本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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マリエッタ編

ブランカとの1日デート~マリエッタ

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「ブーラーンーカー様~!!」

   私の1日は、大好きな彼女に抱きつくところから始まる。『魔封じ』をされている肩にさえ触らなければ大丈夫! 高い背の割には細い腰と白い肌、良い香りの髪に触れると幸せ~~って感じるの。

「マ、マリエッタちゃん、いい加減体当たりは腰に響くから……」

「んもう、ブランカ様ったら照れ屋さんっ!」

   困った顔をしているけれど、本気で嫌がっているわけではないのよね?  だってその証拠に、私の手を微笑みながらやんわり剥がそうとなさっているから。


   最近ブランカ様はよく笑うようになったし、私に対して嫌味を言う事も無くなった。「私達は友達だから『様』は要らないわ」って言って下さって、私の事を『可愛い』って褒めて下さるようにもなった。
   私の中ではブランカ様はブランカ『様』だから、いまさら名前でなんて呼べない。でも、キレイで優しい彼女に『可愛い』とか『大好きよ』って言われたら、それだけで私は1日中幸せで、満たされた気分で過ごせるの。

「ブランカ様、やっぱり大好き~~!」

「ぐえっ」



   リューク様の留学が延びてくれたおかげで、私はまだ彼女の一番でいられる。彼女の隣で泣き、笑い、喜びを分かち合い、励まし合う事ができる。同じ景色を見て感動したり、美味しいと思うものを分け合ったり、何でもないような事で顔を見合わせたり……。

   どんなにつまらない事だって、ブランカ様と一緒ならいつだって楽しい。彼女に喜んでもらいたくて、また私を見て欲しくて、癒しの『光』魔法による目の治療だって一生懸命頑張った。
   だからもう、ブランカ様にメガネは要らない。彼女はその事で私にすごく感謝して下さっているから、私がベッタリくっついても最後は必ず笑って許して下さるの。

   でも最近、他のみんなも『リューク様が戻って来ないうちに』って思っているらしくって、私がブランカ様から目を離した隙にすぐに彼女を連れ出してしまう。悔しいから私も!  って思っているんだけどなかなか。私だってブランカ様と一緒にどこかにお出掛けしたいんだけど……。



   薬学のレポートを仕上げて提出した帰り道、何かの掲示を見ながら話している男子学生達に目がいった。

「でも、休日が1日潰れるんだろ?  遠出するし美術選択生以外は意味無いんじゃないか?」

「だよな。今時郊外の景色とランチで釣れるわけねーのにな」

「ちょっと!  今の、何の話?」

   私は話していた二人を捕まえて、直接聞いてみた。すると、『デッサンの大会』なるものに空きが出たから、一般の生徒を募集しているとのこと。当日は馬車で湖まで行けるし、画材は学園側が用意してくれて、何と豪華なピクニックランチまで付いているという。

「これだわ!!」

   私は早速要項を確かめると、教務課まで二人分の申し込みをしに行った。一生懸命お願いすれば、ブランカ様はきっと了承して下さるはず!



「……でも、マリエッタ。私、絵心がないのだけれど」

「大丈夫です、ブランカ様。私も全くありませんから!」

「それならなぜ申し込んだの?  ハッまさかランチ!  確かに、自然の中で食べると美味しいものね?」

   なぜか納得されたブランカ様。
   でもこれで、一日中心置き無く彼女を独占できるわ!
   私は嬉しくってドキドキしながら、デッサン大会当日を待った。


 
   スッキリと爽やかなよく晴れた日で山の風が心地よい。学園から馬車で2時間ほどの所だけれど、景色は随分違っていて鏡のような湖が周りの木々を映している。

「すごくキレイで気持ちの良いところね!」

   ブランカ様は気に入って下さったようでニコニコしていらっしゃるから、お誘いした私まで嬉しくなってしまう。
   全員に紙と木炭とパンのカケラが渡されたけど、何でパン?  食べながら絵を描けって事なのかしら?  早速かじろうとした所、ブランカ様に止められた。

「マリエッタちゃん、違~~う!!」

「え?  だってせっかく配られたんですし……」

「違うのよ。パンは絵に深みを出したり消したりする時に使うの」

「そうなんですか?  ブランカ様ったら物知り~。すご~~い!」

「お願い、マリエッタ。恥ずかしいから大声はやめて」

   そうだった。結局、私達以外みんな美術選択の生徒だったから、知ってて当然なのかも。でもまあ私は、ブランカ様とのデートさえできれば満足だから、作品が仕上がろうとダメだろうと関係ないのだけれど。

   暇なので適当にブラブラしてみる。
   ブランカ様は真面目だからか、熱心に何かを描いていらっしゃるみたい。でも、別に授業じゃないし私達は成績にも関係ないから、さっさと諦めてしまえば良いのに……。



   湖の周りを散歩するのにも飽きてきたので、戻ってブランカ様の描いている絵を覗き込んでみる。

「な、な、何じゃこりゃぁ~!!」


   スゴイなんてもんじゃない。
   いつものブランカ様からは、想像すら出来ない。

「もうっ。だから絵心が無いって最初に言ってたのに……」

   ブランカ様ったらいつもの優秀な成績とは裏腹に、実は絵心が無いどころか全くダメダメだった。湖の周りのただの樹も、ブランカ様が描くとなぜかみんなお化けに見える。ただの線をたくさん引いただけの方が、まだきちんと木々に見えるかもしれない。

   それにしても、こんなに一生懸命描いてらした割にはすごい事になっていて、それを照れて隠そうとなさるご様子がまた可愛い。ただの湖と木をここまで怖く描けるって、ある意味天才かもしれない。いつもは割と何でもできるブランカ様だけど、絵に関しては……ぶふっ!

「マリエッタったら!  だからデッサンは嫌だったのに……」

「え?  でも、ブランカ様も乗り気だったんじゃあ?」

「それは……」

「それは?」

「それは、マリエッタちゃんが嬉しそうにしているから、私もつい楽しみになってしまって……」


   ああ、もう。ブランカ様ったら!
   その言葉一つに私がどんなに感激しているかだなんて、貴女にはきっとわからない。ブランカ様のお茶目な姿を私だけが知っていて、それをどんなに嬉しく思っているかだなんて、絶対にわからないでしょう?

   私はこれからもずっと、色々な表情を見せる貴女の側で過ごしたい。大好きな貴女と一緒に、毎日を楽しく笑い合って過ごしていきたい。



「合格した者からランチにするぞ~~!」

   遠くで教授の声が響く……って、ええぇ?
   合格しないとお昼食べられないの?  嘘でしょ?!


   かくして私は自分のデッサンをさっさと仕上げ、珍しくブランカ様のを手伝った。まあ、最初のお化けよりかは少しはマシになったと思う。だって、私達の絵を見た先生は諦めたように溜め息をついたけれど、ちゃんとランチを食べても良いって言って下さったもの!

   湖のほとりでブランカ様とのゆっくりした時間。
   こんな時間がこれからも、何度か持てれば良いと思う。絵は散々だったけれど、お昼はなかなか美味しかったし。


   ブランカ様、来年もまた参加しましょうね!
   ……ぶふっ!
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