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ユーリス編
ユーリス
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最近よく利用するようになった『風』の部屋。
競技会前の今日、僕はそこでブランカに出会った。
彼女とすごく親しいかといえば、そうでもない。
小さい頃の知り合いだとはいえ、ブランカと深い話をした記憶はない。なぜなら僕は、彼女といつも一緒にいるマリエッタの方が可愛くて気になっていたから。明るく優しいマリエッタのために何かできることはないかと、いつも考えていた。
辺境伯の三男である僕は、国境沿いの地域で生まれ育った。辺境伯とはその名の通り、辺境――つまり敵の侵入を防ぐための重要な拠点に設けられた区域、を治める役職のことだ。そのため、父も二人の兄も軍事に秀で、国家の護りに貢献している。
けれど僕は生まれつき身体が弱く、戦いには向いていないと言われていた。だから特に期待もされず、結構自由に過ごしている。剣術より馬術より、勉強している方が好きだった。静かに本を読んでいると心が安らぐ。
小さな頃、僕は第二王子に年が近いという理由で、カイルのおばあ様――王太后様のパーティに招待された。そこで初めて、カイルとリュークに出会った。二人は僕より二つ上なだけなのに、既に物知りでしっかりしていた。一生懸命話しかけて聞き出したところによると、彼らは王宮の図書館をよく利用しているのだという。
確かに、王都の方が辺境の地区よりも文化水準が高く研究も進んでいる。街の図書館も蔵書数が多く、知識の宝庫だ。大好きな本に囲まれる夢のような生活!
それからの僕は、王都の家によく行くようになった。
第二王子のカイルから声をかけられ、王宮でのお茶会や催し物にも積極的に参加するようになった。ある時、僕は金色の髪に青い瞳のマリエッタと出会った。彼女はおとなしくて可愛らしく、昔読んだ絵本に出てくる小さな王女様のようだった。
薄紫色の髪のブランカもいたけれど、彼女はどちらかといえば苦手なタイプ。将来美人になりそうだけど、口調はきつくマリエッタに対して特に厳しく注意するから、あまり好きにはなれなかった。
子ども同士のお茶会の後から、マリエッタやブランカとはよく顔を合わせるようになった。もちろんリュークやカイルとは相変わらずだった。王都に同じくらいの子供が少なかったのと、観劇や音楽会など招待される催し物が重なったために、自然と会う機会は増えていった。
ブランカとそれほど話したことはなかったけれど、彼女が病気になった時、みんなと一緒にお見舞いに行ったことがある。
病気療養のために王都を離れる日も、僕らは彼女の見送りに行った。忙しいはずのカイルやジュリアンまで、どうにか時間を作って出てきていた。ブランカがしばらくいなくなると聞き、ライオネルやマリエッタはもちろんのこと、彼女と幼なじみだというリュークは、特にがっくりきているようだった。
それからも時々、お茶会のたびにその場にいないブランカのことが話題に上った。彼女の療養先は王都からは遠い。けれど、国境沿いのうちの領地からは近かった。
一度訪ねてみようかと思ったけれど、それだとカイルやリュークが黙っていないので止めておいた。
それにちょうどその頃、王都ではカレント王国最高峰の『王立カルディアーノ学園』に初等部ができるとの噂があった。魔法が無理でも、勉強ができて家から通学できれば入れるそうだ。だから当時、僕は王都の家に残って、入学試験のための勉強に励んでいた。
中等部の試験を受けて、秋から編入してきたブランカ。初等部でも、その話題で持ち切りだった。
なぜなら学園の試験は元々難しく、編入試験は通常の2~3倍の難易度と言われていたから。そのため、学園には編入生はほとんどいないんだそうだ。入ってきたばかりの彼女は生徒みなの注目を集めていたと言っていい。
戻ってきたブランカは、大きな眼鏡をかけているんだそうだ。眼鏡を外せばすごく美少女なんだとか。同じクラスのマリエッタと会えるから、僕はジュリアンと一緒に、中等部の校舎に向かうことにした。
あまり親しく話さなかったはずなのに、ブランカは僕の声を覚えていた。それが不思議と嬉しかった。
ジュリアンなんか、マリエッタが側で睨むのも構わずに、ブランカに抱きつき甘えていた。マリエッタもブランカが戻ってすごく嬉しそうで、せっせと彼女の目の治療をしてあげている。
ブランカはもう、マリエッタをいじめないのかな? だったらいいのに。まあ、マリエッタもブランカがいない間に随分しっかりした性格になったから、ほとんど心配はしていないんだけど。
ブランカは、実はすごく面倒見が良い。口では偉そうなことを言うけれど、マリエッタのことを気遣っていて、嫌そうにしながらもよく一緒にいる姿を見かける。
すれ違った時には僕にも必ず挨拶してくれるし、学園内の図書館でも時々会う。マリエッタは図書館を利用しないようで、全く見かけないんだけど。
今回も『風』の部屋で会ったブランカにいつも通りの挨拶をした。
彼女はなぜか僕が競技会に出ることを知っていて、いろいろ聞いてきた。だから僕はつい、剣術や馬術があまり得意ではないこととマリエッタが好きだという気持ちを明かしてしまった。剣や馬は、父や兄達としか比べたことがないけれど。
ブランカは僕の話を熱心に聞いてくれて、「指導を出来る人に心当たりがある」と言ってくれた。どうやらその人に僕のコーチをお願いしてくれるらしい。
甘えてしまっていいのかな?
僕は今まで彼女のために、何もしていないのに……
ブランカは、「明日またここで」と笑って言った。その笑顔が少しだけ可愛く見えて、ドキッとしたのは内緒だ。
競技会前の今日、僕はそこでブランカに出会った。
彼女とすごく親しいかといえば、そうでもない。
小さい頃の知り合いだとはいえ、ブランカと深い話をした記憶はない。なぜなら僕は、彼女といつも一緒にいるマリエッタの方が可愛くて気になっていたから。明るく優しいマリエッタのために何かできることはないかと、いつも考えていた。
辺境伯の三男である僕は、国境沿いの地域で生まれ育った。辺境伯とはその名の通り、辺境――つまり敵の侵入を防ぐための重要な拠点に設けられた区域、を治める役職のことだ。そのため、父も二人の兄も軍事に秀で、国家の護りに貢献している。
けれど僕は生まれつき身体が弱く、戦いには向いていないと言われていた。だから特に期待もされず、結構自由に過ごしている。剣術より馬術より、勉強している方が好きだった。静かに本を読んでいると心が安らぐ。
小さな頃、僕は第二王子に年が近いという理由で、カイルのおばあ様――王太后様のパーティに招待された。そこで初めて、カイルとリュークに出会った。二人は僕より二つ上なだけなのに、既に物知りでしっかりしていた。一生懸命話しかけて聞き出したところによると、彼らは王宮の図書館をよく利用しているのだという。
確かに、王都の方が辺境の地区よりも文化水準が高く研究も進んでいる。街の図書館も蔵書数が多く、知識の宝庫だ。大好きな本に囲まれる夢のような生活!
それからの僕は、王都の家によく行くようになった。
第二王子のカイルから声をかけられ、王宮でのお茶会や催し物にも積極的に参加するようになった。ある時、僕は金色の髪に青い瞳のマリエッタと出会った。彼女はおとなしくて可愛らしく、昔読んだ絵本に出てくる小さな王女様のようだった。
薄紫色の髪のブランカもいたけれど、彼女はどちらかといえば苦手なタイプ。将来美人になりそうだけど、口調はきつくマリエッタに対して特に厳しく注意するから、あまり好きにはなれなかった。
子ども同士のお茶会の後から、マリエッタやブランカとはよく顔を合わせるようになった。もちろんリュークやカイルとは相変わらずだった。王都に同じくらいの子供が少なかったのと、観劇や音楽会など招待される催し物が重なったために、自然と会う機会は増えていった。
ブランカとそれほど話したことはなかったけれど、彼女が病気になった時、みんなと一緒にお見舞いに行ったことがある。
病気療養のために王都を離れる日も、僕らは彼女の見送りに行った。忙しいはずのカイルやジュリアンまで、どうにか時間を作って出てきていた。ブランカがしばらくいなくなると聞き、ライオネルやマリエッタはもちろんのこと、彼女と幼なじみだというリュークは、特にがっくりきているようだった。
それからも時々、お茶会のたびにその場にいないブランカのことが話題に上った。彼女の療養先は王都からは遠い。けれど、国境沿いのうちの領地からは近かった。
一度訪ねてみようかと思ったけれど、それだとカイルやリュークが黙っていないので止めておいた。
それにちょうどその頃、王都ではカレント王国最高峰の『王立カルディアーノ学園』に初等部ができるとの噂があった。魔法が無理でも、勉強ができて家から通学できれば入れるそうだ。だから当時、僕は王都の家に残って、入学試験のための勉強に励んでいた。
中等部の試験を受けて、秋から編入してきたブランカ。初等部でも、その話題で持ち切りだった。
なぜなら学園の試験は元々難しく、編入試験は通常の2~3倍の難易度と言われていたから。そのため、学園には編入生はほとんどいないんだそうだ。入ってきたばかりの彼女は生徒みなの注目を集めていたと言っていい。
戻ってきたブランカは、大きな眼鏡をかけているんだそうだ。眼鏡を外せばすごく美少女なんだとか。同じクラスのマリエッタと会えるから、僕はジュリアンと一緒に、中等部の校舎に向かうことにした。
あまり親しく話さなかったはずなのに、ブランカは僕の声を覚えていた。それが不思議と嬉しかった。
ジュリアンなんか、マリエッタが側で睨むのも構わずに、ブランカに抱きつき甘えていた。マリエッタもブランカが戻ってすごく嬉しそうで、せっせと彼女の目の治療をしてあげている。
ブランカはもう、マリエッタをいじめないのかな? だったらいいのに。まあ、マリエッタもブランカがいない間に随分しっかりした性格になったから、ほとんど心配はしていないんだけど。
ブランカは、実はすごく面倒見が良い。口では偉そうなことを言うけれど、マリエッタのことを気遣っていて、嫌そうにしながらもよく一緒にいる姿を見かける。
すれ違った時には僕にも必ず挨拶してくれるし、学園内の図書館でも時々会う。マリエッタは図書館を利用しないようで、全く見かけないんだけど。
今回も『風』の部屋で会ったブランカにいつも通りの挨拶をした。
彼女はなぜか僕が競技会に出ることを知っていて、いろいろ聞いてきた。だから僕はつい、剣術や馬術があまり得意ではないこととマリエッタが好きだという気持ちを明かしてしまった。剣や馬は、父や兄達としか比べたことがないけれど。
ブランカは僕の話を熱心に聞いてくれて、「指導を出来る人に心当たりがある」と言ってくれた。どうやらその人に僕のコーチをお願いしてくれるらしい。
甘えてしまっていいのかな?
僕は今まで彼女のために、何もしていないのに……
ブランカは、「明日またここで」と笑って言った。その笑顔が少しだけ可愛く見えて、ドキッとしたのは内緒だ。
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