輪廻のモモ姫

第一章 神生みの時代

私が生まれた理由

私の名前はモモ。
母親は伊邪那美命だから、一応は神様の血を引いている人間になるのかな。
ちなみに弟（……ということにしておこう）の桃太郎は鎌倉時代に生まれているから、会うのはずっと後になるし、彼はみんなが思ってるほどヒーローなんかじゃないよ。
……えっ、桃の毛から子供が生まれるはずないって？
でもさ、桃太郎は桃から生まれてるじゃん。
細かいことはいいのよ、天照大神だって伊邪那岐命の左目から、月読命は右目から、須佐之男命は鼻から生まれてるんだし、桃の毛から私が生まれたって不自然じゃないでしょ（……ということにしておくけど）。

……そんな話はさておき、私が生まれた理由から話すとしますか。
まだ日本が「大八洲（おおやしま）」と呼ばれていた時代、この地を統治していたのは伊邪那岐命と伊邪那美命の兄妹だったの。
伊邪那岐命（イザナギノミコト）と伊邪那美命（イザナミノミコト）では少し読み難いから、二人の名前は「ナギ」と「ナミ」にしておくね。
ナギとナミは圧倒的な軍事力で大八洲を支配し、国土の半分をほぼ手中に収めていたんだけど、残念なことに二人には後継ぎがいなかったの。
兄妹で子供を作ることに抵抗がなかった時代だから、ナミはナギを誘惑して後継ぎを増やそうとした。
だけどナギは「兄妹で子供を作ってはいけないのでは？」と思い、他の女性と子供を作ることにした。
嫉妬に狂ったナミはみるみる醜い顔になり、ある時、ナギに対して「あんたの子供を1,000人殺してやる」と悪態を吐くまでになった。
その卑屈な性格たるや「私の顔を見るんじゃないよ。もし見たら殺すからね」と、従者に言っていたくらい。
……うんざりしたナギはナミと距離を置いてしまう。
ナミはあまりのショックから急激に老化が進み、当時、不老の薬として重宝されていた桃をたくさん食べるようになった。
その桃の毛から生まれたのが私……という御伽噺にしたいんだけど、本当はナミと従者の男性の間に出来ちゃった一人娘というオチ。
そしてナミは次にカグツチちゃんを身籠るんだけど、度重なる出産が祟ってついに命を落としてしまうんだ。
子供を産むのも命懸けの時代だったからね。
私の時はスムーズに出産できたから、ナミに一人娘がいることをナギは知らなかったみたいだけど、今回ばかりは流石に隠し通せなかったみたい。
ナミの浮気が分かったナギは、怒り狂ってカグツチちゃんを殺そうとしたの（なんで怒ったのかいまだによく分かんないけどね）。

……そんな危機に直面するカグツチちゃんを救うところから、この物語は始まるんだよ。