本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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カイル編

淡い初恋

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 白銀の月(12月)の早朝はかなり冷え込む。でも私はこの時期の、澄んだ空気と静謐な時間がとても好きだ。
 昨日の『後夜祭』で騒ぎ疲れたせいか、休日だからなのか、いつもよりも人が少ない気がする。

 人が少ない方が私にとってはありがたい。王子という立場、常に誰かに注目されたり動向を見守られたりする立場ではあるものの、時々窮屈に感じるから。
 だからなのだろう。人の少ないこの時間に、好んで散歩をするようになったのは。



 朝の冷たい空気は、頭をスッキリさせてくれる。歩きながら考え事をするには最適だ。

   明日から隣のメガイラ国の首都イデアに留学するリューク。その彼に、昨日はまんまと先を越されてしまった。
   私は昨日の『競技会』中等部の部門で優勝したにも関わらず、彼女に感想を聞くどころか「パートナーになって欲しい」と頼むことすらできなかった。
 リュークが既にブランカと約束していたなんて……

 あの男は、日頃は恋愛に無頓着のような顔をしている。けれど、幼なじみのブランカが関わる事となると豹変する。
   私の手助けをするために未だ危険な隣国に、留学生という名目で派遣されることになったリューク。彼はその見返りとして、『ブランカに先に告白する権利と交際の黙認』『自分の留学中のブランカの身の安全と害虫駆除』を、恋敵である私に堂々と依頼してきたのだ。

   動き出した計画の性質上、受けざるを得なかったけれど。それならそれで、後夜祭のダンスのパートナーぐらいは私に譲って欲しかった。これでは何のために優勝したのかわからない。マリエッタと踊りながら、彼女も私も常にブランカを気にかけていた。

   ブランカがリュークとの交際を受け入れると決めたら、約束を実行しなくてはならない。けれどファーストダンスが終わると同時に逃げ出した昨日の様子を見ていたら、まだ大丈夫かな、と安心できた。
   まだ、私にもチャンスはあるのかな、と。
   あの後二人とも、すぐに会場に戻って来なかったのがとても気にはなったけれど。



 考え事をしながら歩いていたせいか、いつの間にかガゼボの近くまで来ていたようだ。庭も人けが無かったから、ここにも誰もいないだろう。朝のこんなに寒い時間に、屋外で愛を語り合うカップルがいるのなら、見てみたいものだ。

 しかし、ガゼボの中の人影を認めた瞬間、私の思考は止まった。
 信じたくはないけれど、あの水色の髪と薄紫色の特徴ある髪には見覚えがある。

「こんな所で二人きりで何をしているのか」と聞くだけ野暮なのだろう。
   誰が言い出したのかは知らないが、学園のガゼボには、ジンクスがある。

『好きな人に告白すると結ばれて、恋人同士で行くと永遠に続く』

   あのリュークがそんな事を気にかけるとは思えないが、ブランカに関しては、彼の行動は予測ができない。
   遠く離れる前に、せめて自分の想いだけでも彼女に伝えておこうとしているのだろう。

 

 二人は私に気づいていない。
 それだけ、自分達の話に夢中だということか。
 今すぐ背を向けて立ち去る事もできるし、近づいて邪魔をすることもできる。けれどそれだと、明日旅立つ親友との約束が守れない。ブランカとリュークの二人から目を逸らしたくても、気になってそれもできない。


 だからまさか、あんな場面を直に見ることになるなんて――



 寮の側までどうやって戻ってきたのかは覚えていない。
 けれど、その瞬間の刺すような胸の痛みだけは鮮明に記憶に残っている。
   私は自分で思っていたよりもずっと、彼女の事が好きだったようだ。父に言われたからではなく、初めて自分の意志で好きになった人。


 私はどうすれば良かったのだろう。どうすれば君の心を、私に向けることができた?
 もし彼より早く君に「好きだ」と伝えていたなら、君は私の事を少しは意識してくれたのかな?   リュークよりも私が良いと、少しは思ってくれたのだろうか?

 初恋はよく「実らない」と言うけれど……


 私の想いもまた、行き場を失った幼子のように心の中で泣いていた。
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