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第五章

第五話 地球

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「起動コロニー…そういったか?」
『はい、この”ザイオン”は地球衛星軌道上の居住コロニー群の一つです』
「地球…」

 アズリエルをはじめとした異世界人が自らの済む星をどう読んでいるのかは判らなかったが、少なくとも”地球”という言葉を使う文明人は、恐らくレイが住んでいた星の人間以外にいないだろう。

『履歴や貸し出し期限等をお調べになる場合は、ログインをお願いします。それ以外の方は、ゲスト利用になります。どちらにされますか?』
「あー…ゲスト利用でいい」
『かしこまりました、ゲスト様。本日はどのようなご用件でしょうか?』
「その、図書館利用以外のことで聞きたいんだが、問題はないか?」
『守秘義務や倫理規則に抵触しない限りは、お答えいたします』

 クラインと呼ばれたホログラムは、機械音声らしい抑揚のない声で言った。

「なら始めに…お前はAIシステムと言ったな」
『私はAIシステム・クライン。このザイオンの至る所に偏在し、居住者全てにサービスを提供いたします』
「…例えば、至る所のコンビニにお前がいるわけか」
『その通りです。私は同じ時間に複数存在でき、あらゆるお客様のご要望に同時に対応いたします』

 簡単なAIは例の住んでいた時代にもあったが、ここまで発展した物は無かった。おそらくはレイの住んでいた時代よりも遥か未来であることが予測された。

「…この場所の詳しいことを教えてくれ。ここは地球衛星軌道上に存在するコロニーといったな」
『はい。このザイオンは宇宙空間という永久中立地帯に、永遠の繁栄と平和を約束された居住空間です。このザイオンでは一般市民が通常通り生活している他、宇宙空間という未知の領域における最先端の研究が日々行われています』

 人が住む街であるのと同時に、どうやら研究都市としての側面も持っていたようである。
 レイは角度を少し変えて質問してみた。

「お前の存在していた時代について聞きたい。一番新しい記録は西暦何年だ?」
『現在は西暦2658年です。』
「に、2000…?」

 どうやらレイが生きてきた時代から見れば、遥か未来の世界からやってきたものらしい。

「…なぜ今、ここには誰もいないんだ? 何かトラブルがあったかのか、記録を見せてくれ」
『エラー発生。守秘義務に抵触します。お答えできません』

 ”!!”の表示と共に、ビーッ!という音が鳴った。直接的な問いかけが無効なら、回り道をして結論を導き出す以外に道はなかった。
 先程からの話では、このエリアでは最先端の研究が行われていたという話である。それならば、何かしらの実験のアクシデントが原因でこうなったことも予測された。

「ここで行われていた研究とは何だ?」
『多岐に渡ります。無重力下における生物の成長や進化、宇宙空間における索敵・迎撃マシンの開発、また精神感応金属”ミスリル”の研究などが挙げられます』
「! ミスリル…?」

 それは現世でなく、この異世界でよく口にされる言葉だった。精神感応金属”ミスリル”は術者の魔力を増幅させたり、また自由自在にその姿を変形させる魔法の金属。現世では存在しない物質のはずであった。

「その”ミスリル”というのは何だ?」
『ミスリルとは2513年から発掘され始めた新しい金属の名称です。最初に発掘されたのはアメリカ大陸ではアラスカ、ヨーロッパではアイルランド、アジアでは朝鮮半島で発掘されました。その後カナダやアメリカ、インドや中国、日本といった世界各地で次々と発見されました。
 人間の脳波のような微弱な電気パルスを感知し、形状や性質を変化させる全く新しい金属は、世界各国で急ピッチで研究が進められてきました。工業や化学、軍需産業に至るまで、幅広い用途での応用が現在も期待されています』

 クラインが語る限りでは、どうやらこの異世界とミスリルの性質や用途はほぼ一緒のようであった。
 魔力を感知してそれを増幅させるブースターの役割でもあり、アズリエルでもミスリル弾やブレードなどの軍事利用はすでに行われている事である。
 おそらくは何かの実験中の実験の影響で、ザイオンが機能停止に陥ったと見るのが推測としては一番正しいであろうとレイは考えた。
 しかしこれ以上クラインに問いかけてみても、機密漏洩にあたるとして答えてはくれないだろう。そうなると、クラインのシステムの中枢に直接アクセスする必要があるとレイは感じた。

「ザイオンは衛星軌道上のコロニー群の一つだったんだな? なら、その他のコロニーを統括しているものは何だ?」
『このコロニー、ザイオンをはじめとするコロニー郡は、それらへの政治・行政機能を持つ人工衛星”アルケー”によって制御、統括されています』
「アルケー…なら、そのアルケーの座標はわかるか?」
『こちらの通りです』
「…!」

 表示されたマップを見てレイは驚愕した。ザイオンの位置を示すポイントのすぐ斜め上に、アルケーの位置を示す点は表示されていた。それはつまり、アズリエルのあるこの星の真上に、今もそのアルケーが漂っていることに他ならない。

(こいつから直接情報を引き出せれば…しかし、どうやって向かう?)

 レイがチート能力を持っているとはいえ、生身のまま宇宙空間で生きられるかどうかは不安が残った。



「ここからそのアルケーにアクセスするには、どうすればいい?」
『現在、相転移ワープシステムの故障により、ザイオンからのアクセスは不可能。検索中…少々お待ちください』

 数秒の後に、クラインが答えを表示した。

『現在地から6000キロ北西の方角に、コロニー”ラムダ”を確認。相転移ワープシステムが現在も稼働し続けていることが判明しました。管理者権限か、その許可を提示すれば、アルケー内部へワープ致します』

 しかしそこまで北ともなれば、恐らくは北極圏のはずだ。採掘には少々手間取ることも予想された。
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