【完結】悪役令嬢に仕立てあげられそうですが、私は絵を描きたいだけなんです。

ぴえろん

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罪悪感と責任感の行方

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「もうローレライが目を開けることは無いわ。幸せな夢を見続ける魔法をかけたから。」

エリザが静かにそう言った。


「ユリア、大丈夫かい?もしかして寒いのかい?」

レインに言われて初めて自分の身体が震えている事に気が付いた。

小刻みに震える身体を両腕でさすった。

緊張と恐怖からくるストレスが、今更震えになって現れてきたのかもしれない。

「どこかに毛布が無いか見てくるよ。」


私が震えているのは寒いからではないのだが、私にはそれを撤回する気力もないので、毛布を探しに行くレインを見送った。


レインが離れ、取り残された私にテオが近づいてきた。


「ユリア。再び君を巻き込んでしまいすまない。

お詫びになるか分からないが、あの時の約束を果たそう。

君と結婚をする。そして君は自由にこの国で思う存分絵を描くといい。」


テオが罪悪感に苛まれた表情で、私に向かってそう言った。

お詫びに・・・結婚・・・。

前世の私が愛した男は、再び私と婚約を交わそうとしている。

昔の私なら、喜んだかもしれないけど・・・。

「へー!よかったじゃん。前世みたく、また君がこの世界のお姫様になるんだな。」

何も答えられない私の頭上から突然声が降ってきた。見上げるとそこには。

あの翼の生えた少年が、綺麗な顔でニヤリと笑っていた。

テオや妖精たちは何も少年に反応していないのを見るに、この少年はどうやら私にしか見えていないらしい。

少年は私に微笑んだ。

「これでハッピーエンドってわけだ。」



ハッピーエンド?

一体どこが?

崩れた城に、荒れ果てた街。

魔物が襲ってきたせいで怪我人もたくさん出ていて、ここからこの国を立て直すのには相当な時間がかかるだろう。

当然だ、ローラは国を滅ぼす気でいたのだから。


誰がどう見てもこれがハッピーエンドだなんて冗談でも言えない。


本当にこれでいいのだろうか。


本来ならば幸せな笑顔で王子様と結ばれるはずのヒロインが、見るに堪えない血を流して私の目の前に横たわっている。

皇太子はうつろな目をしていて、城も街もめちゃくちゃだ。

どこからか泣き叫ぶ声も聞こえてくる。

こんなの絶対、間違っている。


こうなったのは全て、前世の私の願いが原因だ。


私が望んでいる事はなに?

この世界で幸せになること?それともお姫様になること?


ううん、私はそんなの望んでいない。



「ねえ。話すなら、場所を変えない?」

私が少年に声を掛けると、少年は快く了承し私たちは少しだけみんなのいる場所から離れ、二人きりになった。

私はもう気が付いている。

目の前の、神と名乗る少年が、神なんかでは無いって事を。


甘い言葉を囁き、私の欲を全て叶えようとするふりをして、悲劇へ事を運んでいく存在。


「あなたは、神じゃなくて悪魔なんでしょう。あの時の。」


私の言葉に、姿だけは天使のような悪魔が私の方を見た。


「もう一度私と、取引きをして。」


悪魔が、歪んだ笑顔で私を見た。




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