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悪魔は平気でうそをつく

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「ここは、美優の精神世界だよ。」


身体が動かない。声も出せない。

何も感じない。


私は今、真っ暗な場所に一人きりだった。


そんな暗闇の中で、声だけが聞こえてくる。


「魂も心も失ったんだから、当然だよね。」


悪魔の声だ。

悪魔の言葉に疑問が浮かぶ。

魂も?差し出したのは心だけじゃなかったの?


「ああ、魂は前世の君とした契約の代償なんだ。」

声に出さずとも悪魔とは会話が可能なようで、私が思ったことに悪魔は答えてくれた。


そういえば、前世で確かにそんな契約をしたんだった。

後悔さえできない私は、他人事のように昔の記憶をなぞった。


「そんなことよりさ、」


心を手に入れたはずの悪魔が、相変わらず冷めた口調で話を続ける。


「その後の世界は消すという約束だったから消したけど、

実は、残念ながらそれだけじゃローラは救われないんだよね。」


・・・どういうこと?

「だって元のお話に戻したら、この世界が消えちゃうだろう?

そんなの、僕に何の得もないじゃないか。

この世界を誕生させたことで、せっかく出世できたのに。

だから僕は、時間を巻き戻してあげたんだ。君がレイラに転生した直後にね。」


そ、そんな・・・・。


「でも、君の願いは、その後の世界を消す事だけだったよね?

消す方法は特に指定してなかったしね。あはは!」



悪魔が笑う。それはそれは、楽しそうに。


わたしは、また間違えてしまったの?

なぜまた悪魔を信用してしまったの?


ああ、でも、それを嘆くことすらできない。

私はもう、魂も心も悪魔にとらわれてしまっているから。


「美優。迎えに来たよ。」


全てを諦めた時、誰かの声が耳に届いた。


これは、幻?私がそうであって欲しいと願うあまり、幻覚を生み出しているの?


私の目の前には、レインが立っていた。


「さあ、おいで。美優。僕と一緒に現実世界へ帰ろう。」


レインが私に近づいて、私の手を優しく握った。

その瞬間、先ほどまで姿を見せなかった悪魔が突然現れ、私とレインを引きはがした。


「・・・どういうこと?人間がここに入って来れるわけないんだけど。」


悪魔が訝しげにレインをじろじろと見つめてから、ふいに納得の表情へ変わった。


「なあんだ、よく見たら君、堕天使のサリエルじゃないか。

噂で聞いたよ。僕に人間の魂をみすみす奪われてしまったから、怒った神から天界を追い出されたって。」


悪魔の言葉に耳を疑った。

堕天使・・・?今レインの事を堕天使と呼んだの?

レインは、あの世界の人間じゃないの?


「ていうかさ、今サリエルがしてることって、完全に異常だよね?

この人間は、2度も悪魔の誘いに堕ちてしまったんだよ。
この人間が原因で堕天使になったのに、そんな人間に何度も情をかけるなんて有り得ない。」


悪魔はレインを揺するかのように顔を覗き込んだ。


「なに?もしかして、この人間に惚れているの?」


それまで一切悪魔の方に見向きもせず、視線を落としていたレインが顔を上げて悪魔を見た。


「そうだ。僕は、美優が好きだ。だからなにがあっても彼女だけは守る。」



その言葉は、私にとって初めて誰かから向けられた好意だった。




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