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青年は公爵家!?

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あんなにもう会いたくないと祈ったのにどうして。

私の目の前には今、あの街で別れたはずの青年が立っている。



「いやあ~!僕って実は執念深いんだよね。

なんだか君の事、ずっと忘れられなくてさ。」


私の後ろで妖精の姿の三人が静かに見守ってくれている。


全くどうしてこんな事に。


あの後イグニスと再び森に戻った私は、またエリザにお花のベッドを作ってもらい一晩過ごした。

そして起きてから今日も絵の案が浮かばないまま、森で食べられそうな木の実を集めていた。

そうしたら、再び昨日と同じように馬に乗った青年がやって来たのだ。


「そんな怖い顔しないでよ。ていうかユリアってもしかして、この森に住んでいるの?」


青年の言葉に思わずぎょっとする。

何故それに気づかれた!?


「ユリアって、思っていることがすぐに顔に出るタイプだよね。」


青年がおかしそうにクスッと笑った。


それを見て、不覚にもドキッとしてしまう。

普段はきりっとしている顔なのに、笑うと可愛いなんてずるい。


「私がどこに住んでいようと、あなたには関係ないですよね?

大体、あなたは誰なんですか?」


すこし言葉を尖らせながらそう聞くと、青年がハッとした表情になった。


「僕としたことが、名乗るのをすっかり忘れていたね。

僕は、レイン・フォールスト。とある理由でこの国周辺を調査しているんだ。

だから君の事も、この森に住んでいるのなら事情を聞きたいね。」


名乗ったレインは、私の顔を一瞥してから森を見渡した。


「だってここに住むなんて、普通はしないだろう?」



どうしよう、正直に答えてすんなり信じてもらえるような話でもないし。

「おい。」

悩んでいると後ろから声が聞こえた。

「まず、その調査している理由を言えよ。

どうせそんなの本当は無くて、ユリアに会いたいだけなんだろ?」


振り返ると、声の主はイグニスだった。

いつの間にか人に変身したイグニスは、私の前に立ち、昨日と同じようにレインを睨んだ。


「やれやれ。また君がいるのか。

ユリア、こんな男といるより僕とお茶した方が余程有意義な時間になるよ。」


「話を逸らすな。」


イグニスにそう言われて、レインがげんなりした顔をした。



「分かったよ。僕は、魔物の出処を調査をしているんだ。」


渋々答えるレインに、イグニスは声を荒げた。


「嘘をつくな!この辺りで魔物の話なんか聞いたことないぞ。」


イグニスの言葉に、レインは顔を曇らせた。


「君の言う通り、この辺りには魔物が出たことが無かった、つい最近まではね。」


レインは私たちの顔を見回して、再び口を開いた。


「この国には昔聖女がいて、この辺り一帯に強力な結界を張ったんだ。
それ以来魔物が一切出ないことで有名だったんだけど、どういうわけか近頃魔物の目撃情報が相次いでいてね。

実際に襲われた人もいて、被害はすでに出ているんだ。
それで陛下に極秘に命じられて、この国周辺を調査しているのさ。

この森に来たのも、そのためだ。」


レインの話に、ただただ唖然とさせられた。

魔物や聖女、結界なんて、そんなのゲームの中でしか聞いたことのない単語だ。

何より襲ってくる魔物なんて、そんなのがいるのは怖すぎる。


理解が追いつかない私に構わず、レインは話を続けた。


「まあ、聖女が結界を張ったのは数百年も前だし、それが弱まってきているのかもしれないけど。

でも僕の勘では、それ以外にも理由がある気がしてるんだよね。」


「で、その魔物が湧き出る原因がユリアだとでも思ってるって事か?」


イグニスがそう言った事で、ようやくレインが何が言いたいのか私にも理解できた。

私を疑っているのね。

イグニスのように私もレインを睨んだ。


レインは私たちの反応を見て、やれやれといった感じにため息を吐いた。


「もちろん、そんな風には思ってないさ。でも、万が一ってこともあるだろ?

だから一応、聞いておきたいんだ。」


さあ、いよいよ答えないとまずい展開になってきてしまった。


しかしその前に一つ、疑問がふっと湧いてきた。


「ちょっと待って、陛下から極秘で命を受けるなんて、あなたは何者なの?」


私がそう聞くと、レインは私の方を見て言った。

「それは僕が、公爵家の人間だからかな。」


何て事無くそう言ってのけるレインに対し、私は開いた口が塞がらない。


公爵家!?

貴族かとは思っていたけど、そんなに身分の高い人だったなんて。


ていうか私、テオといいレインといい、なんでそんな身分の高い人にばかり遭遇してしまうの!?


運がいいのか悪いのか。


たじろぐ私とは反対に、イグニスはニヤッと笑った。



「ユリア、こいつなら招待状を手に入れるのに役立つんじゃないか?」


イグニスのその言葉に思わずうなずいてしまう。

たしかに。

公爵家の人間なら、皇子の婚約パーティーには必ず招待されるだろう。



「レイン。信じてもらえるか分からないけど、聞いてほしい話があるの。」


恐る恐るレインにそう言ってみる。

心配なわたしとは反対に、レインは明るい表情でうなずいた。


「もちろん。可愛い女の子の話なら信じるさ。

さあ、話してみて」


レインの返答を聞いて腹をくくった私は、今までの経緯をレインに語った。

さすがに、自分が本当はこの世界とは別の世界の人間であることは伏せたが。

家族から嫌われていた事、妹だけが愛されていること、偶然皇太子殿下のテオに会い婚約したが妹に奪われたこと。

そして、妹の正体が妖精で、妹の歌声には人を操れてしまう力がある事まですべて話した。

到底信じてもらえるような話ではないはずだが、レインは真剣に聞いてくれていた。



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