本気の悪役令嬢 another!

きゃる

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カイル編

想いを風に乗せて

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 ブランカが療養のために王都を去ってまだ1年も経たないというのに、我々の周りは大きく変わっていた。

   誰も何も言わないものの、自分自身を高めようとそれぞれ努力をしているように思う。魔法が発現している私やリュークは、精度を高めるために訓練を始めたし、ライオネルは剣術と馬術の鍛錬に余念がない。ユーリスも辺境という土地柄上、馬に乗らなくてはならないし、最近は頻繁に王都にある屋敷を訪れて王宮内の図書館へ通い詰めていると聞いた。

   ジュリアンは貴族の礼儀作法や歴史、帝王学などを積極的に学び始め、近頃は教師も舌を巻くほどの力の入れようだと聞いている。   
   食えない父に上手く誘導されて私もこの3つ下の従弟いとこの勉強を時々見てあげているが、ゼロからのスタートの割には同い年の平均をとうに越してしまっている。完璧なマナーや態度を学ぼうと心掛けているからか、礼儀知らずな頃の面影は既にどこにも見られない。

   一番大きく変わったのは、マリエッタ。
   以前はおとなしく引っ込み思案な性格だったと思うけれど、ブランカの真似をしているからか、ハキハキと思った事を口に出しよく喋るようになった。好き嫌いがはっきりしていて感情を表に出し過ぎているきらいはあるが、笑ってごまかす他の令嬢達に比べれば、そちらの方が好感が持てる。
   リュークもどうやら私と同じ事を思っているようで、時々面白そうな目をして彼女を見ている。マリエッタに幼なじみのブランカの事を重ねて見ているのかもしれないけれど、どうせならそのまま、彼がマリエッタを選んでくれた方が私としてはありがたい。



   婚約の話が消えた時――

   彼女が私の目の前で倒れて、何日も高熱を出して寝込んだ時から嫌な予感はしていた。直ぐに見舞いに行きたかったが「うつる病気かもしれませんから、カイル様はご遠慮を」と、周りの人間から止められてしまった。
   個人である前に王子の立場である以上、自分の思いや感情を優先させる事が出来ない。そんな時はいつも、王家に生まれた自由になれない我が身を呪わしく思う。

   だから嫌な予感が当たって、ブランカの後遺症を理由に侯爵家が「婚約の話は退」とはっきり断ってきた時には、目の前が真っ暗になった気がした。
   その時初めて私は、モヤモヤしていた自らの感情に気がついた。


   ああ、そうか。
 私はブランカの事が好きなんだ……


   大人のように激しく苦しい恋では無いけれど、彼女のそばにいるだけでなぜか心が満たされ楽しい気分になるし、そんな自分が嫌いでは無い。
   頭が良くハッキリとした意見を述べ、曲がった事が大嫌いな彼女。
 子どもらしくない偉そうな物言いも、すぐにマリエッタに突っかかる所も、悪ぶっている仕草も全てが面白く、いつ見ても笑ってしまう。

   そういえば以前お茶会の席でも、

「フン、美少女だからって私に指図しないでよね! あなたなんかにそばに来て欲しく無いわ! さっさとそちらの男子に囲まれちゃえば?」

 なんて言うから可笑しかった。
 それは、悪態を吐いていると見せかけてマリエッタを褒めているの? 
 それとも席を譲っているの?

   澄んだアメジストのような瞳も珍しい淡い紫の髪も、見かけただけで嬉しくなってしまうくらいには、彼女の事が好きだった。リュークには負けたくないと初めて思った。
   だからこそ、彼女の意に沿わぬ婚約はしたく無かった。

「バレリー侯爵側が少しでも嫌がったら、この話は無かったことに。婚約だけとはいえ万が一解消に至った場合、女性の側の負担が大き過ぎます」
  
 父にはそう言った。
   けれど実際に、断られて王都から去られるとなるとキツかった。

「足も目も私は何も気にしていない。君が君であるならば、私はそれで構わない」

   王子の立場をかなぐり捨ててそうハッキリと言えたなら、どんなに良かった事だろう。待っているから帰っておいでと伝えられたら、どんなにスッキリした事だろう。


 だから口には出さないものの、皆と同じく私も自分を高めようと努力をしながら、君の帰りを待っている。せめて『好きだ』というこの想いだけでも、風が君の元へと運んでくれたなら……
   今の私は願って止まない。

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