本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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ジュリアン編

もしも願いが叶うなら

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「あら、ジュリアン。こんな所でどうしたの?」

   今日の『中等部特進魔法科1年』は、礼拝のマナーの授業で最後だと聞いていたから、僕は鐘のある塔の前で終わるのをずっと待っていた。まだ初等部の僕は、ブランカとの接点がほとんど無い。こうでもしないと、彼女になかなか会えないから。

「ああ、マリエッタなら今日は頭が痛いって言ってサボ……部屋で休んでいるわよ?  残念だったわね」

   だからどうしてそうなるの?  
   僕はただ、あなたに会いたかっただけなのに。

「なんでマリエッタ?  全然関係無いんだけど。それよりブランカ、用が無くっちゃ会いに来ちゃいけないの?」

   できるだけ可愛らしく見えるように、ブランカに近づき甘えてみる。下から悲しそうに見上げるだけで、いつものようにブランカが狼狽うろたえるのがわかるから。

「そんな、まさか!  もちろんあなたなら大歓迎よ。ジュリアン」

   ほらね?  
   優しいあなたは、僕を拒絶できないでしょう?

   

   リュークが留学先に旅立ってしまってからは特に、『リュークとお付き合いしている以上、異性と接触してはいけない』と真面目なブランカは考えるようになったみたいで……
   以前はしょっちゅう呼び出されて告白もされてたみたいだけど、今は呼び出されても応じない。ラブレターも開けずに返す。
   かといって遠く離れた所にいるリュークと付き合っている事は公表してはいないから、事情を知る僕らを除いて男子生徒の彼女への評価は『お高くとまったやつ』。または『難攻不落の眼鏡娘』など、様々だ。

「悪い虫が付かないから良いかもね?」とカイルは単純に喜んでいるけれど、それってカイルも含まれてるんじゃないのかな?  だって、カフェテリアでいくら彼が冗談っぽくブランカに迫ってみても、彼女はまったくなびかない。

「で、どお? ブランカ。リュークなんて止めて私に乗り換える気になった?」

「ご冗談を。そんな事をしたら、カイル様のファンに刺されます」

   ブランカにかかればこの国の第二王子だって形無しだ。もちろんそれを見て、カイル以外のみんなは僕も含めてホッとしているけれど。

   何でもないように肩をすくめるカイルだけど、実はすごく傷付いてガッカリしているのがよくわかる。だから僕は、そんなヘマは犯さない。ブランカと仲良くなるなら一対一で、誰も見ていないところで警戒されないようにしなくちゃ。僕の仕草や行動は全てが計算されたもの。そうでもしないとブランカは、きっと僕を近付けてはくれないもの。



「ねーねーブランカ。僕、今日は水鳥に餌をあげてみたいんだ。パンなら城から用意して来たし」

   だめ?  というように小首を傾げて彼女を見ると、もちろん彼女は笑って賛成してくれる。小道具まで使って我ながらあざといなとは思うけれど、こうまでしないとあなたは僕と一緒にいてくれないでしょう?



   ねぇ、ブランカ。あなたは気づいてる?

「ブランカと付き合う」とリュークが宣言したあの日以降、僕はあなたを『ブランカ姉様』と呼ぶのをやめた。だって、『姉様』って付けたら、いつまでも弟のように思われてしまうから。

   僕はあなたが大好きだから。
   だから、誰にも渡したくは無かったのに――

   ねぇ、教えて?  僕はどうすれば良かったの?
   どうすればあなたは僕の事を見てくれた?

   もしも願いが叶うなら、僕は早く大きくなりたい。
 誰よりも早く大人になって、あなたに「好きだ」と伝えたい。

   だからブランカ。僕が大きくなるまで。
   あと少しだけ待っていて?

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