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ジュリアン編
君が戻るまで
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最近とてもつまらない。
それは、彼女が近くにいないせい。
変化のない毎日に正論で刺激を与えてくれていた彼女。喚き、怒り、説教し、そして花が咲いたように笑う。
「王宮で暮らしている以上、感情を素直に表に出してはいけない」と、窘められる僕らにとって、その姿は魅力的でいつだって眩しかった――。
主宮殿の朝は早い。
怠惰な第一王子は別として、第二王子で従兄のカイルも王妃も国王でさえも早起きだ。よく小さな子供は朝から元気で騒々しいというけれど、誰にも構われず自由に過ごしていた時の僕よりも、彼らの方が朝から政務や稽古、勉学などに励んでいるからよっぽど元気なのだと思う。
「……貴方の態度はあなただけでなく、将来共に歩む女性の評判にも関わるのですからね」
そうブランカに言われて、気がついた事がある。
それは『貴族』というものは心の持ちようで、いかようにも自身の姿を変えられるということ。叔父の国王やリュークの父である宰相は勤勉で、他人にも自分にも要求が高く厳しい。王妃やカイル、ブランカの父親の将軍なんかは他者の前では柔和な笑顔を崩さないものの、実は陰でいろいろと努力をしていて自分に厳しい。反対に、第一王子のラウルや一部の大貴族達は口だけで、他人の批判ばかりをして過ごしている。
第一王子のラウルと第二王子のカイルは、実は異母兄弟なんだそうだ。
国王陛下と亡くなられた先の王妃との間にできた子供が第一王子のラウルで、先の王妃の実の妹で今の王妃にあたるエメリア様との間にできた子供がカイルなんだとか。けれど大人の事情というやつで、世間には二人ともエメリア様の息子だと思わせて事実を隠しているらしい。
二人に対して王も王妃も変わりなく接しているからか、長く勤める侍従や重臣達も区別をしない。知っているのはほんのわずかな人達だけで、内緒にしないといけないんだそうだ。
けれど、ラウルはそのことがどうやら不満らしく、もう大きいというのに反抗的な態度をとってばかりいる。そんな彼を国王は放っておき、王妃やカイルは遠慮があるのか強く出てはいないから、彼はますます調子にのってぶらぶら遊んでばかりいる。
たぶんラウルも、少し前の僕のように寂しいんだと思う。
生きるための目標を見失っていて、毎日をどう過ごせば良いのかわからないんだと思う。王家の第一王子として生まれて恵まれた容姿と才能を持ちながら、そんな自分を持て余している。ブランカに言われて小さな僕でも気が付くことができたから、彼もいつかは自分で気づき反省する日が来ると思う。
王宮内で扱いに戸惑われていた僕。
その僕の名前をまともに呼んで、態度が悪いと正面から注意してくれたブランカ。
『ジュリアン』というちょっと弱そうな自分の名前を、その時僕は初めて好きになったんだ。
彼女の口から紡ぎ出される僕の名前。そのきれいな発音は他とは少し違っていて、何だか優しい響きがしたから。
お茶会の後も彼女を時々王宮内で見かけたから、構ってほしくて手を振ったり抱きついてみたり。「淑女に対して馴れ馴れしい」と怒られるかと思いきや、その度にブランカはちょっと困った顔をしてこちらを見て、やっぱり困った顔をして笑う。年上なのにそれがやけに可愛くて、僕はいつも嬉しくって幸せな気分になっていた。
だけど……彼女は自分の後遺症の治療のために、王都を離れ侯爵家の別荘がある田舎にこもってしまった。病気のためにカイルとの婚約話が流れたと聞いた時は、正直とても安心したのに。婚約しないで良かったとさえ思ったのに、会えない日々はやっぱりとてもつまらない。
ねぇ、それなら待っていて?
僕がカイルの代わりにあなたのそばにいられるよう、努力をするから。
ブランカの横に並んでもおかしくない人物になりたいと、僕は朝早くから起き出して、自分を磨こうと一生懸命頑張っている。
それは、彼女が近くにいないせい。
変化のない毎日に正論で刺激を与えてくれていた彼女。喚き、怒り、説教し、そして花が咲いたように笑う。
「王宮で暮らしている以上、感情を素直に表に出してはいけない」と、窘められる僕らにとって、その姿は魅力的でいつだって眩しかった――。
主宮殿の朝は早い。
怠惰な第一王子は別として、第二王子で従兄のカイルも王妃も国王でさえも早起きだ。よく小さな子供は朝から元気で騒々しいというけれど、誰にも構われず自由に過ごしていた時の僕よりも、彼らの方が朝から政務や稽古、勉学などに励んでいるからよっぽど元気なのだと思う。
「……貴方の態度はあなただけでなく、将来共に歩む女性の評判にも関わるのですからね」
そうブランカに言われて、気がついた事がある。
それは『貴族』というものは心の持ちようで、いかようにも自身の姿を変えられるということ。叔父の国王やリュークの父である宰相は勤勉で、他人にも自分にも要求が高く厳しい。王妃やカイル、ブランカの父親の将軍なんかは他者の前では柔和な笑顔を崩さないものの、実は陰でいろいろと努力をしていて自分に厳しい。反対に、第一王子のラウルや一部の大貴族達は口だけで、他人の批判ばかりをして過ごしている。
第一王子のラウルと第二王子のカイルは、実は異母兄弟なんだそうだ。
国王陛下と亡くなられた先の王妃との間にできた子供が第一王子のラウルで、先の王妃の実の妹で今の王妃にあたるエメリア様との間にできた子供がカイルなんだとか。けれど大人の事情というやつで、世間には二人ともエメリア様の息子だと思わせて事実を隠しているらしい。
二人に対して王も王妃も変わりなく接しているからか、長く勤める侍従や重臣達も区別をしない。知っているのはほんのわずかな人達だけで、内緒にしないといけないんだそうだ。
けれど、ラウルはそのことがどうやら不満らしく、もう大きいというのに反抗的な態度をとってばかりいる。そんな彼を国王は放っておき、王妃やカイルは遠慮があるのか強く出てはいないから、彼はますます調子にのってぶらぶら遊んでばかりいる。
たぶんラウルも、少し前の僕のように寂しいんだと思う。
生きるための目標を見失っていて、毎日をどう過ごせば良いのかわからないんだと思う。王家の第一王子として生まれて恵まれた容姿と才能を持ちながら、そんな自分を持て余している。ブランカに言われて小さな僕でも気が付くことができたから、彼もいつかは自分で気づき反省する日が来ると思う。
王宮内で扱いに戸惑われていた僕。
その僕の名前をまともに呼んで、態度が悪いと正面から注意してくれたブランカ。
『ジュリアン』というちょっと弱そうな自分の名前を、その時僕は初めて好きになったんだ。
彼女の口から紡ぎ出される僕の名前。そのきれいな発音は他とは少し違っていて、何だか優しい響きがしたから。
お茶会の後も彼女を時々王宮内で見かけたから、構ってほしくて手を振ったり抱きついてみたり。「淑女に対して馴れ馴れしい」と怒られるかと思いきや、その度にブランカはちょっと困った顔をしてこちらを見て、やっぱり困った顔をして笑う。年上なのにそれがやけに可愛くて、僕はいつも嬉しくって幸せな気分になっていた。
だけど……彼女は自分の後遺症の治療のために、王都を離れ侯爵家の別荘がある田舎にこもってしまった。病気のためにカイルとの婚約話が流れたと聞いた時は、正直とても安心したのに。婚約しないで良かったとさえ思ったのに、会えない日々はやっぱりとてもつまらない。
ねぇ、それなら待っていて?
僕がカイルの代わりにあなたのそばにいられるよう、努力をするから。
ブランカの横に並んでもおかしくない人物になりたいと、僕は朝早くから起き出して、自分を磨こうと一生懸命頑張っている。
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