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第五章
第六話 ミッシングリンク
しおりを挟む「なるほどな…そのアルケーに直接アクセスする必要があるわけか」
「ええ。そうなると、まだワープシステムが生きている”ラムダ”に向かうための装備が必要になります」
レイはザイオンから持ち帰った情報を、マリアやニコラス、そして教会への情報開示ということで赴いたエレナとサリーに全て共有した。
「ここからハッキングするのは無理なのかい?」
「ええ、それは俺も試してみましたが…どうやらアルケーの通信システム自体が既にシャットダウンされているようです。そこから情報を得るには、直接乗り込んで情報を引き出すしかないでしょう」
「しかしまあ、宇宙っていうのは、単純にこの空の向こうなわけだろ? 魔力さえ持てば、直接乗り込めるんじゃないか?」
周囲の人間の話を聞く限りでは、どうやら天文学は発達していても、宇宙工学はこの異世界においては発達していないようだった。
「サリー。宇宙空間ってのは無重力空間で酸素がない空間なんだ。つまり、呼吸ができない。ついでに気圧もゼロだから、何の装備もなく宇宙空間に出たら、一気に身体中の水分が蒸発して死ぬ。俺の魔力で防護していても、無事に宇宙空間で活動できるかどうかは定かじゃないんだ」
「げっ! マジかよ…とんでもない所なんだな」
「…よかろう。調査隊を編成し、北の大地へとむかわせよう」
しばらくマリアは腕を組んで思索に耽った後、言った。
「調査隊の指揮は、デズモンドにとってもらう。それが一番安全で早いからな」
「はい。ありがとうございます」
次の瞬間、緊急事態を告げるサイレンの音が鳴り響いた。
「⁉︎」
「何事だ!」
突如として鳴り響いた警報音に、その場は騒然となった。
「へ、陛下! き、緊急事態です‼︎」
息を切らして、王国軍の一人と思しき男が走り込んできた。
「突然上空から、鋼鉄の物体が…今、映像が出ます!」
そしてその兵士は、術式によるモニターを複数展開させた。そこには信じ難い光景が映されていた。
「なっ⁉︎」
「嘘だろ…これは一体?」
モニターに映された映像にレイを初めとした全員が自らの目を疑った。突如として上空からガンメタル色をした、非常に巨大なカプセルのような物体が降り注ぎ、アズリエルやシーア、アガルタといった各地の地上に墜落した。
そして中から出てきたのは、レイがザイオンで対峙したロボット兵たち…さらにはそれよりもずっと巨大な、SF作品でしか目にしないような巨大戦闘用ロボがいくつも出現した。
この異世界の科学力を遥かに超越した兵器群に対し、現地の兵士達は果敢に立ち向かっていった。しかし自らの技術を超えた物体に対し、兵士たちは為す術無く一掃されていった。
さらにその兵器群たちは市街地を蹂躙し、無差別に破壊を繰り返していった。映像の中では、ただ悲鳴と絶叫が鳴り響くのみであった。
「全世界で未知の兵器軍か降下中…現在も、複数の巨大な金属反応が各地の上空で感知されています!」
「なんという事だ…全兵力を持って殲滅しろ! なんとしても犠牲を増やすな」
ニコラスは拳を握り締めながら兵に命じた。
「恐らく、これは…」
「間違いありません。アルケーから差し向けられたものでしょう。理由はわかりませんが、どうやら奴らは世界を丸ごと破壊し尽くす気らしい」
「…もはや一刻の猶予もない。レイ、今すぐに北の大地に行ってくれ。何としてでも、この兵器群の親玉を止めるんだ」
「はい!」
そこに、エレナとサリーが割り込んできた。
「レイ様が行くなら、私だって行きます! レイ様を助けるのは、私の役目なんですから!」
「お前ばっかカッコいいところ持ってくなよ。あたしも一応先頭要員だぜ」
そしてそこにはマリアも加わった。
「私も同行させてもらうぞ。他の要人たちは纏めて退去しているだろうが…あいにく私はそこまでか弱い女じゃない」
「みんな…」
「決まったな。レイよ、姉上たちを引き連れ、アルケーを止めに参れ!」
「…はっ! 陛下の御心のままに」
そうしてレイは跪いた。
そうして訪れた北の大地は、想像以上に過酷な環境だった。
氷点下50度を超える超低温、病原菌でさえ生息しない程の寒さと、激しい吹雪。レイとエレナの加護魔法を全員にかけなければ、確実に皆凍死していることは明白だった。
加えて時折起こるホワイトアウトもレイたちの行手を阻んだ。突如として全員の視界が白く覆われ、全員の位置を把握する事が出来なくなると、止むを得ずに足を止めるしかなかった。
「みんな、いったん止まるんだ! 視界が元に戻るまで移動しちゃいけない!」
何度目かのホワイトアウトに、レイは声を張り上げて周りの人間に伝えた。
「ちきしょう、なんて場所だよ…こんな景色、写真でしか見たことないぜ」
「無理もない話だ。ここはその極限状況ゆえに、ほぼ未開の土地なんだ。私もここまでの吹雪など、お目にかかった事がない」
「私もです…まさかこんな土地があったなんて」
皆が口々に、この自然の脅威に対する畏怖を口にした。それは無理からぬ話であった。人が住むことを許容しない、全てを拒む自然の脅威というのは、確実に存在する。それらにより自らの命さえも危ぶまれるのであれば、誰もがみな恐れを口にするであろう。
「大丈夫、大きな金属反応はもう少しだ。あとちょっと先に進めば、ラムダが見えてくるはずだ」
レイのいう通り、巨大な物体の反応が二キロ以内に感知された。しかもそれは地上に存在するようであった。あともう少しだけ進めば、それは肉眼で確認できるはずだった。
そのまま歩みを進めていくと、一行の目の前に洞穴が現れた。それほど巨大なものではなかったが、遠目からでも確認できる程の大きさはあり、間違いなくあの中にラムダがあることを予感させた。
「洞穴…恐らくあの中だな」
「ウェ~、早く入ろうぜ! この風をなんとか凌ぎてぇよ」
「確かにそうだな…私も少々寒い」
「す、すみません…努力はしてるんですが、こうも気温が低いと魔力の消耗が激しくて…」
先ほどから全員にレイとエレナで加護魔法をかけ続けていたが、それでも皆が寒さを訴えるほどに、この北の大地に気温は低かった。もちろん効果を増強させるくらいなら訳無いことだが、しかし先に何が待ち構えているかわからない状況を考えると、魔力をできうる限り温存しておくのが賢い選択肢ではあった。
そうしてレイたちは中に足を踏み入れた。
中はどうやら自然の洞窟らしく、入口こそ非常に狭かったものの、中には一つの都市が丸ごと入りそうなほどの空洞になっていた。あいも変わらず温度は低いままだったが、しかし風邪を凌げるぶん寒さは格段に減った。
「ふい~、やっと少しはマシになったぜ」
「ああ。少々応えたな」
「暖を取りたいところだが、急ごう。時間は少ない」
そう言うと、レイは先陣をきって歩き始めた。測定魔法によれば、ここから少々先に行ったところに、巨大な金属反応が発見されていた。それはつまり、レイたちが探し求める居住コロニー”ラムダ”に他ならないからだ。
そうして進んだ先に、一行はついに発見した。とてつもなく巨大な、まるで一個の山岳のような氷塊の中に埋れた、円盤状の金属…恐らくそれがラムダであることに間違いは無かった。
「これが、ラムダか」
「これは…」
「ま、マジかよ…」
「すごい…こんな巨大な乗り物があるなんて」
エレナが驚くのも無理はなかった。おそらく異世界でも大きな飛空挺のおよそ10艇分をゆうに超えるであろう体積、加えてこの時代の科学力では到底及びつかないようなフォルムやデザイン…それは見るもの全てを確実に畏怖させた。
「こんなものが…神話の時代よりも昔に存在していたというのか?」
「恐らくはそうでしょう。50000年前の地層から発掘されたとなれば、恐らくは人類の誕生以前に、こういった巨大な建築物が存在していたことになる」
「お、おい…なんか私ら、とんでもねえ発見をしてるんじゃ…」
「大分今更だな。恐らく私たちは、人類誕生に関する重大な発見をしている。レイから報告を受けた時に感じなかったか?」
「うぉぉ…なんか鳥肌立ってきた」
普段なら即座に反応しているであろうマリアの嫌味にも言い返せないほど、サリーは動揺していた。それほどまでに狼狽するほど、目の前の金属の塊はこの世界において異常な存在だった。宇宙工学が未だ発展していないこの世界において、レイですら及びつかないほどの科学力の産物を目にしているのだ。
「⁉︎」
突如として轟音が響き渡った。洞窟内に反響するその音は、複数の巨大なロボット兵による足音であることがわかった。光沢のある金属的な外皮、球体が剥き出しになった関節部、モニターが透けて見える頭部は、まさしく科学力が生み出したモンスターと呼ぶに相応しいものだった。
『ザー…ピー…警告します。コロニー”ラムダ”防衛プログラム第23条により、我々による武力行使が認められています。速やかに退去してください。従わない場合、殲滅いたします』
「仕方ない…三人とも、下がって!」
「おいおい、何を言っている。こんなところでお前が消耗する事もないだろう」
「そうだぜ、レイ。一応私らも戦闘要員なんだからな」
そうして、サリーとマリアが前に出た。
「足を引っ張るんじゃねぇぞ、政治屋」
「それはこっちのセリフだ、脳筋」
「うるせぇ、後で覚えてろ!」
お互いに憎まれ口を叩きながら、戦闘が始まろうとしていた。
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