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ユーリス編
想いの行方
しおりを挟む僕がブランカに初めて会ったのは、王宮の庭でのお茶会の時。ジュリアンとマリエッタを激しく責める彼女を見た時だ。
今のブランカは、なんだか少し違う。
薄い紫色の髪や白い肌は一緒だけれど、眼鏡をかけていてすごく頭が良い。マリエッタへのキツイ口調は相変わらないけど、二人はとても仲が良く大抵いつも一緒にいる。
ブランカよりもマリエッタの方が、彼女を独り占め。ライオネルどころかカイルやリュークにも近づかせようとしないから、彼らも実は寂しがっていると聞いた。
同じクラスのライオネルは、二人に遠慮しながらもブランカの事を優しく見守っているようだ。ブランカの事が大好き過ぎて暴走気味のマリエッタをちゃんと止めているようだし、脚の悪い彼女の事を気遣って、いつも目の届く範囲にいるようだ。「彼女と同じクラスで羨ましいよ」と、この前カイルがこぼしていたのも聞いた。
小さな頃に冷たくされたはずのジュリアンも、「二人きりの時に彼女に言われた一言がきっかけで、勉強や作法を真面目に頑張るようになったんだ」と言っていた。そんなジュリアンは、ブランカを見るたびまっしぐらに駆けて行く。身体全体で彼女の事が大好きだと伝えているから、一番ブランカから可愛がられているような気がする。
僕の好きなマリエッタも、ブランカの事が大好きだ。といっても、小さな頃は健気でおとなしかったはずの彼女。ブランカの真似をして、彼女以上に自分の意見をはっきりと言うようになっている。この前も眼鏡を取った素顔のブランカ目当ての男どもを、廊下に出てすごい剣幕で追い払っているところを目撃してしまった。
まったく。
みんなブランカのことが大好きだ。
どうやったのかは知らないけれど、結局、ブランカは僕のために競技会の馬術のコーチをリュークに頼んでくれたようだ。彼はブランカとは一番古い付き合いだから、彼女の頼みが断れなかったのだろう。彼も例にもれずブランカの事が大好きだから。
だから僕はリュークに迷惑がかからないように、彼が早く自分の競技練習に集中できるように頑張った。けれど、そんな僕を見たリュークは「ちゃんとブランカから報酬をもらう事にしてあるから遠慮しなくて良い。自分のペースでいいんだ。ユーリスは筋が良いから、コツさえ掴めばきっと優勝できる」と、言われて褒められた。
誰かに、ましてや男の人に面と向かって褒められたのなんて、何年ぶりになるだろう? 僕の父は辺境伯で国境沿いに領地があるから、小さな頃から馬には乗れて当たり前。競技に出るような美しい乗り方なんて求められてはいなかった。狩りもできて当たり前。剣術もできて当たり前。本が大好きでできれば図書室にずっとこもっていたいと考える僕は、家族にとっては異端の存在。小さな頃は「勉強ができて偉い」とよく褒められていたように思うけれど、大きくなってからはあまり褒められることが無くなった。
普段は穏やかで優しい今の両親。
けれど、こと武芸に関しては僕に何も言わなくなった。それが少し寂しかった。
自分に劣等感を抱く僕を、まずブランカが認めてくれた。
「図書館が混んでたり気分転換したい時によく風の部屋に来る」と言った僕に対して、「あなたは昔から静かな方が好きだもんね」と、言ってくれた。「男のくせに本ばかり読んで」とか、「辺境伯の息子が馬術が下手だなんて信じられない!」なんて否定の言葉は一切言わなかった。
そればかりか、僕のためにライオネルやリュークに一生懸命馬術のコーチを頼んでくれていたのだそうだ。リュークはライオネルの次に頼まれたのが少し気に入らなかったようだ。それでも彼女のために僕の個人指導を引き受けてくれた。ブランカが僕に構うのを知って、最初は面白くなさそうだったけれど。だから僕は、彼にはなるべく逆らわないようにしている。リュークは教え方が上手で、褒めるのもとても上手だ。
ブランカのおかげで、僕は徐々に自分に自信が持てるようになった。
優しい彼女の周囲には、自然と優しい人たちが集まる。それはきっと、彼女がとても他人に優しく温かく、すごく魅力的だから。
ブランカの側は心地良い。
カイルやリューク、ライオネルやジュリアン、マリエッタまでもが彼女の側にいたいと願うのがとても良くわかる気が。幼い頃に威張っていて口が悪い人が実は一番良い人だった――なんて話は今まで聞いたこともなかったけれど。それがブランカなら自然に納得できるんだ。
今はまだ初等部の僕だけれど、これから先自分の気持ちがどう育つのかはわからない。けれど実は自分でも、少しずつ気づき出している。マリエッタに対する思いとブランカに対する想いは違っているということに。
誰とも争いたくないし誰も傷つけたくはないから、できればこの想いに気が付かないふりをして、ブランカ以外の人を好きになりたい。……できる事なら。
未来は誰にもわからない。
考えただけで心が温かくなるこのほのかな想いの行方も。
願わくばこの学園で、みんなが幸せになりますように――
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