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その後4
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コツリと指で弾くと、その小さな玩具はいとも簡単に卓上に倒れた。
外国製だというブリキの電車は手作りなのか酷くバランスが悪く、何時でも傾いている。
おばあちゃんが作ってくれたという、刺繍入りのポーチも一見綺麗な刺繍が入っているが、所詮は素人の手作りで、縫製の粗さが目立っていた。
あの子が大切にしていた物は、こんな未完成な物ばかりだ。
全く理解ができない。既製品やプロが作ったオーダー品の方が良いに決まっている。
そう思うのに、今ではこのつまらない贈り物達は僕の宝物になっていた。
別に、この玩具自体に愛着が湧いている訳じゃない。
だけど今はこれしか彼を思い出せるよすががなかった。
数年前の自分の愚行を思い出すと、今でも胸に苦いものが込み上げる。
何故あの子の両親を、あの子の大切なものを手に入れられたら幸せになれると思ったのか、全く愚かだったとしか言いようがない。
あの子の物ではなく、あの子自身を手に入れなければなんの意味も無かったのに。
稚すぎて自分の感情が理解できていなかった。
だけどあれは、幼さゆえの過ちであったと自分を許せる程度の失敗ではない。
おかげであの子と引き裂かれてしまった。
ぎゅっと両手に力を入れると、手の中に収められたブリキの電車が軋む音を立てハッとする。
いけない、大切にしないと……。
これはあの子を手に入れるまで、あの子と僕を繋ぐ唯一のものなのだから…………。
「あれ?」
リビングから不思議そうな声が上がり、そちらを見ると、テレビボードの下から小さな箱を取り出す忍の姿が見えた。
忍の手には小箱の他にハンディモップが握られており、せっせと掃除に励んでいたらしい。
「こんなのあった?DVD……にしては小さいよね。」
忍が差し出して来た箱はかつての僕の宝物だった。
この部屋に越してきた時にどこに片付けたか分からなくなっていたものだ。
あんなに執着していたのに、本物の宝物を得てすっかり忘れてしまっていた。
「ああ、こんな所にあったんだ。」
ひょいと忍の手から取り上げて蓋を開けてみせる。
中には柔らかな布に包まれたいくつかの玩具が入っていた。
「これ、もしかして……。」
忍が目を丸くしてそのうちの一つ、ブリキの電車を取り出した。
「うん、これ全部忍から貰った玩具。僕の宝物。」
他の宝物もテーブルに取り出して見せる。玩具は古いものであり、それなりの劣化が進んでいたが、一つ一つが箱の中で傷つけ合わないよう丁寧に布で包まれていた。
「うわぁ懐かしい……、あの時のまんまだ。大事に置いてくれてたんだね。」
「うん、忍から貰った大切な宝物だからね。」
一つ一つを手に取り意外そうに話す忍に、君からの贈り物は何でも大切だと伝えると、忍は目を緩めて薄く微笑んだ。
「今だから言うけど。嫌がらせで取られたと思ってたんだ。だから大事にしてくれていて、とっても嬉しい。」
純粋な言葉にほわりと心が和む。
忍は玩具に愛着を持ってくれたことに素直に喜んでいるみたいだけど、実際はそうじゃない。
忍の代わりとして大切にしていただけだ。
だけど今はそんなことはどうでも良い。
忍が何の憂いもない、キラキラした笑顔を向けてくれるのは出逢ったころ以来だった。
懐かしそうに玩具を眺める忍をうっとりと見つめる。出会ったころと変わらない素直さと可愛らしさに胸が締め付けられるようだ。
「宏海君?」
「………これからは二人の宝物にしようね。」
不思議そうに僕を見る忍の頬に口づけると、擽ったそうに身を捩る。
そこに拒絶や恐れの感情が浮かんでいないことがこんなに嬉しいとは想像もしなかった。
※前回のお話で最後の方が収まりが、良いのかもとも
思ったのですが、ラブが足りないのではとちょっと足してみました。。。
また思いついたらやるかも。。。
外国製だというブリキの電車は手作りなのか酷くバランスが悪く、何時でも傾いている。
おばあちゃんが作ってくれたという、刺繍入りのポーチも一見綺麗な刺繍が入っているが、所詮は素人の手作りで、縫製の粗さが目立っていた。
あの子が大切にしていた物は、こんな未完成な物ばかりだ。
全く理解ができない。既製品やプロが作ったオーダー品の方が良いに決まっている。
そう思うのに、今ではこのつまらない贈り物達は僕の宝物になっていた。
別に、この玩具自体に愛着が湧いている訳じゃない。
だけど今はこれしか彼を思い出せるよすががなかった。
数年前の自分の愚行を思い出すと、今でも胸に苦いものが込み上げる。
何故あの子の両親を、あの子の大切なものを手に入れられたら幸せになれると思ったのか、全く愚かだったとしか言いようがない。
あの子の物ではなく、あの子自身を手に入れなければなんの意味も無かったのに。
稚すぎて自分の感情が理解できていなかった。
だけどあれは、幼さゆえの過ちであったと自分を許せる程度の失敗ではない。
おかげであの子と引き裂かれてしまった。
ぎゅっと両手に力を入れると、手の中に収められたブリキの電車が軋む音を立てハッとする。
いけない、大切にしないと……。
これはあの子を手に入れるまで、あの子と僕を繋ぐ唯一のものなのだから…………。
「あれ?」
リビングから不思議そうな声が上がり、そちらを見ると、テレビボードの下から小さな箱を取り出す忍の姿が見えた。
忍の手には小箱の他にハンディモップが握られており、せっせと掃除に励んでいたらしい。
「こんなのあった?DVD……にしては小さいよね。」
忍が差し出して来た箱はかつての僕の宝物だった。
この部屋に越してきた時にどこに片付けたか分からなくなっていたものだ。
あんなに執着していたのに、本物の宝物を得てすっかり忘れてしまっていた。
「ああ、こんな所にあったんだ。」
ひょいと忍の手から取り上げて蓋を開けてみせる。
中には柔らかな布に包まれたいくつかの玩具が入っていた。
「これ、もしかして……。」
忍が目を丸くしてそのうちの一つ、ブリキの電車を取り出した。
「うん、これ全部忍から貰った玩具。僕の宝物。」
他の宝物もテーブルに取り出して見せる。玩具は古いものであり、それなりの劣化が進んでいたが、一つ一つが箱の中で傷つけ合わないよう丁寧に布で包まれていた。
「うわぁ懐かしい……、あの時のまんまだ。大事に置いてくれてたんだね。」
「うん、忍から貰った大切な宝物だからね。」
一つ一つを手に取り意外そうに話す忍に、君からの贈り物は何でも大切だと伝えると、忍は目を緩めて薄く微笑んだ。
「今だから言うけど。嫌がらせで取られたと思ってたんだ。だから大事にしてくれていて、とっても嬉しい。」
純粋な言葉にほわりと心が和む。
忍は玩具に愛着を持ってくれたことに素直に喜んでいるみたいだけど、実際はそうじゃない。
忍の代わりとして大切にしていただけだ。
だけど今はそんなことはどうでも良い。
忍が何の憂いもない、キラキラした笑顔を向けてくれるのは出逢ったころ以来だった。
懐かしそうに玩具を眺める忍をうっとりと見つめる。出会ったころと変わらない素直さと可愛らしさに胸が締め付けられるようだ。
「宏海君?」
「………これからは二人の宝物にしようね。」
不思議そうに僕を見る忍の頬に口づけると、擽ったそうに身を捩る。
そこに拒絶や恐れの感情が浮かんでいないことがこんなに嬉しいとは想像もしなかった。
※前回のお話で最後の方が収まりが、良いのかもとも
思ったのですが、ラブが足りないのではとちょっと足してみました。。。
また思いついたらやるかも。。。
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