嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa

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第三章:少年期 学園編

第27話「学園の入学試験」

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 王都にやってきてから忙しなく時間が過ぎ、三日後にクラス分けの試験が始まった。
 その結果は四日後の入学式当日に発表されるらしい。
 俺は地方の国立大学のような巨大な学園の敷地に辿り着き、その門を潜る。


 クラス分けの試験は筆記試験と実技試験に分かれる。
 筆記試験はその名の通り生徒たちの知識力を競うもので、実技試験は戦闘力を競うものだ。
 実技試験の中でも二つに分かれていて、単純な測定試験と、より実践的な決闘試験がある。


 そして俺たちは筆記試験を二時間分受けると、今度は校庭で実技試験が始まった。
 順番を待っている間、俺はロッテと隣に立ち先ほどの試験について話をする。


「クラウス様、筆記はどうでしたか?」
「まあそこそこかなぁ」


 俺はカイトが上に行くと予想してあえて手を抜くつもりだった。
 しかしあの立ち振る舞いを見ると、なんだかそれは癪なので本気を出させてもらった。
 それにどうせ俺たちは決闘試験で戦うことになるのだ。
 あえて負けることは絶対にしたくないし、結局勝つのだったら筆記も頑張ろうと思ったわけだ。


「そこそこって言う人は信頼していません」
「そういうロッテはどうだったんだ?」
「私は……ええ、はい、そこそこでしたね」


 彼女は視線を泳がせながらそう言った。
 即落ち二コマレベルの手のひら返しを見た。


 ということは彼女もかなり手ごたえがあるのだろう。
 同じクラスになれるといいなぁとか考えていると、実技試験を呼ばれてしまった。


「魔法の試験と近接の試験があるが、どちらを選びますか?」


 担当の先生にそう言われ、俺は近接を選んだ。
 試験の内容は大きな硬い岩を破壊しろ、という単純明快なものだった。


「これを破壊すればいいんですね?」
「そうですね。まあ破壊できなくても入ったヒビで実力を精査します」


 なるほど、確かにところどころにヒビが入っていて、壊そうとした跡が残っている。
 俺の前の人が入れたものだろう。
 うん、どれもこれも微々たるもので俺は少し拍子抜けだ。
 これならすぐにできそうだけど。


 先生はジッと俺を見ると、なぜかこう付け加えた。


「手加減は要りませんから。本気でやってください」


 チラリとその先生を見て俺は頷くと、彼女から試験用の剣を受け取る。
 ……やけに重たいが、これはおそらく試験用に重く作ってあるのだろう。
 それを軽々持ち上げている俺に、先生は少しだけ驚いた顔をした。


「やはり聞いていた通りですね。その実力、確かめさせてください」


 誰から聞いたのか分からないが、まあ俺の名前はジェネラルオークの件で少し有名だ。
 知っていてもおかしくはないだろう。


 俺はスキル《身体強化》を使い剣を構えると、スキル《疾風斬り》を発動させる。
 剣身が青白く光り、それを見ていた先生は表情を変える。


「……スキルですか。流石ですね」


 俺はその言葉に返事をせず、意識を研ぎ澄ましてスキル発動のタイミングを見計らった。
 そして俺の集中力がスッと一本にまとまったその時――。


 ダンッと力強く地面を蹴り、岩に向かって一直線に近づいた。


 思いきり遠心力を使って剣を振り、岩にその重たい剣を叩きつける。
 するとバキバキバキともの凄い音を立てて、岩を縦断するようなヒビが入っていく。
 そのままの勢いで岩はさらにバキンッと縦に二つに割れるのだった。


 それを見ていた周囲の生徒たちは驚きこちらを向いた。
 ザワザワとざわめく中、先生も驚いた様子でこちらに近づいてきて言った。


「ここまでとは思いませんでした……。この試験は岩を壊すことが目的だと言いましたが、基本不可能なボーダーにしていたはずです」


 まあボーダーが高すぎるってのは見れば分かる。
 普通、12歳の生徒たちがこれを壊すなんて無理な話だ。
 冒険者たちの中でも、多分あの灼熱の剣士アミラとかじゃないと無理じゃないか?
 少しやりすぎな気もするが、まあ壊されすぎて差がつかないよりはいいのだろう。


「とりあえず試験は終わりです。まああなたには余裕かもしれませんが、決闘も頑張ってください」
「……ありがとうございました」


 余裕と言われても、決闘相手が誰かも分からないしな。
 絶対そんなことないと思うので、俺は気を引き締めて決闘場に向かうのだった。



   ***



 コロシアムのような決闘場に行くと、勇者カイトがステージで待ち構えていた。
 どうやら決闘試験の相手はこの勇者くんらしい。
 ニヤニヤとした表情で俺を見ると、彼はこう言った。


「逃げるなら今だぜ? 後になって泣きついてきても知らないからな?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそ泣きついてくるなよ?」


 そんな言い合いをしながら俺もステージに立つ。
 周囲には試験を終えた、もしくは試験待ちの生徒たちが観客として座っている。


 それから試験官の先生がやってきて、向かい合う俺たちの脇に立つと言った。


「それではさっそく試験を開始しますが、よろしいですか?」


 その言葉に二人して頷いた。
 頷いたのを確認した先生は、一枚のコインを親指の上に乗せて言う。


「このコインが地面に落ちたら試合開始です」


 先生は一歩下がるとピンッとコインを親指ではじいた。
 クルクルと回って宙に浮くコイン。
 俺は視界の端でそのコインを捉えながら、カイトのほうを見据えた。


 カツン。


 コインが石畳の地面に落ち、音を鳴らした。
 瞬間、カイトは何やらスキルを使ったようだった。
 彼の体が黄金の光で包まれる。


「ふははっ! これは勇者の加護! 身体能力の向上と絶対不可侵の壁を作り出すんだ!」


 どういうわけか彼は愚直にスキルの説明をしてくれた。
 まあと言っても、ゲームと同じだったし効果内容は知っていたのだが。


 身体強化も俺の無属性の《身体強化》と比べ物にならないし、絶対不可侵の壁はとても面倒だ。
 しかし壁のほうは三分で消えるので、それまで耐え凌げれば後は何とかなるだろう。


「行くぜ、クラシル! 死んで後悔するなよッ!」


 また名前を間違えているなんて場違いなことを考えながら、彼の攻撃をジッと見つめる。
 ……って、あれ、思ったより大したことない?
 確かに速度は速いし踏み込みは力強いのだが、攻撃が愚直すぎて簡単に後を読めてしまうのだ。
 それがフェイクかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。


 俺も同じく身体強化を使うと、サッと避けた。
 これくらいならムーカイでも余裕だろうなぁ。


 避けられたカイトは困惑したように大声を出した。


「なんだとッ! どうしてお前はそれを避けれる⁉」
「いや、どうしてと言われても……」


 当然だからだとしか言いようがない。
 こいつの周りには弱い奴しかいなかったのか、もしくはただ単に持ち上げられていただけなのか。


 まあ俺の予想だと、彼側の陣営――つまり勇者派の人間にヨイショされていたのだろう。
 まあ強すぎる人間はコントロールしずらいしな。
 適当にヨイショしておいて、扱いやすいようにしていた可能性はある。


 それで彼は勘違いして、自分が最強だと思ってしまったと。


 なんだか可哀そうに見えてきて、思わず哀れみの視線を送ってしまう。


「なんだよお前ッ! なんでそんな目で俺を見るんだッ!」


 そう騒いでいるが、俺はなんだかやる気が削がれてしまい、はあっと息を吐いて剣を握り直した。
 そして何も言わないまま、俺は地面を蹴って接近する。
 彼が騒いでいる間に三分経ってしまっていたし、壁もなくなっている。
 サッとフェイントをかけて彼の後ろに回ると、俺は後頭部を剣の柄で殴って気絶させるのだった。


「しょ、勝者クラウス! クラウスです!」


 先生が驚いたような声でそう叫び、周囲の生徒たちも驚きの視線を送ってくるが。
 これくらい普通だろと、俺は思わずそう思ってしまうのだった。
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