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児童期 回想編
思えば私は黒かった
しおりを挟む『プリマリ』とファンの間で呼ばれている『プリンセスガーデン~マリエッタと秘密の貴公子』は、売れっ子イラストレーターによる美麗スチルと豪華声優陣のイケメンボイスが特徴の、携帯電話用乙女ゲーム。 6年間過ごす事になる王立学園を舞台に、主人公である男爵令嬢のマリエッタとイケメン達との恋と友情と青春に魔法を絡めた物語だ。
ここまではありがちな設定だけれど、『プリマリ』は美麗スチルとイケボの質が群を抜いていて、愛の囁き率が半端ない!!
一度に進められる話は少しずつで、選択肢によって好感度が変わってくる。ある程度は無課金でそれなりに楽しめるけれど、課金した方がレアアイテムや特典ボイスが手に入りやすい、というのは携帯ゲームの常識!
でも、スチルとイケボを手に入れられて素敵な時間を過ごせたから、後悔は無いの。一度手に入れたボイスは、何度リピートしても無料だし……。だけど、残念ながらどんなに課金しても、どの攻略者からも絶対に愛されるという究極のレアアイテム、『虹色のドレス』はとうとう手に入らなかった。
前半の共通ルートを終了した後は、後半の高等部からの個別ルート。キャラクターの誰かと一対一でラブラブ学園生活を楽しめる仕様になっている。目当てのキャラクターが好むアイテムや選んだ選択肢によって、そのキャラからの好感度が異なってくる。どのキャラを選んでも悪役令嬢ブランカが時々出てきて中途半端に仲を引き裂こうとしてくるから、非常にイラっとする。
本編ストーリーとは別に、季節によって限定イベントも開催される。オリジナルの豪華スチルや声優さん渾身の甘~~いボイスも手に入れる事ができるから、これはもうプレイするしかないでしょう! 当たりを出すためにイケメンに貢ぐ。あー幸せ!
『プリマリ』がスタートするのは私や主人公のマリエッタが12歳になって学園が始まってから。攻略対象の面々に会うのもどうせその頃。今の私は小さいから、将来情熱的で華麗な嫌がらせを演出するために、それまでにたくさん知識をつければ良いだけ。
何だ、簡単じゃない!
そう思ってこの世界の知識を詰め込もうと、頑張っていたのだけれど……
思い出してまず会ったのは、私より1つ年上の公爵家の嫡男。父親同士が親友で、家族ぐるみで昔から割と懇意にしている。
「あら、リューク……様。ごきげんよう。あなたも調べ物?」
彼は水色の髪と瞳を持ち、子どもながらに綺麗な顔をしている。『プリマリ』に出てくる攻略対象の一人で、将来はメガネ男子。転生前、私は彼の声が一番好きでボイス付きスチルを大量に集めていた覚えがある。あ、好きなのはもちろん、彼が大きくなってからだけどね?
「やあ、ブランカ。久しぶりだね。何を調べているんだい?」
残念。やっぱり子どもの声。
でも、中身が24歳の私から見てガキンちょ過ぎるとはいえ、あくまで筆頭公爵の御令息だ。きちんと相手をしないとまずかろう。そう思って真面目に答えたら、思いの外ヒートアップしてしまった。
前世を日本で過ごした者として、法学部を卒業した者として、到底貴族社会では受け入れられないような理由をあげつらう。
ちょっと熱くなり過ぎてしまったかしら。
考え込むリュークを見て思う。
ただね、選べない生まれや環境を当たり前だと思わないで欲しいの。身分による差別や区別を全て『当たり前』で片付けて欲しくなんかないの。
この世界では貴族の特権は当然の考えなのかもしれないけれど、私の考えは違う。上に立つ者はそれなりに気概や公平な目、慈愛の心があって然るべきだと思うから。
公爵子息のリュークは黙って考えて居る。
私の言い分を年下だからとか女だから、と即座に否定しない所はまだ見込みがあるみたい。さすがは後の攻略イケメン。まあいいわ、答えはすぐに出ないもの。
次に会ったのは、ヒロインのマリエッタ。
王太后様の誕生記念パーティーで、オドオドしている彼女を見つけた。
「やっと見つけた! ……主役の貴女がこんな所にいたらダメじゃない。もっと堂々としていないと」
その後自己紹介をした私を見て、おとなしい彼女はキョトンとしていた。それもそうか。私達、本当は学園に入ってから知り合うはずだったもんね。でもね、あなたは美少女なんだから、こんな隅にいる必要は無いのよ?
「おっしゃる通り、私はマリエッタ=ベル=クローネ。クローネ男爵の次女です。――あなたとは身分も違うから、私なんかと仲良くなっても仕方がないと思うの……」
かっちーーん!!
何そのマイナス思考?
じゃあ、何?
あなたをキレイにするために散々課金した私を、あなた自身が否定するわけ? まあ実際には、イケメンスチルとイケボのために課金したんだけどさ。
でもね、声優さん達……違った、攻略者達があなたに甘く優しく囁くのは、あなたがとってもキラキラしていて魅力溢れる女の子だったから。暗くて自信がなくて自分の事を卑下するような子には、少なくとも彼らは寄り付いてこないと思うの。
それじゃあ困るのよ。誰よりも、この私が!!
意地悪しても意味が無いじゃない。
間近でいちゃラブ見られなくなるじゃない。
だからちょっと言ってしまった。
当時彼女も私も6歳だったというのは、できれば不問で。
私の意見に、思わずクスリと笑ったマリエッタ。
「そーそー、その顔よ、マリエッタちゃん! あなた美少女なんだから、もっと笑って見せつけないと。あとは、課金してドレスね」
思わずゲームのシステムを口走った私。
彼女はキョトンとした顔をした。ヤバっ。
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