輪廻のモモ姫

園田健人(MIFUMI24)

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第一章 神生みの時代

天叢雲剣

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「お、おまえ!腕が燃えてるぞ腕がっ!」
スサノオはカグツチの腕が燃えている様子を見て、慌てふためいた。
「ああこれか、燃えてるんじゃねえよ。俺は炎を自在に操れるんだ」
カグツチは深呼吸するとたちまち炎が消えた。
(やはりこいつらは妖怪の類か……)
スサノオの額から汗が噴き出る。
「まあそう警戒すんなよ。ワケあってこんな体になっちまったんだ。そのお陰で、こうして剣を作ることができるんだけどな」
 そう言うと、カグツチは持っていた金物に火を通す。高温に焼けた金属を手で掴み、小さな不純物を指先で取り除こうとする。スサノオの表情がみるみる青くなった。
「あ、熱くないのか?」
「熱くはないね。俺さ、特異体質なんだよ」
説明になっていない。
「ま、まあいいか。おまえが作った剣を見せてくれ」
「……そこにあるよ。俺は大陸で使われている剣の型は好きじゃないんだが、今の流行に合わせて仕方なく作ってる感じだな」
「と、言うと?」
「両刃の剣じゃなく片刃の剣を作りたいんだ」
「ふ~む、俺には良く分からんが」
「まあ、たくさんの剣があるんですねえ」
突然、背後からチキの声が聞こえた。チキはカグツチの仕事場に入り、並べられた剣を見て一人ではしゃいでいる。
「お、おまえ、俺たちに付いて来たのか!?」
スサノオがチキに詰め寄る。
「あらいけませんか?なんだか面白そうな人たちだと思って、付いて来ちゃいました」
横で話を聞いていたカグツチがチキに尋ねる。
「あんた、俺の作った剣に興味があるのか?」
「ええまあ……これでも戦場に立った経験がありますので、武の嗜みくらいはありますよ。あそこに置いてある剣は特に品が良さそうですね」
チキが指差した方向には、無造作に置かれた剣があった。
(ほう……)
カグツチが顎を摩りながら感心するようにチキを見た。
「あの小汚い剣がか?おまえは見る目がないな」
「そうでしょうか?他の剣よりも表面の歪が少ないし、不思議な軽さがあります。まるで手に吸い付くような感覚です」
「……こいつは他の剣とは違って特殊な材料を使っているからな」
カグツチはチキが指差した剣を手に取り、作業場の台に置いた。
「時々、作業場に盗人が入るから、こうしてワザと汚くしておいたんだ。これだけは盗まれたくないんだよ」
カグツチはそう言うと、台に置かれている剣に火を入れる。剣は一気に赤みを増し、今にも溶けてしまいそうだ。
「お、おい!溶けてしまうだろ!」
スサノオが隣で慌て出す。
「いや、溶けないんだこいつは。俺がいくら熱してもな」
カグツチが火を入れるのを止めると、剣は瞬時に冷えて元の姿に戻った。表面を見ると一切の不純物がなく、透けるような肌質の剣身である。
「この剣は、空から落ちて来た石の材料で作ったものだ。不思議な材料で、いくら火を通しても絶対に溶けない。だが不思議と柔らかい性質を持っていて、どんな形にも加工できるから、こうして剣を作ってみたんだ」
「すぐに冷えたように見えましたが……」
チキがカグツチに問う。
「冷えたというより俺の炎を吸収したと言った方が正しいかもな。持つ者によって微かに剣身に炎を纏うんだ。俺の姉ちゃんが持つと焔の剣に変化するぞ」
「へえ、凄いんですね」
「じゃあ俺が持つとどうなるんだ?」
スサノオは台に置かれた剣を手にしたが、なにも変化は起きなかった。
「なにも起きないが……?」
「じゃあ、あんたとは相性が悪いってことかもな」
「ふん、俺はこの剣が気に入ったぞ。なかなか美しい一品ではないか」
「ええ!?これが欲しいのかよ」
「この剣の名前はなんと言うのだ?」
カグツチはスサノオの強引さに軽く溜息を吐くと、剣の名前を伝えた。

「……叢雲だ」
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