【完結】悪役令嬢に仕立てあげられそうですが、私は絵を描きたいだけなんです。

現実から逃げるのは、もうおしまい

「美優ー！朝だよ。もう起きないと。」


目覚まし時計の音とともに、誰かに身体を揺さぶられる。

おかしいな、私一人暮らしのはずなのに・・・・。

そう思って目を開けると、恐ろしく整った顔立ちが目に入り飛び起きる。


「お、今日は目覚めがいいね。おはよう、美優。」


そこには優しく笑うサリエルがいた。

そうだった。わたし、あれからずっとサリエルと暮らしているんだった。



「お、おはよう、サリエル。」


夢うつつの中挨拶を返す私の鼻に、美味しそうな匂いが届いた。


「朝ごはん出来てるから、早く食べて！」


そうなのだ。サリエルは私を朝甲斐甲斐しく起こしてくれる上に、朝ごはんも準備してくれる。


しかも料理が得意なのか、サリエルが作るご飯はいつも美味しい。至れり尽くせりだ。


今日も相変わらず美味しい朝ご飯を食べ終わると、サリエルが通勤用の鞄を持ってきてくれた。


「それじゃあ、僕も仕事しようかな。」


サリエルがそう言いながら、ノートパソコンを取り出して、作業を始めた。

そうなのだ。サリエルは家事だけでなく、働いてくれてもいる。

それも、普通の仕事ではない。

サリエルは外国通貨の売買、いわゆるFXでお金を稼いでいるのだ。

パソコンさえあれば家でも売買が出来るらしく、サリエルは私が会社に行っていて居ないときは、そうやって働いている。

しかも、堕天使特有の能力で取引の結果が全て見通せるらしく、少額ではなく高額なお金を安定して稼いでいるらしい。

そんなサリエルは、二人で暮らすためにもっと広い部屋に引っ越そうと私に提案してくれていた。
だから今は、二人で引っ越し先を探しているところだ。

広い部屋に引っ越して落ち着いたら、早速あの妖精たち三人の漫画を描いてみようかな。


実は、サリエルから残業ばかりさせる会社から、もう転職した方がいいとも言われている。

もし本当に転職できたなら、今より時間もたくさんできるかもしれないし。


そんな事を考えながら、朝の支度を終えた私は、サリエルに見送られながら外に出た。


会社への道を歩いていると、スマホの通知音が鳴ったので手に取ってみる。


スマホのロック画面を解除して確認すると、１件のメッセージが来ていた。

それは、私によく結婚しないのかと聞いてくる友人からだった。


【久しぶり！美優はあれから結婚の方はどう？彼氏とかできた？】


いつも定期的に来るお決まりのメッセージに、いつもの私ならため息でも吐いていただろう。


【うん。もうすぐ結婚する。】


私はそっと送信ボタンを押した。

眩しい朝の日差しの中、スマホを鞄に放り込んで再び私は歩き出した。