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第一章 神生みの時代
宇佐主(ウサノヌシ)
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山賊の頭領が殴り飛ばされ、その場にいた部下たちが一斉に立ち上がる。女性の口に巻いていた布がハラリと落ち、その顔を見て二人目の頭領が驚きの声を上げた。
「も、も、も……もものけ姫!」
「さ~てあんたたち、言い訳をすぐに考えなさい。私ともう一度会ったらどうなるか覚えてるよね?」
山賊たちは急いで武器を構えるが、モモは一向に動じる気配がない。
「部下が増えたせいで私のことを知らないのかな?前は100人だったけど、殴ってぶっ飛ばしたらほとんど逃げちゃったし、オロチ八人衆は解散したと思ったんだけど」
「か、解散なんかするか!今度は500人だ、いくらおまえでもこの人数を相手にできないだろ」
「じゃあ試してみる?」
モモは拳を構えて山賊たちを睨み付ける。両手の拳には微かに炎を帯びた暗器らしき武具が巻かれ、右と左でそれぞれ違う色の光を放っている。
「自慢の弟が作った武器、イハサクとネサクだ。勝てると思うなら掛かって来なよ」
モモの言葉で山賊の一人が背後から襲い掛かるも、右手のイハサクが振り下ろされた剣を受け止め、左手のネサクによるジャブの連打と渾身のストレートが山賊の頬に直撃する。拳を受けた山賊は壁を突き破って建物の外に放り出された。その後も10人が同時にモモに襲い掛かったが、イハサクがすべての剣を手刀で叩き折ったため、山賊たちの戦意が一気に喪失する。
「それでも恐れられたオロチ八人衆なの?弱くて話になんない」
「ちくしょう!兄貴たちがいれば……」
山賊の頭領が唇を噛んで悔しがる。
「そういえばオロチ八人衆の頭領って八人兄弟なんだよね?さっきぶっ飛ばした奴とあんたで2人だから、残りは6人てことか。今はどこにいるの?」
「言うワケないだろ!」
「あっそ」
モモは不敵な笑みを浮かべて拳を構える。
「じゃあ言いたくなるまでボッコボコにするから」
――その時である。
外で地鳴りのような音が聞こえ、建物の中にいる全員が何事が起きたのかと不安の声を上げた。
「なんだぁ……何が起こったんだ?」
「おい!誰か外の様子を見て来い」
山賊の一人が建物の外へ出ると、悲鳴のような声が聞こえて慌てて戻って来た。
「お、お、お頭、大変ですっ!巨大な猪の群れが仲間を踏み潰しています」
「なにっ!?」
モモと山賊の頭領が一緒に外へ出ると、暗闇の中で巨大な猪たちが暴れていた。モモは夜目が効くため、遠くを見て群れの主を探そうとした。
「あれは……宇佐主(ウサノヌシ)だ」
群れの先に立っていた巨大な白い猪の姿を見つけ、モモは暴れ狂う猪たちを避けながら白い猪のいる場所へと向かった。
「ちょっと、宇佐主様!」
宇佐主と呼ばれた白い猪がモモの存在に気が付いたので、大きな目玉がギョロリとこちらを睨む。
「もものけ姫か……無事でなによりじゃ」
「私は無事だよ。どうして山賊の村を襲ったりしたの?」
「……ここにいるウカノミタマに聞くが良い」
すると、宇佐主の足元から白い狐が姿を現した。モモは白い狐を見るなり、申し訳なさそうに俯いてしまう。
(あちゃ~、ミクラさんが来ちゃったのか)
白い狐は怒りの形相で話し出す。
「モモ様!危ない真似はお止め下さい。一人で山賊たちを相手にするなんて無茶です。モモ様の身に何かあったら、私はナミ様に顔向けができません」
「死んでるんだから、顔なんか向ける必要ないでしょ」
「そういう問題ではありません!」
言い争いになりそうなので、宇佐主が横から二人を宥める。
「落ち着け二人とも、姫も無事だったから良いではないか」
「……私のためにミクラさんが宇佐主様を呼んだの?」
モモは宇佐主に尋ねる。
「それも理由の一つだが、この山賊どもには恨みがあるのでな。我が守る宇佐の森を荒らした罪じゃ、絶対に許さん」
「ああ、こいつら村の人を使って森の木をたくさん切ってたらしいからね」
モモは猪に突き飛ばされて気を失っていた山賊の一人を叩き起こす。
「おい起きな!あんたたち、森の木を切ってなにしようとしてたの?」
「て……てつ、てつ……てつ」
山賊は苦しそうに同じ言葉を繰り返す。
「てつ?」
「鉄のために……必要なんだよ、燃やすための大量の木がな」
「も、も、も……もものけ姫!」
「さ~てあんたたち、言い訳をすぐに考えなさい。私ともう一度会ったらどうなるか覚えてるよね?」
山賊たちは急いで武器を構えるが、モモは一向に動じる気配がない。
「部下が増えたせいで私のことを知らないのかな?前は100人だったけど、殴ってぶっ飛ばしたらほとんど逃げちゃったし、オロチ八人衆は解散したと思ったんだけど」
「か、解散なんかするか!今度は500人だ、いくらおまえでもこの人数を相手にできないだろ」
「じゃあ試してみる?」
モモは拳を構えて山賊たちを睨み付ける。両手の拳には微かに炎を帯びた暗器らしき武具が巻かれ、右と左でそれぞれ違う色の光を放っている。
「自慢の弟が作った武器、イハサクとネサクだ。勝てると思うなら掛かって来なよ」
モモの言葉で山賊の一人が背後から襲い掛かるも、右手のイハサクが振り下ろされた剣を受け止め、左手のネサクによるジャブの連打と渾身のストレートが山賊の頬に直撃する。拳を受けた山賊は壁を突き破って建物の外に放り出された。その後も10人が同時にモモに襲い掛かったが、イハサクがすべての剣を手刀で叩き折ったため、山賊たちの戦意が一気に喪失する。
「それでも恐れられたオロチ八人衆なの?弱くて話になんない」
「ちくしょう!兄貴たちがいれば……」
山賊の頭領が唇を噛んで悔しがる。
「そういえばオロチ八人衆の頭領って八人兄弟なんだよね?さっきぶっ飛ばした奴とあんたで2人だから、残りは6人てことか。今はどこにいるの?」
「言うワケないだろ!」
「あっそ」
モモは不敵な笑みを浮かべて拳を構える。
「じゃあ言いたくなるまでボッコボコにするから」
――その時である。
外で地鳴りのような音が聞こえ、建物の中にいる全員が何事が起きたのかと不安の声を上げた。
「なんだぁ……何が起こったんだ?」
「おい!誰か外の様子を見て来い」
山賊の一人が建物の外へ出ると、悲鳴のような声が聞こえて慌てて戻って来た。
「お、お、お頭、大変ですっ!巨大な猪の群れが仲間を踏み潰しています」
「なにっ!?」
モモと山賊の頭領が一緒に外へ出ると、暗闇の中で巨大な猪たちが暴れていた。モモは夜目が効くため、遠くを見て群れの主を探そうとした。
「あれは……宇佐主(ウサノヌシ)だ」
群れの先に立っていた巨大な白い猪の姿を見つけ、モモは暴れ狂う猪たちを避けながら白い猪のいる場所へと向かった。
「ちょっと、宇佐主様!」
宇佐主と呼ばれた白い猪がモモの存在に気が付いたので、大きな目玉がギョロリとこちらを睨む。
「もものけ姫か……無事でなによりじゃ」
「私は無事だよ。どうして山賊の村を襲ったりしたの?」
「……ここにいるウカノミタマに聞くが良い」
すると、宇佐主の足元から白い狐が姿を現した。モモは白い狐を見るなり、申し訳なさそうに俯いてしまう。
(あちゃ~、ミクラさんが来ちゃったのか)
白い狐は怒りの形相で話し出す。
「モモ様!危ない真似はお止め下さい。一人で山賊たちを相手にするなんて無茶です。モモ様の身に何かあったら、私はナミ様に顔向けができません」
「死んでるんだから、顔なんか向ける必要ないでしょ」
「そういう問題ではありません!」
言い争いになりそうなので、宇佐主が横から二人を宥める。
「落ち着け二人とも、姫も無事だったから良いではないか」
「……私のためにミクラさんが宇佐主様を呼んだの?」
モモは宇佐主に尋ねる。
「それも理由の一つだが、この山賊どもには恨みがあるのでな。我が守る宇佐の森を荒らした罪じゃ、絶対に許さん」
「ああ、こいつら村の人を使って森の木をたくさん切ってたらしいからね」
モモは猪に突き飛ばされて気を失っていた山賊の一人を叩き起こす。
「おい起きな!あんたたち、森の木を切ってなにしようとしてたの?」
「て……てつ、てつ……てつ」
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