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児童期 回想編
本気か? 悪役令嬢!
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『薔薇の館』と呼ばれる程、咲き誇る色とりどりの薔薇の庭が見事なバレリー侯爵家。その侯爵家の一室で、ワガママでお転婆だと評判の5歳の美少女が、鏡を手にして声を限りに叫んでいた。
「何、コレ。私、あ、あ、悪役令嬢~~~!!?」
鏡に映ったその顔は、すぐにわかった。
転生前にハマっていた携帯乙女ゲーム『プリンセスガーデン~マリエッタと秘密の貴公子』、通称『プリマリ』に出てくるおじゃま虫、の小型版。愛らしいヒロインのマリエッタと攻略対象との仲を中途半端に引っかき回し、邪魔の仕方もすごく手ぬるいライバル役の悪役令嬢。
「そんな意地悪じゃダメだろ~ 」とか、「邪魔しに行ってるのにすぐに引き下がってどーする~ 」とか、ファンの間で物議を醸した彼女。
彼女の所為でストーリーも盛り上がりに欠け、美麗スチルとイケてる豪華声優陣のボイスでファンが多い割には、ゲームの評価が低かった。
よりによって、何でこの子?
あまり、いえ全然好きでは無かったキャラ、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢の幼年時代に私、24歳のOLである高木 千波矢は転生していたのだ。
磨き上げられたツルっツルの大理石の階段。
その手すりさえ滑らなければ……
後悔しても、もう遅い。
頭から下の絨毯に転落した結果、怪我はほとんどなかったものの、突如記憶が怒涛のように頭の中に押し寄せて。
思い出したのは、パッとしない弱小通販会社に勤めていた冴えないOLだった頃の自分。その時の唯一の癒しであった携帯乙女ゲーム『プリマリ』の世界。
鏡に映った自分の顔が、よもや一番嫌いなキャラであった悪役令嬢――を小さくしたような顔だとは!!
いえ、携帯ゲームの『プリマリ』自体はとても好きだった。登場人物の顔面偏差値高くって、悪役でさえ美しかった。
かくいうこの子も、容姿や家柄に恵まれている。
薄紫の髪もアメジストのような濃い紫色の瞳もとてもきれいだし、甘えた声さえ出せば彼女の両親は大抵何でも叶えてくれる。大きくなったらサラサラロングの髪で背も高くって、唇は紅く肌は白く体型も女らしくチェンジするって知っている。容姿や家柄は平均より上、いえ、むしろかなり良い方。
でも――
『まるで天使!』なヒロイン、ふわふわの金髪で夢見るような青い瞳のマリエッタには敵わない! 愛らしい仕草と桜色の唇、見上げる瞳は濡れていて……。私はいじらしい彼女が大好き! 彼女に憧れて散々課金し、彼女になりきってイケメンスチルとイケボ特典集めまくった後だったからなぁ~~。今さら正反対の容姿と性格のキッツイタイプのこの子と言われても。
あ、別に言われてないか。
私が勝手に転生前を思い出してしまっただけ。
転生先はゲームの世界! には、実はあまり驚いていない。それよりも、役どころに文句をつけたい。中途半端でグダグダな、ファンから恨まれていた(私も恨んでいた)彼女。
「悪役令嬢ブランカじゃあな~~」
「ブランカ、頭を打ったからなの? 変な事を口走って……やっぱり気分が悪いのかしら。お母様の事、わかる?」
オロオロしている侯爵夫人のお母様。
猫のように上がった目尻と角度によっては薄紫にも見える瞳、結い上げた桃色の髪や白い肌もすごく綺麗で、はっきり言って美人だ。前世を思い出していない時は、私も将来こうなるのかと楽しみにしていたけれど。
「ハア」
やっぱりブランカと呼ばれたか。
ああ、気が重い。
ブランカって名前もおかしいと思う。
だって性格黒いし。
でもこの子って悪役の割には大したこと無い。
そのせいでストーリーも面白く無くて、ヒロインのマリエッタちゃんも美少女なのに地味なまま。心を射つ劇的なイベントも無く、ただひたすらスチルとボイスでごまかしているだけ。ブランカの意地悪が冴えていれば、もっドラマチックな展開になっていただろうに……
あれ? でも待って?
そこで私は、ハッと気付いた!
悪役令嬢ブランカは、不幸にならない!
ヒロインは攻略者とくっつかないこともあるけれど、ブランカどっちでもいっしょ。
『国外追放で商人と知り合い、平凡だけど幸せな生活を送りました。後日感謝の思いをしたためた手紙が、マリエッタの元に届いたそうです』
そんな感じで終わるから、命の危険が無いんだった!
以前読んだラノベの悪役令嬢達は、死亡フラグを回避するために良い人になったり、せっせと仕事したり周りに一生懸命働きかけたりして頑張っていた。
でも私は、そんな大変な事をしなくても大丈夫! むしろ、意地悪したり主人公いじめた方が『国外追放&商人のおかみさん』に近付くんじゃあ?
それにそれに、意地悪している間はヒロインのすごく近くで彼女と攻略者達とのいちゃラブを観察出来るって事よね? いわば、ゲーム版から実写版?
俄然ヤル気が出てきた!!
『悪役令嬢』良いじゃない。
『国外追放』サイコー!
『商人のおかみさん』に営業事務の腕がなる!
貴族同士の諍いやしからみの無い安心、安全、安定の平凡な暮らしが待っている。目指すはヒロインであるマリエッタのハッピーエンドと自分の追放エンド!
失敗しても構わないし、意地悪しても死亡するわけではないみたい。それなら、せっかくだからストーリーを盛り上げてマリエッタちゃんと攻略イケメンの劇的ないちゃラブを見たいと思うのがファン心理!
まあ、ストーリーを全部思い出したわけではないけれど。
だけどこれから、『悪役令嬢』一生懸命頑張らなくっちゃ、ね?
「何、コレ。私、あ、あ、悪役令嬢~~~!!?」
鏡に映ったその顔は、すぐにわかった。
転生前にハマっていた携帯乙女ゲーム『プリンセスガーデン~マリエッタと秘密の貴公子』、通称『プリマリ』に出てくるおじゃま虫、の小型版。愛らしいヒロインのマリエッタと攻略対象との仲を中途半端に引っかき回し、邪魔の仕方もすごく手ぬるいライバル役の悪役令嬢。
「そんな意地悪じゃダメだろ~ 」とか、「邪魔しに行ってるのにすぐに引き下がってどーする~ 」とか、ファンの間で物議を醸した彼女。
彼女の所為でストーリーも盛り上がりに欠け、美麗スチルとイケてる豪華声優陣のボイスでファンが多い割には、ゲームの評価が低かった。
よりによって、何でこの子?
あまり、いえ全然好きでは無かったキャラ、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢の幼年時代に私、24歳のOLである高木 千波矢は転生していたのだ。
磨き上げられたツルっツルの大理石の階段。
その手すりさえ滑らなければ……
後悔しても、もう遅い。
頭から下の絨毯に転落した結果、怪我はほとんどなかったものの、突如記憶が怒涛のように頭の中に押し寄せて。
思い出したのは、パッとしない弱小通販会社に勤めていた冴えないOLだった頃の自分。その時の唯一の癒しであった携帯乙女ゲーム『プリマリ』の世界。
鏡に映った自分の顔が、よもや一番嫌いなキャラであった悪役令嬢――を小さくしたような顔だとは!!
いえ、携帯ゲームの『プリマリ』自体はとても好きだった。登場人物の顔面偏差値高くって、悪役でさえ美しかった。
かくいうこの子も、容姿や家柄に恵まれている。
薄紫の髪もアメジストのような濃い紫色の瞳もとてもきれいだし、甘えた声さえ出せば彼女の両親は大抵何でも叶えてくれる。大きくなったらサラサラロングの髪で背も高くって、唇は紅く肌は白く体型も女らしくチェンジするって知っている。容姿や家柄は平均より上、いえ、むしろかなり良い方。
でも――
『まるで天使!』なヒロイン、ふわふわの金髪で夢見るような青い瞳のマリエッタには敵わない! 愛らしい仕草と桜色の唇、見上げる瞳は濡れていて……。私はいじらしい彼女が大好き! 彼女に憧れて散々課金し、彼女になりきってイケメンスチルとイケボ特典集めまくった後だったからなぁ~~。今さら正反対の容姿と性格のキッツイタイプのこの子と言われても。
あ、別に言われてないか。
私が勝手に転生前を思い出してしまっただけ。
転生先はゲームの世界! には、実はあまり驚いていない。それよりも、役どころに文句をつけたい。中途半端でグダグダな、ファンから恨まれていた(私も恨んでいた)彼女。
「悪役令嬢ブランカじゃあな~~」
「ブランカ、頭を打ったからなの? 変な事を口走って……やっぱり気分が悪いのかしら。お母様の事、わかる?」
オロオロしている侯爵夫人のお母様。
猫のように上がった目尻と角度によっては薄紫にも見える瞳、結い上げた桃色の髪や白い肌もすごく綺麗で、はっきり言って美人だ。前世を思い出していない時は、私も将来こうなるのかと楽しみにしていたけれど。
「ハア」
やっぱりブランカと呼ばれたか。
ああ、気が重い。
ブランカって名前もおかしいと思う。
だって性格黒いし。
でもこの子って悪役の割には大したこと無い。
そのせいでストーリーも面白く無くて、ヒロインのマリエッタちゃんも美少女なのに地味なまま。心を射つ劇的なイベントも無く、ただひたすらスチルとボイスでごまかしているだけ。ブランカの意地悪が冴えていれば、もっドラマチックな展開になっていただろうに……
あれ? でも待って?
そこで私は、ハッと気付いた!
悪役令嬢ブランカは、不幸にならない!
ヒロインは攻略者とくっつかないこともあるけれど、ブランカどっちでもいっしょ。
『国外追放で商人と知り合い、平凡だけど幸せな生活を送りました。後日感謝の思いをしたためた手紙が、マリエッタの元に届いたそうです』
そんな感じで終わるから、命の危険が無いんだった!
以前読んだラノベの悪役令嬢達は、死亡フラグを回避するために良い人になったり、せっせと仕事したり周りに一生懸命働きかけたりして頑張っていた。
でも私は、そんな大変な事をしなくても大丈夫! むしろ、意地悪したり主人公いじめた方が『国外追放&商人のおかみさん』に近付くんじゃあ?
それにそれに、意地悪している間はヒロインのすごく近くで彼女と攻略者達とのいちゃラブを観察出来るって事よね? いわば、ゲーム版から実写版?
俄然ヤル気が出てきた!!
『悪役令嬢』良いじゃない。
『国外追放』サイコー!
『商人のおかみさん』に営業事務の腕がなる!
貴族同士の諍いやしからみの無い安心、安全、安定の平凡な暮らしが待っている。目指すはヒロインであるマリエッタのハッピーエンドと自分の追放エンド!
失敗しても構わないし、意地悪しても死亡するわけではないみたい。それなら、せっかくだからストーリーを盛り上げてマリエッタちゃんと攻略イケメンの劇的ないちゃラブを見たいと思うのがファン心理!
まあ、ストーリーを全部思い出したわけではないけれど。
だけどこれから、『悪役令嬢』一生懸命頑張らなくっちゃ、ね?
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