本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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ユーリス編

ブランカとの1日デート~ユーリス

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「ああ、こんな所にいたんだ。ブランカ、見せたいものがあるから今日はこの後僕に付き合ってくれる?」

「しー、ユーリス。静かにしてくれないと、マリエッタに見つかって捕まってしまうから!」

「ああ、大丈夫だよ。彼女なら、魔法学のレポートをまだ出していないからって教授に引っ張って連れていかれたから」

「え、そうなの?  それなら安心。で、ユーリス見せたいものって?  もしかして、図書館で面白い本でも発見できたの?」

「うん。まあ間違ってはいないんだけど……。ただ、学園の中では無いんだ。ここから少し距離があるから馬で一緒に行こう」


   
   去年から中等部のユーリスは、私達と同じく寮にいる。だから外出するには許可を取らないといけないけれど、彼は既に許可を得ていると言った。もしかして、本当はマリエッタと行きたかったのに、彼女がレポート作成で行けなくなっちゃったから?  だから暇そうな私を誘ったの?

   ああもう、マリエッタったら。
 なんてタイミングの悪い!  
 せっかくユーリスが面白そうな本を見せてくれるっていうのに……って、マリエッタはあまり本が好きじゃ無かったような。

   ユーリス、いきなり作戦ミス?  
 それとも私を誘って出かけるって事はデートの下見なのかしら?  それなら図書館よりもマリエッタの好みをアドバイスしてあげなくっちゃ!

   どこに行くんだろう?  と思いながら、私はユーリスの操る馬に同乗した。最近急に背が伸びてきたユーリスは、私の身長を軽々越えてしまった。そのせいか、前に乗る私を支える腕も危げない。
   今のユーリスの乗馬技術なら、もしかしたら留学で腕が鈍っているリュークにだって勝ててしまうかもね?  
   自分が以前ユーリスのコーチを頼んだ事を棚に上げて、のんきにそんな事を考えながら、馬の背に揺られていた。

   でも、図書館のある街中に行くかと思いきや、どんどん山の方へと向かっているような……。ユーリスの見せたいものって一体何なのかしら?  こんな場所に本があるとも思えないんだけど。



「着いたよ!  ブランカ。どう?  スゴイと思わない?」

   連れていかれた場所は、高台にある少し開けた場所だった。足下には草が生えているが、風の通る場所に黒っぽい石で作ったオブジェと、白い石の風車?  のようなものが見えている。

「ユーリス。ここって……」

「『風の里』って言うんだって!  図書館で文献を読んでいたらたまたま載っていたから、いつか来たいと思っていたんだ。学園からもそんなに遠くないし」

   ユーリスの説明によるとここは昔村があった場所で、石のオブジェはこの辺に住んでいた『風』使いの一族が使ったものらしい。そのため、ただの風では動かす事が出来ずに、『風』魔法の力を必要とするんだとか。

「え?  え?  じゃあ、もしかしてこの大きな風車を動かせたりできちゃうわけ?」

   ユーリスも『プリマリ』の攻略者の一人だから、魔法は強力だ。でも、魔法が全盛だった昔の人に比べたら、威力は弱いのかもしれない。それでも、もしかしたら……
   私は期待を込めた目で、彼を見つめた。

「やってみるね。教授達にはナイショだよ?」



   言うなりユーリスは、両手を真っ直ぐ肩まで上げて石の風車に向かって何かを念じた。急に、自然のものではない大きな風の渦ができ、彼の緑色の髪がブワッと上がる。彼はその渦を羽の部分に当たるように腕を上げた。

   ギ……ギギ……

   久々に使われるからか、少し固いようだ。
   けれど、しばらくすると風車は滑らかに回り出した。

   ゴウンゴウンゴウンゴウン

「す……すごいわ!  ユーリス。素敵!!」

   思わず手を叩いて興奮してしまう。
   大きな石が風の力で回るなんて……
   白い石の風車が山の緑と空の青、白い雲に映えてとても綺麗だ。

「良かった!  喜んでもらえて。僕もまさか回るとは思わなかったけれど、文献に書いてあった事は本当だったんだ」



   何でもこの地は高台にあるためか風が強く、通常の風車では直ぐに壊れてしまったそうだ。そこで、村人は強風に耐えられるように石の風車を作った。けれど、今度はなかなか回らない。
   一計を案じた村人は、『風』使い達を村に招いた。彼らのおかげで風車は安定して動くようになり、粉が無事に挽けるようになった。また、風使い達の方も村人達から歓待され大切にされたから、やがてここに住み着くようになったそうな。
   彼らは風使いの一族となり、いつからかこの地は『風の里』と呼ばれた。魔力が消え去り、一族がいなくなるまで――



「歴史を紐解くのって本当に素敵ね。あ、じゃあユーリス、あっちのオブジェはなあに?  ただの置物には見えないのだけれど……」

   黒っぽい石のアーチに、球体や円錐形、長方形やひし形の加工した石がたくさんぶら下がっている。そうかと思えば、大きな石の間が所々くり抜かれていて、空洞になっているものもある。

「ちょっと待ってね、ブランカ。実際にやってみた方が早そうだ。上手くいくかどうか祈っていて」

   言いながらユーリスは、先程のように手を前に突き出して何かを念じた。すると、石の方から風の音に混じって何やら音がする。

   シャララン カラン シャララン シャララン

   コォーン  カァーン  コォーン  コキーン


「す、スゴイ!  ユーリス、こっちもステキだわ!!」

   私は思わず興奮して、風を操るユーリスに抱きついてしまった。すると、程なくして音も止まった。あ……ゴメン……

   少しだけ顔を赤くしたユーリスが、私に説明してくれた。

   彼によると、こちらは『風の風鈴』と『風のハープ』と言うんだそうだ。やはり村人と交わった風の一族が作ったもので、強い風の力を当てないと音が鳴らないらしい。大きい石からなぜあんな澄んだような音色が出るのかは謎だけれど、不思議な体験をさせてもらえて私は大満足だ!

「ありがとう、ユーリス。これならきっとマリエッタも気にいるわ!」

   そう太鼓判を押してあげたのに、ユーリスはなぜか少し悲しそうな顔をした。何でだろ?


   ☆☆☆☆☆


   夕焼けを横に見ながら、ブランカと共に学園までの道を戻る。小さな頃は大きく見えていた彼女の背中も、今はもう腕の間にすっぽり収まってしまう。
   彼女の薄紫色の髪も夕日に染まり、キラキラ輝いてとてもキレイだ。


『風の里』に関する記述をたまたま図書館で目にしてから、僕はずっとブランカを連れて行きたいと思っていた。好奇心旺盛なブランカなら、きっと喜んでくれる事だろう。
   急に誘ったにも関わらず、ブランカは今日の外出をすごく楽しんでくれた。眩しいほどの笑顔を見せてくれたし、石の風車が回った時も、手を叩いて喜んでくれた。石のオブジェが鳴った時には飛びついてきたから、ビックリして焦ってしまったけれど……



   リュークがいなくて寂しいはずなのに、ブランカは一切泣き言を言わない。マリエッタに時々からかわれるだけで、自分から彼の事を話そうとはしない。だから僕は、いつも少しだけ期待をしてしまう。

   もしもブランカがリュークの帰りを待つのをやめたら――と。


   リュークは一年の予定の留学が延びて、まだ帰ってきてはいない。彼女と話したり仲良くするなら今のうちだ。ああ見えて彼はなかなか嫉妬深いから、戻ってきたらブランカに近付き話す事さえ嫌がられてしまうだろう。

   だから今日は絶好の機会だった。
   なのに――



「ありがとう、ユーリス。これならきっとマリエッタも気にいるわ!」

   そう言われてしまった。
   もし僕が、最初から君だけを誘うつもりだったと告白したら、君は何て答えたんだろう。少しは僕の事を意識してくれたのかな?

   
   学園までの道を辿りながら『僕は二人きりの幸せな時間がもっと続けば良いのに』と悲しい気持ちで考えていた。
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