本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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カイル編

ブランカとの1日デート~カイル

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『政情不安でいつ内乱が起こるかわからない』という理由から、一年のはずのリュークの留学予定が来年まで伸びてしまった。
   隣国の状況は思わしくなく、ブランカの父であるバレリー将軍も首都のイデアに向かったと、先日報告が来た。

 そんな中、学園では今年も『競技会』の時期を迎えることとなった。
 昨年はリュークに上手く出し抜かれてしまった。今は遠い地にいる彼には悪いけれど、今年は最初からブランカに「私が優勝したら後夜祭のパートナーになってくれる?」と、きちんと頼んである。

 ブランカは、相変わらず私の気持ちに気づかずに、「優勝したならマリエッタちゃんの方が」と私から逃げようとしていた。けれど、今回はマリエッタも協力してくれて「私はカイル様じゃ嫌!」と彼女の前ではっきりと宣言してくれていた。
   まあ、お互いに『打倒、リューク!』というような所があって、出来る事なら彼のブランカへの告白を無かった事にしてしまいたい、というのが本音である。

 戸惑いながらブランカが了承してくれたから、私は今年は特に張り切ることにする。それでなくとも中等部の三年生だ。下級生に負けるわけにはいかない。



 やはりライオネルが群を抜いて強かった。が、ブランカとの約束がかかっていた私にとっては敵ではなかった。
   ライオネルは去年より確実に、剣術の腕も上がり魔法も進化していた。高等部での『競技会』ではよほどの覚悟をしないといけないかもしれない。

 ユーリスも健闘していた。
 中等部の一年ながらも準決勝に出場し、ライオネルに負けてはいたが、とても良い勝負をしていた。馬術の腕もかなり鍛えられていたから、このままだと私やライオネルもそのうち抜かされてしまうかもしれない。

 初等部の優勝は、ジュリアンだった。
 彼の腕前なら中等部でもすぐに通用すると思われたが、何より凄かったのは応援席の黄色い声援の数だった。驚いたことに、初等部よりも中等部や高等部の女生徒の声の方が多かった。
   年上の女性から可愛がられていると聞いたことはあるけれど、正直ここまで人気があとは思っていなかった。

 今回マリエッタは、救護の方で活躍していた。ブランカの「マリエッタちゃん、治療中の貴女はまるで天使!」の声にのせられて、彼女に良い所をみせようと張り切ってくれたおかげで、今年のけが人の数は例年を大きく下回ったのだという。
   まあ、ブランカと一緒にいたくて威嚇しているマリエッタが恐ろしく『ケガなどするものか』と生徒の方が意気込んだせいだと聞いているが……



 そんなわけで、競技会も無事終了した今夜、私はブランカと一日だけのパートナーを組むことに決まった。
   ジュリアンには「僕だって優勝したのにぃ。カイルだけずる~~い!」と甘えられたが、彼に譲る気なんてまったく無い。

 許されるものなら、パートナーであるブランカにドレスも用意してあげたかった。特別な紫色の髪が映えるドレスを選ぶのはとても難しいだろうけれど、それでも選んでいる間だけは君の事をずっと考えていられるから。  
   君の声や表情、仕草を思い出しながらあれこれ考えているだけで、私はきっと幸せな気分に浸れたことだろう。

 負ける気は無かったものの、パートナーが確定したのは優勝が決まった当日だったから、残念ながらドレスを仕立てている暇はなかった。けれど、彼女が私のためにどんな装いで現れるのかという事には、非常に興味があった。

 

 ――花嫁のような白に紫色のシフォンが付いたドレスを着て会場入りしたブランカは、そこにいた誰よりも美しく輝いていた。
   私は息をするのさえ一瞬忘れて、黙って彼女を見つめた。そして、この時ばかりは任務を請け負って留学したこの場にいない親友に、深く感謝を捧げた。

   パートナーが君で良かった。
   君が少し恥ずかしそうに微笑んだ瞬間、私は再び君に心を奪われた。
 例え一夜限りでも、私はこの腕の中に堂々と君を迎えることができる。ダンスをしている間だけは誰にも邪魔をされずに、君と一緒にいることができる。
   それがどんなに嬉しくて、ずっと私が待ち望んでいたことだなんて、きっと君は気付いていない。


 さあ行こうか、ブランカ。
   舞踏会の幕が開く。
 ニッコリ笑って彼女の白い手を取って中央に進み出ると、私は最初の曲が鳴り響くのを期待と共に待っていた。


 ☆☆☆☆☆


 マリエッタちゃんったら、本当に良かったのかしら?

『競技会』後に行われる舞踏会は、今年は予定通り当日の夜に行われた。何でもカイルが最初から全力で挑んだために、一番人数の多いはずの中等部が、異例の速さで決着がつき終了したかららしい。

「そんなにしてまで頑張ったっていうのに、カイル様ったらマリエッタちゃんじゃなくて何で私なのかしら?」

 まあ、先日マリエッタにはっきりと「私はカイル様じゃ嫌!」と断られていたから、誘いにくくなってしまったのかもしれないわね。
   それに、私が『悪役令嬢』を終了してリュークと遠距離恋愛中とのことで、『プリマリ』効果が一時中断してしまっているのかもしれない。

 せっかくだから今年もと、イベント限定アイテムの『きらきらローブ』と『特製弁当』は用意させてもらった。だって、『ときめきチョーカー』は去年既に渡しているし、毎年同じのをもらってもありがたみが薄れるから。
 ただ、特別な糸を使って織っているとはいえ、ローブはローブなので遠目では違いがわからなかった。まあ、マリエッタから渡されるってことに意味があるから、それはそれでいいのかも。

 でもマリエッタ、今年もたぶんやらかしてくれちゃいました。彼女がきらきらローブを配り終えた途端に、またしても私がみんなにお礼を言われてしまったから。
   まあ、今は『プリマリ』休業中だから、そんなに目くじら立てて怒るほどでは無いのかもしれないけれど。それにしたってもうちょっと恋愛に前向きになってもらわないとねぇ。せっかくの超絶美少女ヒロインなんだし。



 そんなこんなで、現在私はなぜかカイルの腕の中。ダンスのパートナーということで、彼に微笑みかけられている……のだと思う。よく見えないけれど、たぶん。

 最近は時々眼鏡を外すようにしているから、今日も外して部屋に置いて来た。視界が少しボヤーっとはするけれど、去年程ひどくは無いので、これでもまだ見えている方。

   去年はファーストダンスの前にマリエッタが癒しの魔法をかけてくれたから、曲の間リュークの顔をはっきり見ることができた。
 マリエッタちゃん、もしかして今年も……? と、ちょっとだけ期待して彼女の周りをうろうろしてしまったけれど、当のマリエッタが「今年は止めておきましょう」と協力してはくれなかった。

 だから足元がおぼつかないままカイルのエスコートに頼るしか無くて、しかも踊っている今も彼がどんな表情をしているか、かなり近づかないとわからない。
   でも、近づき過ぎたら近づき過ぎたで全国の『プリマリ』カイルファンに刺される前に学園の女生徒達に粛清されてしまいそうだから。怖くてとてもそんな愚行は犯せない。
 まあ、カイルも私に必要以上に近づかれたら嫌がるだろうから、適度な距離を保ってなごやかに現在踊っているところ。


 だけどさすがはカイル王子!
 本物の王子様だけあってリードがとても上手だ。エスコートも紳士的で適度に休憩を挟んでくれるから、疲れ切って動けなくなることも無い。会話も洗練されていてとても楽しい。
   でも、欲をいえば顔がもうちょっと見えていた方が何を考えているのかがわかって、もっと気の利く答えができたのになぁ。あと少しで終わりなのに、今更寮に眼鏡を取りに戻るのも変よね?



 今日の後夜祭はずっとカイルと一緒だった。あと1曲で舞踏会も終了するから、本物の王子様と踊ったシンデレラのような気分。あと少しで、魔法の時間は解けてしまう――

「良いんですか、カイル様。ラストダンスは大切な人と踊るものですよ?」

「そうだね。だから、君が良いんだ」

 少しだけ掠れた声のカイル。眼鏡をかけていないから、彼が今、どんな表情をして私を見ているのかがわからない。

   もしかしたら彼にはマリエッタよりも好きな人がいて、本当はその人と踊りたかったのかもしれない。けれど、第二王子として注目を集めてしまう立場上、迂闊うかつには手を出せず、堂々と誘いづらいから諦めてしまったのかもしれない。

   誰にも言えない秘密の想い――
 
 そっか、だから私なのか。リュークという相手がいる私なら、変な勘違いをされずに安心して誘えるものね?


 最後のダンスもカイル様と。
 結局最後まで、彼の表情と彼の好きな本当のお相手を見ることは叶わなかった。でも、私と一緒にいて少しでも楽しいと思ってもらえたなら幸いだ。

   けれど、たった一つだけ。
   懸念する事があるとするなら……。

 どうか明日、カイルのファンから刺されませんように!
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