目新しい復讐劇

小説家になりたい人

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1章

全然目新しくない状況

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店の中を周り、ホコリをはたく。
商品にホコリは少しでもついていたら、ガラリと印象が変わる。
安っぽく見えるのだ。
中古品も扱っているが、質は良いと言うスタンスで働いている。
だから、値段設定も中古品だけを扱っている店より少し高く、全部新品の品を扱っている店より少し低い。
まあ、立地も関係してると思う。
首都に行ったら、ここと同じやそれ以下の値段設定の店はないだろう。

「ここで働き始めてまだ2ヶ月なのに、凄いね。
ルイ君が働いてくれるおかげで、ここ2ヶ月は売上がその前と比べると上がったよ。」

「店長は俺の命の恩人ですから。
力になれて嬉しいです。」

「命の恩人だなんて大げさだよ。」

「身寄りもない俺を住み込みで働かせてくださるじゃないですか。
店長のおかげで路頭に迷わなくてすんだんです。
俺にとっては命の恩人ですよ。」

店長には本物に感謝している。
どこの誰かもわからない俺の事を泊めてくれて、仕事を与えてくれて、住ませてくれている。
あの日は俺にとって人生最悪の日であり、自分の運の良さを実感した日でもあった。

一言で言えば、俺は"捨てられた"のだ。
俺の父は商人で、俺は長男だった。
それだけ聞けば、人々は俺の今の状況にもっと疑問を抱くだろう。
勿論、話はここでは終わらない。
俺の母は俺を産んでしばらくして亡くなったらしい。産後の肥立が悪かったと言われている。
それに、俺には半年年下の弟がいる。
そう、父には愛人がいたのだ。
そして、本命はその愛人の方だった。
いわば、政略結婚相手だった母は二人の仲を引き裂いた邪魔者だったのだ。
母が帰らぬ人となってから一年後に父は恋人と再婚した。商売も軌道に乗っていて、母側の親族の力添えも必要と失くなった。もう、彼らは父にとって取るに足らない存在だったのだ。

俺がその事実ことを知ったのは捨てられる少し前だ。
そして、府に落ちた。
仕事の時以外俺をいない者かのように扱う父。
些細な事でも過激な罰を与え、俺を邪魔者扱いする母。
兄弟との明らかな差別。
やっとそれらの理由が知れて嬉しいはずなのに、笑いながら涙が流れた。あのような、色々な感情がごちゃ混ぜになって、自分が何を感じているかわからなくなったのは初めてだった。

なぜ、俺が赤ん坊の時に捨てられなかったのはわからない。きっと、利用価値を見いだしたのだろう。
だが、17歳の誕生日(祝われた事はないので、たまたま俺の生年月日が記された書類を見て知った)が過ぎて1ヶ月ほどしてから、俺は用済みになったらしい。俺は捨てられた。
家を追い出され、好きに生きれば良いと言われた。
思ってみれば、弟が通学制のアカデミーを卒業したのと関係があったのかもしれない。
今はもうそれを確かめる手段はないが。

5月の終わりということもあり、昼間は暖かかったが、夜は冷えたが、宿に泊まる事はできなかった。
だから、追い出された時とっさ手に取ったリュックから毛布を取り、野宿した。幸い、動物に襲われることはなかった。
きっと、頭の片隅でこう言う日がいつか来るかもしれないと思っていたのだろう。
俺の部屋である屋根裏部屋にはいつも毛布と、ナイフ、勝手に取ってきた包帯と消毒液、着替え一式だけだった。服は身にまとっているものとリュックに入れておいた物しかないから、事実上、俺は持っている全ての物を持って行く事に成功した。
首都と言っても、屋敷は郊外にあったから、外には一本道以外、森林が広がっていた。
次の日、運良く業者の荷馬車に乗せてもらい、この国の南部に連れて来てもらった。
そこからは仕事をもらいにギルドに行ったが、身分を証明できるものが何もなく、追い出され、途方に暮れていたところ店長に拾われた。
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