異世界転生チート勇者と“真の英雄”、そしてその物語について 〜本当に『最強』なのは、誰の命も奪わない事。そして赦し受け入れる事〜

Soulja-G

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第五章

第十二話 神の顕現

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 似たような光景は、次々と繰り出された。違う顔、違う時代ではあったが、それぞれがそれぞれに桁外れの力を持ち、それを振るう彼を男は敬い、女は集まる。それが予め定められている事のように。
 これが生まれ変わった”神”、つまりは現人神であることは想像に難くなかった。

『そういうことだ。無限の魔力や優れた身体能力を行使できるような、最強の遺伝子を持つ人間。神の依代となるべく生み出された生物。それが貴様の肉体の大元となった存在だ』
「俺の肉体の大元…つまり、加藤玲の体のオリジナルか! ズーロパの地で発掘されたという…」
『その通り。人間以上の存在である私は、それぞれの時代に現れ、違った奇跡を起こしていった。今ではそれが神話となり、宗教になるまでに至った。多分に美化され、また都合のいいように伝わってはいるがな…その宗教の神話の大元となった人間の肉体が、お前の体さ』
「…聖ミロワの肉体、ということか」
『そういうことだ。しかしまたしても計算外の出来事が起こった。神の依代たる遺伝子…貴様らが”勇者因子”と呼ぶそれは、人々が子孫を残すたびに劣化していったのだ。それゆえに強靭な意志を持つ者は、その心身を完全に掌握できなくなった。
 ディミトリ・ラファト…奴がこの時代の依代となる存在だったが、しかし世代を経た劣化と、その鋼のような心で、私の支配を受け付けなかった。だからこそ、私はこの世界に顕現するのを諦めかけた』

 レイは納得がいった。ディミトリ・ラファトがあれだけの強さを誇っていたのも、その見に持つ勇者因子のせいだったのだ。

『しかし計算外のことが起こった。かつて私が憑依していた聖ミロワの肉体、それがジョルジュ・ムラートにより掘り起こされ、新たな魂を植え付けられて復活した。これにより、再び世界へ君臨することが可能かと思われたが、しかしそう簡単にもいかなかった。
 知っての通り、聖ミロワから複製された肉体には加藤玲の魂が入っていた。それ故に、完全に心と体のコントロールは奪えなかった。だからこそ、奴を誘導する必要があった。もう一度、私の目の前に現れ、その魂を正式に私に差し出すためにな』
「誘導…じゃあ、加藤玲があんなにも力に飲まれていったのは…!」
『無論私の影響だ。奴には最終的に私の元に向かうよう、コロニーを探すように仕向けたのだ。宇宙創生の中で、ザイオンやラムダは時空の歪みに飲み込まれ、私の感知し得ない”事象の坩堝”内を彷徨い、それぞれ別の時代・別の場所に召喚されていた。だからこそ、それらを見つけ出すように私が駆り立てた』
「そうか…現われた場所も時代もバラバラだから、あんなに劣化の度合いが違ったのか」
『だが、それを邪魔するものが現れた。それが貴様だ』
「…俺?」
『貴様は加藤玲の記憶、そして神の依代の遺伝子を持っているにも関わらず、一切私の支配を受け付けなかった。それどころか私が操るリチャードに刃向かい、ついにはその野望を砕いてしまった。
 もはや人類は私の手を離れつつあり、しかも貴様は私の元まで辿り着かんとしている。全てをリセットする必要がある、そう感じた私はアルケーに残されていた兵器群を地上へ投入し、全てを消去することにした』
「何だと…人類が貴様の思い通りにならないからって、滅ぼすっていうのか!」
『その通りだ。神を神として崇めない人間など、もはや不要だ。我が裁きを受けるがいい』
「ふざけんな! 俺たちは、お前を神として崇めるためだけに生まれたってのか? この世界は、お前が支配する箱庭だってことかよ! 冗談じゃない。人は自由意志を持っているんだ。お前なんかのために生きてるわけじゃない!」
『…あくまでも抵抗する気か』
「当然だ。こっちにだって、人権って物があるんだよ」

 レイは大剣を構えた。

「お前を壊せば、地上の兵器群もストップするんだろ。なら、神様だろうと遠慮なく破壊させてもらうぜ!」

 全魔力を込めて、レイは斬り掛かった。魔力を受けて光り輝く刀身は、その肉塊が入ったミスリルを一刀両断するはずだった。

「‼︎ ぐぁっ…な、なんだ…⁉︎」

 しかしそれも敵わなかった。空中で縛り付けられたかの様に、レイの体は動かなかった。

『愚かな。このミスリルは、貴様らの地表で採取される物とは訳が違う。大地が生成した鉱物ではない、遥か宇宙の果てからやってきた、一種の知的生命体とでも言うべき存在なのだ。当然、内包している力も桁外れだ。それは先ほど見せた映像でもわかるだろう?』
「う…ぐ…!」
『ここまで物理的な距離が近くなれば、もはや心身の掌握も容易いだろう。どれ、その体…頂くとしようか』
「ぐぁぁぁぁっ‼︎」

 レイの頭に激しい頭痛が走った。まるで脳を太い針で何度も尺貫かれているような、鋭い痛みだった。
 次の瞬間、レイの中に様々な感情が浮かんできた。支配欲、独占欲、破壊衝動、虚栄心…ありとあらゆる負の感情が湧き起こり、レイの心を支配していった。

『安心しろ。支配というよりは融合に近い。貴様の心と、私の精神が結合するのだ。そうすれば正しく、私は貴様となるのだ』
「やめ、ろ…俺は、お前の…人形なんかじゃ…」
『本当にそうか? 感じるだろう、己が欲望を。世界に名を打ち立て、富も名誉も女も、全てを手に入れんとする欲が、貴様の中にもあるのだよ』
「ち、が…」
『さあ、明け渡せ。貴様の心を』
「うわああああああああっ‼︎」



 最初に目を覚ましたのはマリアだった。

「う…ん…?」

 目を覚ますと、そこは異様な光景であった。巨大なミスリルの中に閉じ込められた、人間の脳味噌に似た肉塊。そこからは無数にコードが伸び、地面を伝って部屋中に行き渡っていた。

「くっ…なんだ?」
「うぅ…ん…」

 やがてサリーとエレナも目を覚まし、そしてこの部屋の異常さに気がついたようだった。

「げっ、なんだこりゃ⁉︎」
「これは…?」

 そしてそのミスリルの結晶の前で、レイは剣を握りしめたまま立ち尽くしていた。俯いていて表情は見えがいが、とにかく死んではおらず、意識がある事もすぐにわかった。

「お、おいデズモンド! 大丈夫か?」
「平気か、レイ!」
「レイ様!」

 皆レイの前に駆け寄り、その顔を覗き込んだ。

「…平気だよ、みんな」

 そう低い声でレイは答えた。しかしその声には、今まで聞いたことの無いような昏い物や、どこか血の凍るような冷たさがあった。
 それを敏感に察知してか、エレナたち三人はみな怪訝な表情を浮かべた。

「デズモンド…?」
「ま、まあ無事なら何よりだぜ! とりあえず、地上の兵器群をコントロールしてる機械を探そう!」

 違和感を振り切るように、サリーはレイに背を向けて、室内を探索しようとした。



 次の瞬間。



 ドスッという音が響き渡った。


「……え?」

 サリーの腹部を、レイの大剣が貫いた。

「…俺は、大丈夫だよ。みんな」

 その顔に、引きつったような酷薄な笑みをレイは浮かべた。

「さぁ…神の顕現だ」
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