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ライオネル編
君の笑顔が見たいから
しおりを挟む ようやく行ってくれたか――
これが飾らない、俺の本音。
今日から隣国の首都イデアに留学するとのことで、さっきリュークとその他の留学生達を乗せた馬車が学園から出発した。ブランカは馬車が見えなくなってからもずっと、見えにくい目で遠くをずっと見ていたようだった。
リュークに恨みはないけれど、昨日の交際宣言は正直かなりショックだった。
「俺とブランカは付き合う事にした。俺の留学中、手は出すなよ?」
そんなセリフをいつもはクールなリュークが堂々と言うとは思わなかった。一瞬頭が真っ白になって、嘘だろ? という言葉が浮かんだ。
「ええええぇ~~」
マリエッタもびっくりしていた。
「ヤダ。ブランカ姉様は僕のだ。リュークこそとらないでよ!」
ブランカの事が大好きなジュリアンは可愛らしく拗ねていた。だが、目は笑っていなかったのを俺は知っている。
自分達の言葉に疑問を感じたのか、ブランカとリュークは直後に言い合いをしていた。
「ちょっとリューク! あなたは明日からいなくなるからいいけれど、そんなこっ恥ずかしい事を言って変な空気のまま私だけここに放置ってどういうことよ! 手を出すとか出さないとか、そんなくっだらない事心配しないでもそんなんあるわけないでしょ!!」
「はぁ? お前こそ、無自覚もいい加減にしろよ? このメンバーだけじゃない、お前を狙っている奴がこの学園に何人いると思っているんだ!」
「バッカじゃないの? そんなのゼロに決まっているじゃない。限りなくゼロよ! もしいたとしても、うっかりミスか罰ゲームか何かよ。本当にもう、恥ずかしい事ばっかり言うのは止めてよね!」
「何だと? お前は全然わかってない!」
だから俺がこう言ったのも、ある意味仕方の無いことだと思う。
「何かさあ、全然カップルに見えないんだけど……」
「確かに。今までとあんまり変わってないよね」
ユーリスも加勢してくれた。
その言葉を聞いたリュークが突然、ブランカの顎を持ち上げてキスをしようとしている。おいおい、こんな所でやめてくれよ? 公の場所だし、二人のそんな姿は見たくない。
ブランカが拒絶したから、俺はホッとした。
俺だけでなく、周りのみんなも。
「見たくなかったわ! ブランカ様にデレデレしてるリューク様を、見たくなかった」
マリエッタが震えている。
あれは確実に怒りだろう。
「帰ったら絶対に続きをするからな!」
リューク、空気を読め!
お前、周りを全員敵に回したぞ。
何で今?
何で留学先から帰るまで待てなかったんだ?
答えはおのずと知れている。
それは、ブランカがとても魅力的で心配だから。
『絶対に好きにならないでいよう』と決めていた俺でさえ、初めて一緒に馬に乗った時から彼女の笑顔にやられてしまった。はしゃぐ様子も弾んだ声も「もう戻ろう」と言った時に漏らした不満そうな声さえも、とても愛らしかった。
ブランカの唯一の魔法である『魅了』は封じられているはずなのに、どうやら俺には関係ないみたいだ。ああ、正確には俺だけでなく他のやつらもか。
ショックを受けていたのは俺だけではない。
カイルは無表情で固まっていたし、ユーリスもいつもの笑顔が強張っていた。マリエッタはずっと大騒ぎをしていたし、ジュリアンなんかはその後もブツブツと不満を漏らしていた。
まあ相変わらず、誰もブランカには気づいてもらえなかったみたいだが。
だから、リュークの心配はあながち間違いではない。それに、鈍いブランカが俺達以外の誰かにホイホイついて行ってしまっても困る。予め釘を刺しておきたかったんだろうし、自分は遠くに行くから俺らを牽制しておきたかったんだろう。
せっかく同じクラスで彼女の一番近くにいたのに、俺は一体今まで何をしていた? いくら幼なじみとはいえ、接する機会の少なかったリュークに比べて、俺の方が条件的には断然有利だったはずなのに。不甲斐ない自分に腹が立つ。失った時間はもう戻らない。
ブランカと乗った俺の愛馬に『シェリー』と名付けていた。それは、彼女のセカンドネーム『シェリル』の愛称。親しい者にしか呼ばせないその愛称を、俺は堂々と呼んでいる。いつか彼女が、名前の意味を直接尋ねてくれる事を願って。
なあブランカ。
今度、湖まで遠乗りしよう。
リュークだっていないから、君さえ良ければ一緒に。
いくら好きでも手なんか出さない。
「好きだ」とも言わないようにする。
だから安心してくれていい。
二人で一緒に出掛けよう。
俺はただ、君の笑顔が見たいだけだから――
見返りなんて要らない。
好きになって欲しいなんて贅沢は言わない。
時間はもう、巻き戻せないから。
だけどああ、一つだけ。
君の歌うような声で「ライオネル」と俺の名前を呼んで欲しい。
ブランカを『絶対に好きにならないでいよう』と決めてたくせに、こんなことを願う俺は、もう相当重症かもしれない。
これが飾らない、俺の本音。
今日から隣国の首都イデアに留学するとのことで、さっきリュークとその他の留学生達を乗せた馬車が学園から出発した。ブランカは馬車が見えなくなってからもずっと、見えにくい目で遠くをずっと見ていたようだった。
リュークに恨みはないけれど、昨日の交際宣言は正直かなりショックだった。
「俺とブランカは付き合う事にした。俺の留学中、手は出すなよ?」
そんなセリフをいつもはクールなリュークが堂々と言うとは思わなかった。一瞬頭が真っ白になって、嘘だろ? という言葉が浮かんだ。
「ええええぇ~~」
マリエッタもびっくりしていた。
「ヤダ。ブランカ姉様は僕のだ。リュークこそとらないでよ!」
ブランカの事が大好きなジュリアンは可愛らしく拗ねていた。だが、目は笑っていなかったのを俺は知っている。
自分達の言葉に疑問を感じたのか、ブランカとリュークは直後に言い合いをしていた。
「ちょっとリューク! あなたは明日からいなくなるからいいけれど、そんなこっ恥ずかしい事を言って変な空気のまま私だけここに放置ってどういうことよ! 手を出すとか出さないとか、そんなくっだらない事心配しないでもそんなんあるわけないでしょ!!」
「はぁ? お前こそ、無自覚もいい加減にしろよ? このメンバーだけじゃない、お前を狙っている奴がこの学園に何人いると思っているんだ!」
「バッカじゃないの? そんなのゼロに決まっているじゃない。限りなくゼロよ! もしいたとしても、うっかりミスか罰ゲームか何かよ。本当にもう、恥ずかしい事ばっかり言うのは止めてよね!」
「何だと? お前は全然わかってない!」
だから俺がこう言ったのも、ある意味仕方の無いことだと思う。
「何かさあ、全然カップルに見えないんだけど……」
「確かに。今までとあんまり変わってないよね」
ユーリスも加勢してくれた。
その言葉を聞いたリュークが突然、ブランカの顎を持ち上げてキスをしようとしている。おいおい、こんな所でやめてくれよ? 公の場所だし、二人のそんな姿は見たくない。
ブランカが拒絶したから、俺はホッとした。
俺だけでなく、周りのみんなも。
「見たくなかったわ! ブランカ様にデレデレしてるリューク様を、見たくなかった」
マリエッタが震えている。
あれは確実に怒りだろう。
「帰ったら絶対に続きをするからな!」
リューク、空気を読め!
お前、周りを全員敵に回したぞ。
何で今?
何で留学先から帰るまで待てなかったんだ?
答えはおのずと知れている。
それは、ブランカがとても魅力的で心配だから。
『絶対に好きにならないでいよう』と決めていた俺でさえ、初めて一緒に馬に乗った時から彼女の笑顔にやられてしまった。はしゃぐ様子も弾んだ声も「もう戻ろう」と言った時に漏らした不満そうな声さえも、とても愛らしかった。
ブランカの唯一の魔法である『魅了』は封じられているはずなのに、どうやら俺には関係ないみたいだ。ああ、正確には俺だけでなく他のやつらもか。
ショックを受けていたのは俺だけではない。
カイルは無表情で固まっていたし、ユーリスもいつもの笑顔が強張っていた。マリエッタはずっと大騒ぎをしていたし、ジュリアンなんかはその後もブツブツと不満を漏らしていた。
まあ相変わらず、誰もブランカには気づいてもらえなかったみたいだが。
だから、リュークの心配はあながち間違いではない。それに、鈍いブランカが俺達以外の誰かにホイホイついて行ってしまっても困る。予め釘を刺しておきたかったんだろうし、自分は遠くに行くから俺らを牽制しておきたかったんだろう。
せっかく同じクラスで彼女の一番近くにいたのに、俺は一体今まで何をしていた? いくら幼なじみとはいえ、接する機会の少なかったリュークに比べて、俺の方が条件的には断然有利だったはずなのに。不甲斐ない自分に腹が立つ。失った時間はもう戻らない。
ブランカと乗った俺の愛馬に『シェリー』と名付けていた。それは、彼女のセカンドネーム『シェリル』の愛称。親しい者にしか呼ばせないその愛称を、俺は堂々と呼んでいる。いつか彼女が、名前の意味を直接尋ねてくれる事を願って。
なあブランカ。
今度、湖まで遠乗りしよう。
リュークだっていないから、君さえ良ければ一緒に。
いくら好きでも手なんか出さない。
「好きだ」とも言わないようにする。
だから安心してくれていい。
二人で一緒に出掛けよう。
俺はただ、君の笑顔が見たいだけだから――
見返りなんて要らない。
好きになって欲しいなんて贅沢は言わない。
時間はもう、巻き戻せないから。
だけどああ、一つだけ。
君の歌うような声で「ライオネル」と俺の名前を呼んで欲しい。
ブランカを『絶対に好きにならないでいよう』と決めてたくせに、こんなことを願う俺は、もう相当重症かもしれない。
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