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カイル編
『プリマリ』~カイルの章
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王宮の舞踏場はいつにもまして華やかだった。贅を尽くしたシャンデリアの灯りが煌き、目の覚めるような豪奢な装いの女性達がパーティーに華を添える。人々は笑いさざめき、16歳で成人したばかりの第二王子と彼の婚約者である侯爵令嬢の登場を今か今かと待ちわびている。
カイル王子の登場を告げる声がするやいなや人々は一斉に振り返り、凛々しく美しい彼と、お似合いの婚約者の登場を待った。
護衛の開けた扉から入ってきた頭脳明晰、眉目秀麗なこの国の第二王子カイルは、なんと一人であった。
人々は口々に囁く。「二人の間で何かあったのか?」と。
彼と彼の婚約者である侯爵令嬢ブランカは、仲の良い事で有名だったし、近いうちに婚儀を挙げると噂されていた。けれど、どこをどう見てもブランカの姿がない。
会場の隅で不安に怯えるマリエッタ。
カイル様は「全て私に任せておいで」とおっしゃったけれど、この言いようの無い、底知れぬ不安はなぜだろう。
やがて音楽が始まり、第二王子カイルはニッコリ笑って愛しい人に手を伸ばし、ワルツへと誘う。マリエッタは、カイルの差し出した手に、おずおずと手を添えた。国王夫妻も頷いて、応援するかのように微笑んで下さっている。
会場の中央で、緑と青の瞳が互いだけを見つめ合う。白の正装のカイルと淡い水色のドレスの可憐なマリエッタ。
絵から抜け出たような二人の美しさに、その場にいた人々は彼の婚約者の存在も忘れ、息をするのも忘れて見入る。
愛しい人の腰を引き寄せて、カイルは彼女の金髪にキスを落とした後、マリエッタの耳元で甘く囁く。
「君とこうして踊る事を、何年も前からずっと夢見ていたんだ。これからはもう、何者にも邪魔をさせない。君は未来永劫、私のものだ」
「カイル様……」幸せ過ぎて、もう何も言えない。
バタンッッ 扉が開く。
会場の者は一斉に入り口の扉の方を振り返る
「ちょーっと待ったぁ」
ボロボロの紫のドレスの女が会場に突然入って来る。
その女は、赤ワインを受け取りながら中央にツカツカと歩み寄ると、マリエッタに向かってぶっかけた。
「このドロボウ猫が! わたくしをわざとこんな目にあわせて、自分はのうのうとカイル様の隣に収まっているなんて!」
「違っ。わたし、そんな事していな……」
「お黙りっっ! あなたが他人に言って私を閉じ込めて乱暴させようとしたんでしょう? 知らないフリをするつもり?」
「そんな……」
よく通る侯爵令嬢ブランカの声が、人々の注意を引きつけた。
騒然とする場内。大声を出す人々。
カイルが慌てて遮る。
「ブランカ、お前にはプライドがないのかっっ! 自分から円満に別れましょう、と言い出しておきながら、この狂言は何だっ。話し合いは終わっているのに、言いがかりは止めろ!!」
「誰が終わったと言いました? あなたが都合よく婚約を解消したがっただけでしょう? 憎い相手に復讐もせずに別れるなんて、真っ平ゴメンよ。この女さえいなければ、私はっっ!!」
言うなりブランカは、マリエッタに掴みかかる。慌てて止めに入る護衛達。悲鳴があがり、会場は混沌と化した……。
カイル王子の登場を告げる声がするやいなや人々は一斉に振り返り、凛々しく美しい彼と、お似合いの婚約者の登場を待った。
護衛の開けた扉から入ってきた頭脳明晰、眉目秀麗なこの国の第二王子カイルは、なんと一人であった。
人々は口々に囁く。「二人の間で何かあったのか?」と。
彼と彼の婚約者である侯爵令嬢ブランカは、仲の良い事で有名だったし、近いうちに婚儀を挙げると噂されていた。けれど、どこをどう見てもブランカの姿がない。
会場の隅で不安に怯えるマリエッタ。
カイル様は「全て私に任せておいで」とおっしゃったけれど、この言いようの無い、底知れぬ不安はなぜだろう。
やがて音楽が始まり、第二王子カイルはニッコリ笑って愛しい人に手を伸ばし、ワルツへと誘う。マリエッタは、カイルの差し出した手に、おずおずと手を添えた。国王夫妻も頷いて、応援するかのように微笑んで下さっている。
会場の中央で、緑と青の瞳が互いだけを見つめ合う。白の正装のカイルと淡い水色のドレスの可憐なマリエッタ。
絵から抜け出たような二人の美しさに、その場にいた人々は彼の婚約者の存在も忘れ、息をするのも忘れて見入る。
愛しい人の腰を引き寄せて、カイルは彼女の金髪にキスを落とした後、マリエッタの耳元で甘く囁く。
「君とこうして踊る事を、何年も前からずっと夢見ていたんだ。これからはもう、何者にも邪魔をさせない。君は未来永劫、私のものだ」
「カイル様……」幸せ過ぎて、もう何も言えない。
バタンッッ 扉が開く。
会場の者は一斉に入り口の扉の方を振り返る
「ちょーっと待ったぁ」
ボロボロの紫のドレスの女が会場に突然入って来る。
その女は、赤ワインを受け取りながら中央にツカツカと歩み寄ると、マリエッタに向かってぶっかけた。
「このドロボウ猫が! わたくしをわざとこんな目にあわせて、自分はのうのうとカイル様の隣に収まっているなんて!」
「違っ。わたし、そんな事していな……」
「お黙りっっ! あなたが他人に言って私を閉じ込めて乱暴させようとしたんでしょう? 知らないフリをするつもり?」
「そんな……」
よく通る侯爵令嬢ブランカの声が、人々の注意を引きつけた。
騒然とする場内。大声を出す人々。
カイルが慌てて遮る。
「ブランカ、お前にはプライドがないのかっっ! 自分から円満に別れましょう、と言い出しておきながら、この狂言は何だっ。話し合いは終わっているのに、言いがかりは止めろ!!」
「誰が終わったと言いました? あなたが都合よく婚約を解消したがっただけでしょう? 憎い相手に復讐もせずに別れるなんて、真っ平ゴメンよ。この女さえいなければ、私はっっ!!」
言うなりブランカは、マリエッタに掴みかかる。慌てて止めに入る護衛達。悲鳴があがり、会場は混沌と化した……。
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