんて考えられない。まあ、噛まれなくなっただけ少しはマシになったのかしら?
いつものようにライオネルの前で馬に跨る。手綱を掴む私の手のすぐ横に、彼の手が添えられる。
後夜祭以降「肩の刻印は意外と危ない」ということで、ルルー先生に魔法陣を描き直してもらい、『魔封じ』の効力も弱めてもらったから、服の上からなら触られても平気。前みたいに絶対に肩が触れないように、と硬直して馬に乗らなくても良いから気が楽だ。
その事を知っているライオネルが結構しっかり支えてくれて早駆けもできるようになったから、遠くまで行っても大丈夫! 時間に余裕ができるようになった。だから『プリマリ』に出ていた憧れの湖と杉林を見に行くこともできるはず。何気なく聞いてみたら、彼はその場所を知っていて、時々一人で行っているという。さすがは『プリマリ』の攻略対象! その辺はゲーム通りでとても頼もしい。
なのに肝心のヒロイン、マリエッタが全然馬には乗ってくれない。ストーリーと違うせいか、それともライオネルには興味が無いのか、誘ってもいつも断られてしまう。それなら私も遠慮しようかしら……留学中のリュークにも悪いし。そう一度は思ってみたものの、や、やっぱり湖見てみたい!!
悪役令嬢を止めることにしたとはいえ『プリマリ』の、あの憧れのシーンに出てきた風景を見てみたい! というファン心理は健在なのだ。だからつい、ライオネルに誘われて「行きたい!」と言ってしまった。
ま、ライオネルも元々マリエッタ狙いのはずだし、留学前のリュークのあの恥ずかしい宣言にも呆れていたぐらいだから、『プリマリ』のヒロインと同じ道のりを辿ったからといって、相手にされることも無いだろう。
ただの同級生だし、遠出の前のガゼボでライオネルと愛を確かめ合った覚えは無いし……あっても困るけど。
そんなわけで私は今日、かなりピクニック気分でカフェテリアでランチまでテイクアウトしてしまった。
さ、湖までレッツゴー!!すごく楽しみだ。
☆☆☆☆☆
できるだけさりげなく、速やかに、スマートに。
俺は今日も何気ないふりをして、ブランカをデートに誘った。
ま、デートだと思っているのは俺だけで残念ながら彼女は、ただ馬に乗って遠出をするだけだと思っているんだけど。
リュークとブランカの交際宣言が、まだ尾をひいている。二人とも学園で特に一緒にいたという記憶はない。むしろ同じクラスにいた分、俺の方が話す機会は多かったはずだ。なのになぜ? 俺はどこで間違えた?
ブランカの名前は、ブランカ=シェリル=バレリーという。この国ではセカンドネームは大切な人にしか呼ばせない習慣だから、俺は愛馬にシェリーと名付けた。シェリーと愛称を堂々と呼んで、俺は愛馬を可愛がった。黒い目の賢いシェリーは、ブラッシングしながら愚痴る俺の話をいつも黙って聞いてくれる。口に出せない俺の想いも、きっとわかってくれている。
ブランカのそばでわざと愛馬の名を呼ぶ時、「シェリー」と優しく撫でる時、馬が好きな彼女は紫色の綺麗な目を細めて、眩しい笑顔でそれを眺める。
それだけで、満足している俺がいる。
こんな時間が、ずっと続けば良いなと願う。
リュークが帰ってきたならば、こんな時間はもう持てない。彼も乗馬は上手だし、何より最愛の彼女を他の男に託すとは、とても思えないから。
俺はどこで間違えてしまったんだろう?
諦めきれないこの気持ちを、どうすればいい?
「うわー、思っていたよりキラキラしてとてもきれいな湖ね!」
最近の彼女はよく笑う。
今も、輝く笑顔を俺だけに向けてくれている。
「だろ? 静かだし、考え事をするには一番だ」
何気ないふりをして答えるけれど、『考えているのは主にブランカのことだ』と言ったら、君はどんな顔をするだろう?
封じられているはずの君の魔法。
今まで感じた事の無いこの想い。
君の魔法が効いているのだとしたら、魅了の魔法はいつかは解け、俺も元に戻るのだろうか?
湖のほとりで二人きり。
ブランカの持ってきてくれたランチを仲良く食べて一息つく。静かで心満たされるこの時間。草地にゴロンと寝転んで、そっと瞼を閉じてみる。
木々の囁きと鳥の声、そして隣には君がいる。
この平和な時が永遠に続けば良いのに――
もしも時が戻るなら、今度こそ俺は間違えない。
見込みがなくてもみっともなくても、君に想いを伝えよう。所詮は女々しく、無理な願いだとわかっているけれど。
「ライオネル、ライオネルったら。ねぇ起きて! 日が落ちてきそう。さすがにもう戻らなくちゃ、でしょ?」
ブランカに揺り起こされる。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
確かに、陽射しが弱くなっている。
「ああ、ゴメン。寝かせてくれてたんだな。ゆっくりし過ぎた」
「ううん、いいの。私もゆっくりできて楽しかったし」
帰り支度をした後で、二人で再びシェリーの背に跨る。小さな手を引いて彼女をシェリーに引き上げた後、わざと彼女に身体を寄せて背後から腕を回し、しっかりと身体を包みこむように手綱を握り締める。
このまま二人で、どこか遠くに行ってしまえたら――
複雑な思いを抱えたまま俺は学園へと帰路を急ぐ。
叶わぬ願いは抱えたままでいい。
君とは良い友人でいたいから。
だから俺はこれからもきっと、ずっと何気ないふりを続けるんだ。
ある晴れた休日、私はライオネルから乗馬に誘われた。『シェリー』とは、彼の愛馬。黒鹿毛の牝馬の名前である。学園内で大人しい馬なら私も一人で乗りこなせるようになったけれど、遠出となると自信が無い。だから時々、シェリーに乗せてもらうのだ。
マリエッタを誘っても相変わらずで、その度に「馬きらーい。だって睨むもの」と言うけれど、馬の目はみんな優しくて睨むだなんて考えられない。まあ、噛まれなくなっただけ少しはマシになったのかしら?
いつものようにライオネルの前で馬に跨る。手綱を掴む私の手のすぐ横に、彼の手が添えられる。
後夜祭以降「肩の刻印は意外と危ない」ということで、ルルー先生に魔法陣を描き直してもらい、『魔封じ』の効力も弱めてもらったから、服の上からなら触られても平気。前みたいに絶対に肩が触れないように、と硬直して馬に乗らなくても良いから気が楽だ。
その事を知っているライオネルが結構しっかり支えてくれて早駆けもできるようになったから、遠くまで行っても大丈夫! 時間に余裕ができるようになった。だから『プリマリ』に出ていた憧れの湖と杉林を見に行くこともできるはず。何気なく聞いてみたら、彼はその場所を知っていて、時々一人で行っているという。さすがは『プリマリ』の攻略対象! その辺はゲーム通りでとても頼もしい。
なのに肝心のヒロイン、マリエッタが全然馬には乗ってくれない。ストーリーと違うせいか、それともライオネルには興味が無いのか、誘ってもいつも断られてしまう。それなら私も遠慮しようかしら……留学中のリュークにも悪いし。そう一度は思ってみたものの、や、やっぱり湖見てみたい!!
悪役令嬢を止めることにしたとはいえ『プリマリ』の、あの憧れのシーンに出てきた風景を見てみたい! というファン心理は健在なのだ。だからつい、ライオネルに誘われて「行きたい!」と言ってしまった。
ま、ライオネルも元々マリエッタ狙いのはずだし、留学前のリュークのあの恥ずかしい宣言にも呆れていたぐらいだから、『プリマリ』のヒロインと同じ道のりを辿ったからといって、相手にされることも無いだろう。
ただの同級生だし、遠出の前のガゼボでライオネルと愛を確かめ合った覚えは無いし……あっても困るけど。
そんなわけで私は今日、かなりピクニック気分でカフェテリアでランチまでテイクアウトしてしまった。
さ、湖までレッツゴー!!すごく楽しみだ。
☆☆☆☆☆
できるだけさりげなく、速やかに、スマートに。
俺は今日も何気ないふりをして、ブランカをデートに誘った。
ま、デートだと思っているのは俺だけで残念ながら彼女は、ただ馬に乗って遠出をするだけだと思っているんだけど。
リュークとブランカの交際宣言が、まだ尾をひいている。二人とも学園で特に一緒にいたという記憶はない。むしろ同じクラスにいた分、俺の方が話す機会は多かったはずだ。なのになぜ? 俺はどこで間違えた?
ブランカの名前は、ブランカ=シェリル=バレリーという。この国ではセカンドネームは大切な人にしか呼ばせない習慣だから、俺は愛馬にシェリーと名付けた。シェリーと愛称を堂々と呼んで、俺は愛馬を可愛がった。黒い目の賢いシェリーは、ブラッシングしながら愚痴る俺の話をいつも黙って聞いてくれる。口に出せない俺の想いも、きっとわかってくれている。
ブランカのそばでわざと愛馬の名を呼ぶ時、「シェリー」と優しく撫でる時、馬が好きな彼女は紫色の綺麗な目を細めて、眩しい笑顔でそれを眺める。
それだけで、満足している俺がいる。
こんな時間が、ずっと続けば良いなと願う。
リュークが帰ってきたならば、こんな時間はもう持てない。彼も乗馬は上手だし、何より最愛の彼女を他の男に託すとは、とても思えないから。
俺はどこで間違えてしまったんだろう?
諦めきれないこの気持ちを、どうすればいい?
「うわー、思っていたよりキラキラしてとてもきれいな湖ね!」
最近の彼女はよく笑う。
今も、輝く笑顔を俺だけに向けてくれている。
「だろ? 静かだし、考え事をするには一番だ」
何気ないふりをして答えるけれど、『考えているのは主にブランカのことだ』と言ったら、君はどんな顔をするだろう?
封じられているはずの君の魔法。
今まで感じた事の無いこの想い。
君の魔法が効いているのだとしたら、魅了の魔法はいつかは解け、俺も元に戻るのだろうか?
湖のほとりで二人きり。
ブランカの持ってきてくれたランチを仲良く食べて一息つく。静かで心満たされるこの時間。草地にゴロンと寝転んで、そっと瞼を閉じてみる。
木々の囁きと鳥の声、そして隣には君がいる。
この平和な時が永遠に続けば良いのに――
もしも時が戻るなら、今度こそ俺は間違えない。
見込みがなくてもみっともなくても、君に想いを伝えよう。所詮は女々しく、無理な願いだとわかっているけれど。
「ライオネル、ライオネルったら。ねぇ起きて! 日が落ちてきそう。さすがにもう戻らなくちゃ、でしょ?」
ブランカに揺り起こされる。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
確かに、陽射しが弱くなっている。
「ああ、ゴメン。寝かせてくれてたんだな。ゆっくりし過ぎた」
「ううん、いいの。私もゆっくりできて楽しかったし」
帰り支度をした後で、二人で再びシェリーの背に跨る。小さな手を引いて彼女をシェリーに引き上げた後、わざと彼女に身体を寄せて背後から腕を回し、しっかりと身体を包みこむように手綱を握り締める。
このまま二人で、どこか遠くに行ってしまえたら――
複雑な思いを抱えたまま俺は学園へと帰路を急ぐ。
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