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絵を褒められました。
しおりを挟む次の日の朝。
私は起きるや否や外に出た。
昨日父親に言われた事が変に頭にこびり付いて離れなかった。
こう言う時は、悶々と考えるより外に出た方がいい。
それに、少しやってみたい事がある。
私は自分が描いた絵を持って質屋を探していた。
絵を売りたいのだ。
私が描き、妖精の魔法で色がついた絵が、この世界でどのくらいの価値になるのか知りたい。
少額でもいい。
もし少しでもお金になれば、今の私には多少慰めになる気がする。
淡い期待を抱きつつ質屋に行くため、街中を歩き回った。
しかし、こちらの世界の地理感覚がまだ無いためか質屋は絶望的に見つからなかった。
もしかして、そんなのこの街には無かったり.......?
諦めかけようとしたが、やはり諦める前に誰かに聞こうと思い、ちょうど近くにいた人に声を掛けた。
「すみません、聞きたいことがありまして.......」
そう声を掛けると、目の前にいた男がこちらに振り返った。
その男の顔を見て、思わず目を奪われた。
ローラのように、いやローラより綺麗な金色の髪。
金色の瞳。
端正な顔立ち。
年齢は、私と同じくらいだろうか。
誰がどう見ても美形と答える顔を持つ男がそこに居た。
びっくりした、フードを被っていたので振り返るまで分からなかった。
しかもフードの下で身を包んでいる衣服はどう見ても高貴な物なので、お忍びに来た貴族感が満載だった。
一瞬たじろいだが、このまま何も聞かない方が失礼かもと思い聞いてみた。
「あの、この辺で質屋ってありますか?自分が描いた絵を売りたくて.......」
そう言うと、男は表情一つ変えずに私を見つめた。
「この辺に質屋はない。」
男の返事に、肩を落として分かりやすく落胆してしまった。
そうなのね、どおりで見つからないわけよ。
「そうですか.......ありがとうございます。」
お礼だけ言って、そのまま立ち去ろうとした私に男が再び声を掛けた。
「どんな絵を描いた?見たい。」
絵を見るのが好きなのかな?
こんな自分が描いた絵に興味を示してくれたのが嬉しかった私は、迷うことなく持っていた絵を全て差し出した。
男は私から絵を受け取ると、目を大きく見開き絵を見つめた。
真剣な顔で絵を見つめるので少し気恥しくなった私は恐る恐る声を掛けた。
「どうですか.......?」
そう聞くと、ようやく男が顔を上げた。
「いや、すまん。画集とかあんまり興味無い質だから、よく分からん。」
その返答に思わず顎が外れそうになるほど口を開けてしまった。
いや、なんだそりゃ!
なら見たいなんて言うなよ!
「か、返してください!」
男から絵を奪おうとすると、男は私の怒ってる顔を見て慌てだした。
「最後まで聞いてくれ!そんな私だが、この絵は不思議と、ずっと見ていたくなるような絵だ。」
その言葉に、絵を取り返そうと伸ばしていた手を引っ込めた。
顔が熱くなる。
そして、口元はにやけそうになった。
嬉しい、自分の絵を褒められたのはいつぶりだろうか。
「その絵、良かったらもらってください。」
そう言うと男がびっくりしたように目を丸くした。
「売ろうとしていたんじゃないのか?」
確かに。でも、もう必要ない。
「ええ。でも、嬉しい言葉を貰えたのでもう十分です。」
もういい、これでもうなんの後悔もない。
この人生、ここから先は歳の離れた男性に身を捧げて終わりだけど、今日のことを思い出して頑張ろう。
くるっと周り、屋敷へ引き返そうとした私の腕をぎゅっと掴まれた。
「名前を教えてくれないか?」
「.......ユリア・フリージアです。もうすぐ結婚するので苗字は変わってしまいますが。」
私の返事を聞き、男が手を離した。
「そうか。」
男に一礼し、屋敷へ戻った。
そういえば、名乗ったのに向こうの名前を聞くのを忘れていた。
まあいいか、もう会うことは無いだろうし。
自室に戻り、妖精と一緒に私はまたお絵描きを始めた。
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