115 / 126
第五章
第十話 創世記
しおりを挟む『ったく、なんであんなに結果が残せないくせに、ここにいられるのかね』
『単純に人が足りないんだろ。そうでなきゃ、あんなグズがここに居れるわけがない』
『やだ、気持ち悪い…こっち見てるわよ』
『人事課に連絡しなくちゃ、セクハラだって』
『ぜってーあいつモテた事とかない奴だぜ、ハハハ!』
(…俺は、違う。お前らみたいな奴なんかとは違うんだ)
そう感じた事も、レイはしっかりと覚えていた。
(お前らも含めた、周りの奴らがバカなだけだ。わかってないか、わかってても認めたくないか、どっちかさ)
口の端が吊り上がる。
(今からそれを、証明してやるよ)
「うぐ…なんだ、これは」
まさしく強烈なフラッシュバックだった。過去の記憶と思しきものが、目の前でまるで映画やドラマのように繰り広げられた。そしてその時に感じた心持さえも、忠実に再現された。
「くっ…とにかく、進まないと」
そうしてそれだけ進んだだろうか。気がつくとレイは巨大な扉の前に立っていた。恐らくはアルケーの中でも重要なブロックであることは、簡単に想像がついた。
しかし、またしてもひどい頭痛がレイを襲った。たまらず膝をつき両手で顳顬を覆ったが、一向に痛みが治る気配は無く、それどころかドンドンと酷くなるばかりであった。
「ぐうっ…ああ、がっ…」
もがき苦しむレイに、またしてもフラッシュバックが起こった。
『やめて! 一体何をするの⁉︎』
『決まってるじゃないか、俺がこいつと同調するんだよ』
『ミスリルとの精神結合が可能だなんて、与太話だって誰もが言ってるじゃない!』
『だからみんな無能だってんだ。こいつが言うなれば、一種の珪素生命体であることはみんな知ってるはずだ。そしてこれは他人の精神を読み取り、性質を変化させる…ならば人の精神を丸ごと結合して、巨大な力を手にすることもたやすいはずだ』
『もし仮に成功したとして、何をする気なの?』
『単純に興味があるだけさ。科学者の知的好奇心ってやつだよ』
『嘘よ! あなたは復讐がしたいだけ。自分を見下したり虐げてきた者たちを、圧倒的な力で支配したいだけよ‼︎』
『もしそうだとして、それの何処がいけないと言うんだ? 因果応報だろうが』
『やめてっ‼︎』
そうして視界が真っ白になった。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
身体中から脂汗を流しながら、レイは肩で息をしていた。
(まただ、あの女…エレナに少し似ていた…)
以前にも夢で見たことがあった。レイの中の独占欲、嗜虐心といった醜い感情を刺激するような、美しい女性。しかし何故彼女がレイの記憶の中に存在するのか、それはわからなかった。
「…ここを開ければ、全部わかる」
しかし硬く閉ざされたその扉は、開く気配を見せなかった。これまでの自動ドアは近付くだけで開いたが、この扉は開かない。それはセキュリティの元々の強固さと、さらにはこの奥のある存在が固く閉ざしているであろう事は簡単に察しがついた。
「俺を舐めるなよ。この程度の扉なら、簡単に開ける」
そう言って、レイは右手に大剣を召喚した。
「はあああああっ!」
きつく握り締めた大剣を、全力で振り回す。その圧倒的な破壊力の前に、分厚い鉄の扉にも大きな亀裂が走った。そしてそれは人一人が侵入するには十分すぎるほどのスペースだった。
「邪魔するぞ」
そうしてレイは中に足を踏み入れた。
中は目が霞むほどに真っ白であった。ホコリひとつ無い、無機的で汚れの無い空間。
その中央に鎮座するものに、レイは恐れ慄いた。
「な、なんだ…これは…」
それはグロテスクな光景だった。まるで氷山のように巨大なミスリルの結晶、その中にはまるで人間の脳のような球体があり、しかもそれは心臓が鼓動するようにリズミカルに蠢いていた。そこから神経のように伸びたケーブルは下部の機械に接続されており、この部屋全体を制御していることが見て取れた。
生理的嫌悪感を催す物体を前に、レイは鳥肌が立つのを抑えきれなかった。
そして部屋の地面には、エレナ・サリー・マリアが転がっているのが見えた。
「みんな!」
そうして駆け出したレイを、突如として引き留めるものがあった。
「ぐああっ‼︎」
レイの全身に電流が走った。それは恐らく拘束魔法の類であったが、しかし術式らしきものは何処にも見当たらなかった上、レイの動きを止められる程の物となると、並大抵の魔力では無理だろう。
『やはりここまでたどり着いたか。現人神の血を引くものよ』
機械的な音声が室内に響き渡った。その声には何処となく聞き覚えがあった。
「り、リチャード…加藤、玲…?」
そう、それは加藤玲の声の声によく似ていた。幾ばくか機械的で感情が篭ってはいないものの、その酷薄な音色は確かに加藤玲の面影を確実に残している。
『リチャード・アレクサンドルとして転生した者の魂か。似ていると言えば似ているだろうな、私は彼の体を借りて顕現した事もあるのだからな』
「な、何だと…お前は、一体…」
『貴様らの住む惑星を造った者だ。”創造主”や”神”といった呼称が一番適しているだろうな』
「か、神…? お前のようなものが神だと?」
恐らくは、この声は目の前の脳髄に似た肉塊から発せられていた。このおぞましい物体が自らを作り、罰し、導く存在だとは、レイにとっては悪い冗談にしか聞こえなかった。
すると、さらに高速魔法は強固になり、レイの全身にさらに強い電流が流れた。
「ぐあああっ‼︎」
『口の聞き方には気を付けてもらおうか。私はお前よりも、ずっと偉大で揺るぎのない存在だ。世界で並ぶ者がいない程の存在の貴様を、こうして容易く拘束している事が何よりの証拠だろう』
「ぐっ…くそっ」
レイも認めざるを得なかった。目の前の物体の言葉通り、地上の英雄となったレイの自由を奪い縛り付けられるほどの魔力を持つ者は、もはや人間の域を超えた何かでしかなかった。
「神だと…? もっと具体的に教えろよ、お前は一体なんだ?」
『先ほども述べたとおり、私は貴様らの住む惑星の創造主だ。はるか昔、このアルケーで秘匿・研究されていた巨大なミスリルの結晶体と同調し、またこの周囲一体のコロニー軍を制御・統括していたスパコン”Divus”を掌握した』
「ど、同調…? じゃあ、あれは全部、俺のじゃなくてお前の記憶…?」
『…そうか、肉体の記憶に精神が引き摺られたか。その質問には明確な答えが存在しない。確かに私の物であると言えばそうだが、それと同時にお前の記憶でもあるのさ。お前の魂と記憶が、その肉体に宿っている限りはな』
「??? 一体、何を言ってやがるんだ…?」
『あれは確かに”私”の記憶だ。だが”私”という存在を定義する人格は既に失われた。いや、他の人格と統合され、今は全く別のものに変貌したのだ』
「…?」
レイには目の前の物が何を言っているのか、まるで理解できなかった。
『ピンと来ないか。ならば教えてやろう…最初から、全てをな』
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる