本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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カイル編

協力者

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「好きです。僕とお付き合いして下さい!!」
「俺にはやっぱお前しかいないわ」
「君さえ良ければ友達からで、どうかな?」

   毎度おなじみブランカです!
   え~っと、私は今どういう状況にいるのでしょう?   だってここって女子トイレの前ですよ?
   すみません。私はヒロインでは無いので、休み時間のトイレにも自由に行かせていただきます。

   それにしても、この世界が西洋風とはいえ中世ヨーロッパでなくて良かった~。あの頃みたいに建物内にトイレが足りなくて「ちょっと薔薇の小径こみちへ」とか「ちょっとお庭を散策してきますわね」っていう感じで外でそのまま用を足すんじゃなくって本当に助かった。建物内にきちんと水洗トイレがあるし。転生前にペストが流行ったのがそのせいだったって初めて聞いたときは、すごく衝撃的だったもの。
   
   あ、話がれましたけど、私は何だか囲まれているようなので、彼らにきちんと教えてあげなくちゃ。

「マリエッタちゃんなら教室にそのままいるのではないかしら。ここには私しかおりませんのよ?」

   告白するなら私を通さず、自分できちんと言って欲しい。さすがにマリーもトイレまではついてこない。ゲームでトイレは出てこないし、何たって彼女は王道ヒロインだから、滅多にトイレに行かないのだ。

「いえ、僕は貴女に言っているんです」
「何のためにマリエッタがいない時を狙っていたと思っているんだ?」
「面白い人だね、君は。そんな所も素敵だよ」


   え? 私で良かったの?
   でも、何なんだ、このトリオは?
見た事あるような気がするけれど、よく知らない。
   童顔の彼は学年が同じみたいだけど、クラスが違うから話した事も無い。
   真ん中の彼は同じクラスでこの前マリエッタちゃんに下僕認定されていた人だよね?   もう彼女に飽きられたのかしら。
   真面目そうな彼は学年まで違う。三年生がわざわざ取り巻きを連れて一年生のフロアで待ち伏せするのは変だと思う。高等部までエスカレーター式とはいえ、ちゃんと勉強しといた方が良いんでないの?

   あと、男子諸君は覚えておいて欲しい。
   マリエッタが四六時中私に張り付いているからといって、告白場所がトイレの前っていうのはちょっと……。『プリマリ』の攻略対象クラスのイケメンだとか、お互いに顔見知りならともかく、初顔合わせがトイレの前っていうのは何かヤダ。私に限らず夢見る乙女のジャッジはとても厳しいのだ。

   そんなわけで、まとめて
「ええっと、ゴメンなさい」

   マリエッタのような可愛いテヘペロをマスターしていない私は、トイレの前で深々と頭を下げた。なのに……

「そんな!   貴女に断られたら、僕の家はどうすれば良いんですか?」

   そんな事、私に聞かれてもねぇ。というかその言い方だと、確実に我が家の財産か爵位狙いだってバレてるよ?

「何だよ。俺は魔法だって使えるんだぞ! 何が不満なんだ?」

   魔法が使えるからって偉いというわけでは無いと思う。何が不満かと聞かれても、あなたをよく知らないのでわかりません。

「公爵家の私が友達からで良いと言っているんだ。感謝こそすれ断るなんて愚行は君には似合わないよ?」

   いえいえ。公爵だろうが何だろうが、爵位を出したり他人を引き連れて来ている時点で、私の中ではアウトです。

   というより『プリマリ』のマリエッタちゃんと攻略対象との恋を楽しみたい私としては、自分の恋愛は計算外! 考えた事すらありません。あ、でも一応、これだけは聞いておいた方が良いのかな?

「この中で、将来国外で商人になる予定の方はいらっしゃいますか?」

   三者三様の反応だけど「何をバカな」という顔を三人とも崩さない。ほらね、やっぱり。貴族は貴族のままが良いのよね?

「いらっしゃらないなら失礼します。ゴメンあそばせ」

   話は終わったというように切り上げて彼らの横を通ろうとしたら、腕を後ろに引っ張られていきなり右肩を掴まれた。袖を掴まれているので、魔封じの印に直接誰かの親指が当たって肩の刻印がピリッと痛む。

いつっっ」
   声を上げて手を離したのは三年生のちょいイケメンな先輩。リュークと同じ肩書きの公爵家の彼は、断られるのに慣れていないんだろう。魔力持ちだなんて、今初めて知ったけど。茶色い髪だから「地属性」ね。

   それよりも、彼が触れた事で魔封じが発動して、ルルー先生に迷惑がかかったと思う。キレイなお顔に傷がついていないといいけど。すぐ謝りに行かなくちゃ。腕を振りほどき、慌てて走る。放課後でない今の時間ならまだ高等部の校舎にいらっしゃるはずだ。

「あ、逃げた……」

   後ろで声が聞こえるけれど、構ってなんていられない。
   必死に走っていたので、回廊で誰かと思い切りぶつかってしまった。

「ゴメンなさい」

「すまない」

   顔を上げるとご学友と一緒にそこにいらしたのは、カイル王子。

「ブランカ、どうしたの?   そんなに慌てて」

「高等部に行かないといけないんです。カイル様はルルー先生ってご存知ですか?」

   カイルはなぜか一瞬ドキッとした顔をすると、少し考えてから「一緒に行こう」と言い出した。別に場所さえわかれば、一人でも行けるのに。

   高等部は中等部と同じ大きさの別の建物で、回廊で繋がっている。今はお昼休みなので教員の控え室にいらっしゃると思うけれど。早くしないと午後の授業が始まってしまう。
   高等部の受付でルルー先生の居場所を尋ねることにした。

 「すみません、カミーユ=フォルム=ルルー先生はどちらにいらっしゃいますか?」

「ルルー先生?   そんなお名前の方、高等部にいらしたかしら?」

   長い金髪に白磁の肌の受付嬢が首をかしげる。ノートを開いて、何やら確認してくれているみたい。

「すみません、該当のお名前は……」

「見方が足りないんじゃないかな? ちょっと貸してみて?」

   カイル王子が優しく言いながら受付嬢からノートを借りると、探して下さった。王子様はとても優しい。

「今は校舎にはいないみたいだね。魔法塔の方じゃないかな?」

「そうですか。ありがとうございました」
   もしかして今日は授業が無かったのかしら?   その時感じた少しの違和感を否定する。

   
   カイル王子にも、相変わらず首をかしげている受付嬢にももう一度お礼を言う。魔法塔だと外に出て昇らないといけないから、休み時間に先生の様子を伺うのは無理みたい。
   この前より肩の痛みも少ない気がするから、ルルー先生は大丈夫だと思う事にしよう。

「カイル様、私の為に貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。マリエッタにも、カイル様は優しかったと伝えておきますね!」

   手を振って中等部の自分の教室へ駆け出した。



   ブランカの去っていく姿を眺めながらカイルは考える。

   何でマリエッタの名前が出てくるんだ?
   それにしても、カミーユの素性がバレなくて良かった。本人は高等部にいると言ったのだろうが、本当はこの学園の教員ではない。後から別の言い方に訂正してもらわないと。
   協力者の存在を、誰にも悟らせるわけにはいかないから――
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